玉兎の前口上 月からやってきたかぐや姫は、老夫婦に拾われて幸せに育った。
でも、月から落ちた、お姫様でもなんでもない、ただの兎は──どうなるのだろう。
ぼくの目が異常だと気づいたのは、随分と小さな頃だった。夜のお仕事をしている時、ぼくが見つめた人が倒れてしまったのだ。
原因はわからなくて、解決法も不明。でもぼくはなんとなく、「ぼくの目のせいだ」とわかってしまった。
それから、人と目を合わせないようにして生活していた。どこから話を聞きつけたのか、ヴィクトルさんがぼくを拾うまでは。
ぼくは、かぐや姫の呪いつき。目を合わせた人の精神を、月の狂気に接続するもの。そういう目で、そういう体。
直接的な戦闘能力はないけれど、足止めには十分で……ただ、生かしておく必要がある時にはぼくの力は重すぎるから、お留守番になることも多かった。
けれど、ある日の任務は違って……みんなと一緒の任務があって。そんな中、一人、迷い込んでしまった人がいたようだった。まるで、不思議の国に迷い込んだアリスのように。
クラウンのみんなに囲まれても、怯えた様子を見せない強い人。でもその奥に、なにか空虚なものが見えてしまって……ぼくは、心配で。
そう思ったのは、偽善だろうか。ジュードさんやアルフォンスさんから言われたことを、ふと思い出す。けれどまぁ、いいか。偽善だとしてもなんだとしても、なにもしないよりはよほどいいことだと思うから。