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    emotoruma

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    emotoruma

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    無印オロチに萌え滾っていたころに書こうとしていた長編泰権小説の断片。
    個々のシーンを繋げるのも今更なので、シーン説明を付けてそのまま載せます。
    孫権側からの視点で呉ストーリーをなぞりつつ、その中での泰権を描きたかった。

    故国/護国/呉国= 夏口の戦い 幕後 −離反した孫策を追ったが逃げられた後で− ===

     いくら無鉄砲なところがあるとはいえ、小覇王と呼ばれる兄のことだから、勝算がなかったわけではないだろう。
     はじめは軽率な行動に腹を立てもしたが、先日の夏口での言葉どおり、事情があって失敗したのだろうと今は思っている。
     現に、父と共に囚われていたであろう蒋欽は孫策軍に加わったとの情報を得ている。つまり、単に離反したのではなく、父を救出しようとして叶わなかったのだろう。
     失敗を責めるつもりはない。私にそのような資格はない。
     自分自身、敗戦を何度も経験した。父や兄と違って戦の不得手な自分のほうが失敗の数は圧倒的に多いだろう。
     だが、今回ばかりはあまりにも拙速すぎたのだ。
    「兄上…」
     止められなかったことを、悔いても遅い。
     孫権が、妲己と諸葛亮の要請に従い周泰を連れて呉郡に赴いている間に孫策が行動を起こしてしまったのだ。
     しかしこうなってしまった以上、何とかして遠呂智の信用を取り戻さなければいけない。
     孫権は苦い顔のまま、彼方をにらみつけた。
    「…しかし、この空はなんとかならんものか。
     まったく、気が滅入るな。」
     暗くよどんだ空を見上げ、鬱々とした気持ちで、孫権は独り言ちた。
     かつての呉の地を想う。青い空と青い江。父や兄らと共に船上にいたところを、突如としてこの世界に連れてこられたのだった。
     孫権の横に控える偉丈夫は、気遣うような視線を遣り、しかし何も言わなかった。


    = 関ケ原の戦い 幕前 −妲己から孫策軍を討てとの命令を受けて− ===

     そう、私はもう決断している。道はただ一つだと知っている。
    「戦うべきか否か…どうすればいい?」
    「…俺は…孫権様の決められたことに従うのみ…」
     この男のこれは、突き放す言葉ではない。判断を放棄しているのでもない。
     愚直なまでに忠義深い男は、だが決して愚鈍ではない。
     その冷静な判断力は軍師も含め皆が認めるところで、言葉は少ないが人の意を汲み取って先んじて行動することのできる人間だ。
     だから彼がこう言うのは、私の心がすでに決まっているからだ。
     現に、彼のまなざしは、悲哀をにじませた気遣いをこめて私に注がれている。


    =関ケ原の戦い −陣中、尚香が孫策に敗れた報を受け取って− ======

    「孫権様!孫尚香様が敵の縄目に!」

     …そうか。あの子にはつらい思いをさせてしまった。人一倍家族思いの妹は、どれだけ心を痛めたことだろう。
     おそらく、兄上の軍に捕らえられたのならば、誤解は解ける。兄は、決して妹を殺すような人ではない。
     …兄上、尚香を頼みましたよ。
     そして尚香、優しいお前の家族を想う気持ちを、知りながらなお傷つけた私を許してほしい。
     だが今、この危機さえ乗り越えれば、小覇王・孫策の下で、必ず孫呉はもっと強くなる。
     そのためならば、私は鬼と呼ばれようとかまわない。
     それが採るべき道ならば、私はあえて修羅となる。

     かつて、この世界に来る前に配下の将に対して言ったことがある。
     敵を討ち果たす勝ち戦も、兵を失う負け戦も、すべて私の決断によるものなれば。
     みじめな結果も、深い業も、すべて私のせいだと。
     だから私は命じる。お前たち将兵には修羅になれと。
     罪も業も私が負うから、お前たちはただいかんなく知勇を奮ってくれればよいと。
     父は、敵する者の怒りさえ受け止めることのできる、度量の広い人だ。
     兄は、将兵に夢を信じさせることのできる、人望の厚い人だ。
     そのどちらも足りない私は、せめて散りゆく者たちの思いと失われた命を背負っていこうと。

     誰かがやらねばならないことだから。
     孫呉の英雄たる兄を疑った、暗愚の弟と評されようと。妹の懇願を振り払った、血も涙もない兄だと言われようと。
     忠臣を欺き、孫呉を分断に追いやろうとした悪逆として処断されればそれでいい。
     そうすれば、父の身柄を案じていまだここに留まっている古参を含めた孫呉の臣も、遺恨なく兄に渡すことができるだろう。
     私の兵ではない。孫呉の兵だ。
     父に心服し、兄の下に集まってきた、大切な孫呉の臣たちだ。

     …だが、兄上の人望に惚れて仕えたというのなら、おまえも。
     それはほんの一瞬だけ通り過ぎた気の迷いであったけれど。目の前が真っ暗になるほどの絶望だった。

    「…周泰、ついてきてくれるか。この不本意な戦に。」

     思わずこぼれてしまった呟きに、

    「……地獄までも……従う覚悟なれば……」

     返ってきたのは、泣きたくなるほど優しくて、息が詰まるほど鋭い言葉だった。


     私の心が決まっているときは、ただ聞いてくれるだけで。
     思っていることを口に出せとねだっても、はじめはいつも困ったように謝るだけだったけれど。
     本当に、私の心が揺れたとき、必ずこの上なく的確な言葉をくれるから。

     ああ、信じているよ。
     おまえは、私の腹心。


     心と裏腹の立場など、私だけが負えばいい。真にそう思う。
     だからこれは唯のわがままだ。
     けれどその言葉は、その誓いは。
     たとえどんなに意に沿わぬ場所だろうとかまわぬと、どこまでも、来てくれると、


     なあ、今、斜め後ろに控える静かな影よ、

     そこは、お前の最も在りたいと望む場所だろうか−−−−−−−−−−−



    =小牧長久手の戦い −孫堅・孫権父子が足止めを食らった砦の壁を孫策軍が破って− ==

     一陣の突風が吹いたように、左右の敵が弾けて散った。
     振り向かなくてもわかる。大きな黒い影が、私の後ろに。
     …おまえが、
    「お前が来てくれたのか!万人の兵より心強いぞ!」
     それは、いつか見たような、けれどまだ見ぬ風景。牛渚のような、合肥のような。
     楽進を、于禁を、魏の名だたる将を相手取り。一太刀で囲みを破り、返す刀で徐盛を救い。
     かつて、将兵に対して修羅になれと命じたことがあったけれど。
     彼を、誰が鬼といえるだろう。
     その身を顧みず、ひらりひらりと風のように敵陣を裂き、瞬く間に将兵を救っていくその姿は。
     まさに護国の刀神たる姿そのものではないか。

     私たちを追っていた三人の敵将を討ち取って、ちょうど後から兄上と尚香が来たのを確認すると、
     ふいと身を翻して駆けてゆく。
    「あっちでは、古参の奴らが囮になってくれたんだぜ。」
     父に向けた兄の言葉に納得する。
     …そうか、助けに行ってくれたのか。
     反撃の牙を突き立てるべく、進軍の歩みを速めながら、小高くなったところから中央を横目でうかがう。
     遠くからも響いてくる剣戟の音、土煙の合間に見える白刃の煌めき。
     姿が見えなくなったかと思うと、黒い駿馬に乗って、今度は再びこちらへと。
     立ちふさがる董卓に刃を浴びせ、司馬懿を退け、そして妲己を相手取り。

    「妲己…てめえだけは許さねえ!」
     兄が。父が。妹が。
     朱治が、程普が、徐盛が、諸葛瑾が。孫呉の新旧の臣たちが。
     ようやく揃って真の敵に対峙する。

     私の守ろうとしたものが、ここにある。

     この意をお前はすべて…汲んでくれたのだな。
     お前はきっと、護国の力。私と孫呉を守る、黒衣の守護神だと。


    =小牧長久手の戦い 幕後 -孫策軍が孫堅・孫権親子を救出した数日後に- =====

    「なにしろほとんどの将兵をお前が倒したのだ。
     もちろん、いずれ父上より報奨が下るだろうが、私は、私個人としてお前の功に報いたいのだ。
     こんな状態の世だが、それでも建業の城はあるし、大阪城も使える。大抵のものは用意できるだろう。
     何か、欲しいものはないか?」
     周泰はいつもどおり辞する態度をとろうとしたが、しかし何かを思い直したように口をひらいた。
    「…では…青い、傘を…」
    「傘?傘蓋か?」
    「…はい…」
     予想外の要望に、孫権は不思議には思ったが、普段何も欲しがらぬ男の珍しく告げられた望みに是非もなかった。
    「うむ、分かった。すぐに用意しよう。」

     それからしばらく経ったある日。孫権は建業城の中庭に周泰を伴い、手に持っていた豪奢な箱を開けて言った。
    「約束の傘だ。…しかし、お前は日傘など使ったことがあったか?」
    「…いえ…卑しい育ちゆえ使ったことはなく…。武を奮うほか能もないためこれから使うつもりもありませぬ…」
     確かに、浅黒い肌、江賊であったという過去に船上で照りつける太陽に日がな焼かれていただろう彼が、日傘などを差す姿は想像さえし難かった。
    「ではなぜそのようなものを望んだのだ?」
     その問いに周泰はすぐには答えず、無言のうちに傘蓋を広げると、孫権へと差し掛けた。
     ふわりと淡い青の影が孫権の上に落ちてきて、すっと清涼な空間がそこに現れたのに、孫権は思わず息を飲んだ。

    「…たとえ、染められたものであれ…見上げた先が、あおく、あれば…」

     あなたの心も晴れるかと。


     最後の部分は周泰の口から発されることはなかったが、当然のように孫権には伝わっていた。


     …ああ。
     あんな、些細な会話を覚えていたのだな。

     私は、おまえに褒美をと言ったのに。
     まったくお前ときたら、いつも私のことばかりで。

     呆れて、でもそれ以上にうれしくて、胸の内からこみ上げるものを感じながら、孫権もまたあえてその言葉は言わなかった。
     代わりに、強くうなずいて言う。
    「…何事も心の持ちようということか。
     孫呉とは、場所のことではなく、こうして志を共にする、君臣、将兵、人々そのもののことをいうのだ。」


     隠しきれない嬉しさをにじませて微笑みながら語る孫権を、まぶしいものを見るように周泰が見つめると、
     まっすぐに周泰を見上げてくる孫権の碧の瞳に傘の影が重なって青みを増したのが、
     空の色のようにも見え、
     やがてじわりと涙が滲んで潤んだ色は江のいろにも見えた。

     青い空と青い江と。

     このひとは、その身に呉の地を映しているのだと思った。

     たとえ立つ地がどこであろうと、それが地獄であろうとも。


     自分にとっての帰るべき場所は、その意味での呉国とは、この方の傍にほかならないのだから。

     


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