風の贈り物 #2 桜の決意「…ほんまに、綺麗やった」
帰宅後、いつものように談笑しに牢へ訪れると珍しくこはくの方から話を始めた。
決まりを破り外に出たこと、朱桜家の敷地に入ったこと、そこで一人の女性に目を奪われたこと。前触れもなく語られるには内容が突飛しておりかなり困惑したが、こはくの目は至って真剣だ。
「…姿、見たんか?」
「いや、御簾がかかっとったから見えたんは赤い髪だけや。風が吹いたときにふわぁっちなびいてな」
(……赤い…髪…)
途端、先程から感じていた胸騒ぎが一段とざわついた。思い当たる人物が一人、いるのだ。
仕事上朱桜家の内情は全て桜河に筒抜けであるから、人物の容姿はもちろんのこと誰がいつどこで何をしているかさえ把握している。自分の知る中では赤髪の女性なんて特徴的な人は一人しか思いつかない。しかもその人はちょうど今日、一日家にいたはずだ。
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