何も言わずとも 快晴にして、気温も正常。青い空の下、二人の後をついていく。
「姉上! あちらにぬいぐるみの専門店があるそうです!」
「専門店……! 今行こう、すぐ行こう!」
「(ま、まだ買うんだ)」
私の両腕には、既に大きな紙袋がかけられていた。その中身は大量のぬいぐるみ。大きなものから小さいものまで、その種類も問わず入っている。
「セレネ! 置いていってしまうぞ!」
「は、はぁい!」
まあでも、フィオ様のあの顔を見ると、なんでも許したくなってしまうのだけど。
「つ、疲れた……」
「もうへばっているのか? 鍛えが足りんな」
「フィオ様たちと一緒にしないでほしいんですが……!!」
ひと段落ついて入った喫茶店で、荷物を下ろした瞬間疲労が襲う。ぬいぐるみも積もれば重いものだ。
「すまない……貴殿が持ってくれるからと、つい甘えてしまったな」
ロン様が申し訳なさそうに目を伏せる。
「えっ!? い、いえ、そんな……! あたしは全然、荷物持ちとして来たので! お気になさらず……!」
慌てるあたしを一瞥して、運ばれてきたアイスココアを飲むフィオ様。この人の遠慮のなさは、年々悪化していやしないかと思う。ロン様が言うには「姉上は貴殿に甘えているんだろう」らしいけど……。
「セレネ、さっき買った猫のぬいぐるみは?」
「猫なんていくらでも家にあるのに〜……はいはい、これですね」
さっと袋から取り出して手渡すと、ロン様が不思議そうな顔で見ていた。? そんなにおかしなことをしただろうか。
「どうしました?」
「以心伝心、だなと思って」
「へ!?」
驚きで椅子から転げ落ちるかと思った。だってこんなの当たり前みたいなことで、あたしもフィオ様も意識してたわけなかったから。
「今日買った猫のぬいぐるみだけでも、ざっと5体はあったはず。だというのに貴殿はすぐに見つけてみせた。それが以心伝心でなくてなんと言うのだろう」
にっこりと笑って言っているけれど、あたしの頭は真っ白だ。どちらかといえば、姉妹の方が絶対通じあっていると思うけど。
「そ、そうですかね……あたしはいつも通りにしてるだけっていうか……」
「それが特異なのだろう。私たちとて、姉妹だからといって何もかもわかるわけでもないしな」
ロン様はふわりと笑って、そのままアイスコーヒーを口にした。実の妹がそう言うのなら、信じてもいいかもしれない。
甘えてもらって、通じあっていて。そんなの、あたしにはもったいなさすぎる、とか思うけど。
「なんだ、考え事か。要らんならそのミックスジュースはもらうぞ」
「あ!? ダメですダメです! これわりと高かったんだから!」
あたしのミックスジュースを狙うフィオ様からコップを取り上げ、即座に口にする。まったく、油断も隙もない人だ。でも、そんなところも愛おしい。
「……えへへ。あたし、フィオ様のことだいすきです」
「なんだ突然」
「フィオ様は? あたしのこと好きですか?」
首を傾げて訊いてみる。すると、彼女は藤色の瞳を瞬かせ、すぐに逸らした。
「言わずともわかるだろう」
「ふふ、そーですね!」