【MH夢】星と出会う この世は平等ではなく、理不尽に満ちて、光の当たらない場所に行ってしまえば苦しみ続けることになる。
……なんてことを思ったのは、いつだったか。少なくとも、あたしの「人生」ってやつはそういうものでできていた。
だから、諦めている。路地裏から見る幸せな世界は、自分には得られない。毎日ボロボロになっては小さな鳥竜を狩って、その肉でどうにか耐えるだけ。そう、思っていたのに。
その日は最悪だった。ランポス一匹かと思えば、すぐに仲間を呼んで……その上、ドスランポスまでやってきた。どうにか逃げ出したけど、足も腕も何もかも痛くて、今にも意識が途切れそうで。
あたし、ここで死ぬんだ。何も得られず、何からも愛されず。いつか見た家族連れみたいな幸せなんて夢のまた夢で、このまま……そう、思ったのに。
「貴殿、無事か?」
……? 声がする。それに、閉じたはずの視界がいやに眩しい。そう思って目を開けると、とても綺麗な人がいた。
「いや、無事なわけはないな……少し待ってくれ、応急処置なら私でもできる」
そう言って、テキパキと傷口を水筒の水で濡らし、布で拭い、自分の服をちぎってそこに巻いていく。驚くほど手際がよくて、あたしが止める暇もなかった。
「よし。これで大丈夫だろう……もう動いてもいいぞ」
「え、えっと……あの、ありがとう、ございます」
呆けていた頭を叩き起して、どうにかお礼だけは伝える。すると、その人は微笑んで「気にするな」と言った。
「私が放っておけなかっただけだからな。貴殿が気にするようなことではない」
そう、なのだろうか。少なくとも、この人がそう言うのならそれでいいのかもしれない。
とは思いつつ、せめて何かしたい。そんなことを考えていると、その人はあたしの顔を覗き込んできた。
「ああ、お節介だろうが、せめて家までは送ろうか」
「え……と。あたし、家、ない、です」
素直にそう伝えると、「す、すまない」と謝られてしまう。そんなつもりはなかったのだけど。
「だが……そうすると、貴殿は普段どこで生活しているんだ?」
「ええと、路地裏の方に、います」
たぶん、そういう呼び方で合っているはず。すると、その人は少し考えた後、手を差し伸ばしてきた。
「なら、私の家に来ないか? 応急処置をしたとはいえ、傷が治ったわけではないし……それに、貴殿を放ってはおけない」
「え……」
平然と言ってのけたけれど、それは人が一人増えるということだ。それは、本当にいいのだろうか? あたしは、あたし一人を繋ぐだけで手一杯だから、躊躇ってしまう。
「……私が、貴殿に来てほしいと思っているんだ。それではいけないだろうか?」
「ほ、ほんとに、いいの?」
「ああ。きっと家族も受け入れてくれる」
そう言われると、ついて行った方がいいように思えてくる。捨ておいてもいいような路地裏の人間を助けるようなお人好しに、悪いことが出来るとは思えなかった。
「じゃ、じゃあ。あの……よろしくお願いします」
「……ああ!」
「そんな頃もあったな」
うさ団子を食べながら、昔の話をすると、フィオ様はそう言って微笑む。
「今思うと、向こう見ずにも程がある。子供の一存で人を拾うなんてな」
「あはは、そうですね。でもそのおかげであたし、ここにいますよっ」
にっこり笑って返すと、「たしかにな」と笑い返される。
「お前が王国騎士になると言った時は心配したものだが……いつの間にかこんなに強くなって。私の心配は杞憂だったようだな」
「そ、そうですかね!? あたし、これでも必死だった感じなんですけど……」
モンスターの生息域の拡大、爵銀龍の襲来、深淵の悪魔の出現……そういったことに追いつけてきたとは思えなかったし。だから、フィオ様の評価はあたしにとってしっくり来ないものだった。
「必死なのは間違っていない。それでも、私や猛き炎にとって必要な情報を集めてくれていただろう?」
「それ、は」
だって、喜んでもらいたかったから。あたしは知識も力も、フィオ様や猛き炎に及ばないから、情報収集しかできることがないだけで。
「本当に助かった。私が倒れていた間も、騎士たちを纏めてくれていたようだし」
「ぅ……」
「あの日お前を連れ帰ったのは、騎士になってもらうためではなかったのだが……こう考えると、お前の意思を尊重して正解だったようだ」
褒めすぎ、だと思う。でも、そう言われると嬉しくなる。
「フィオ様、そんなに言うとあたし、調子に乗っちゃいますよ」
「それは困る。お前には、まだしてもらう仕事があるからな」
……そうだ。あなたが騎士である限り、あたしもまだやることがある。
でも今は、少しだけ気を抜いても、いいかな。