「さみしいわ。やっぱり、あんたがここからいなくなるというのは。覚悟はしていたけど」
「…自惚れてもいいんか?」
「え?」
「離れるのがさみしいって、おまえが思うのはオイラだけだって」
「…今更よ」
「でも、オイラはおまえの口から聞きたい」
「…悪趣味」
「それくらい、聞けないと」
「聞けないと?」
「…朝まで一緒には、とても、いられそうにない」
だってそうだろ。何の確証もなくそんなこと、恐ろしくてできるはずもないから。
「意気地なし」
「すまん」
「……一度、だけよ」
「うん?」
「一度しか言わない。聞いたらすぐ忘れなさい」
「…それはどうか」
「葉」
「うっ」
襟元を目一杯引っ張られて息が詰まる。待てこのままじゃしぬ…と思ったところに、アンナのものとは信じ難いほど、か細い声が言った。
「……さみしいわ…あんたがいなくなると、さみしい」
「アンナ」
「…葉、すき」
き、の声が届く前に体は腕の中に落ちていた。さみしさも、明日からの途方もない日々も、何もかも考えたくなかった。ただあるのは好きという気持ちだけで、それだけを感じていたかったのだ。