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    そまふみ

    @somahumi_though

    イラストまとめとかSSとか。センシティブなのもあります。夢、書いてる、ヨ。

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    そまふみ

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    弊社駒鳥であるリディアちゃんのプロローグ。

    夜闇、傷と血。 神様はいない。この世を救うことはできない。そんなことができているのなら──とうにわたしは、ここから逃げ出せている。
     理不尽に耐えて、悪いことにすら手を出して、どうにか日々を凌ぐ。それがわたしの当たり前で、日常だった。

     路地裏の人が傷つくことなんて、日常茶飯事だけれど。そのひとつひとつに手を差し伸べては身が持たない、と理解もしているけれど。それでも、眼の前で虐げられる人を、見逃すことはできなかった。
     結果的にわたしも被害を被ったわけだけど。それくらいなら痛くもなんともない。……大丈夫。頑丈なのが取り柄なのだ。



     郵便配達のお仕事がある日は、絶対に路地裏に近づかない。思い出してしまうから、怖くて泣いてしまうから。何年経っても、その記憶だけは色褪せなかった。
     この日だってそう。夜の街を駆け抜けて、必死に記憶の蓋を閉めて、思い出さないようにする。お屋敷に入る時も、鞄を握りしめて……。
     ──その末に見たのは、何度も見た赤色で、人の灯火が消えるところだった。鼻につく鉄のにおいも、固まりゆく身体すら見慣れてしまっていて、頭の片隅にある冷静さが「昔みたいだ」と呟いている。
     どうしたらいいのかもわからずに立ちすくんでいると、頬についた血を拭われ、薄っすらと微笑まれる。その表情は、現状にそぐわないほど美しくて。どこぞに連れて行かれることも、拒絶できそうになかった。そもそも、拒否権なんてないのだろうけれど。

     お城に連れていかれてから、ずっと体が固まっていた。自分なんかが言葉を交わすなんて、夢のような高貴な人たち……舞台に上がって輝く人もいれば、多くの社員を擁している人すらいる。一部を除いた人は、当然のように対等として会話してくれたけれど、心臓の鼓動が激しくてまともに言葉を紡げたかどうかもわからない。
     ぽすん、と案内された自室のベッドに寝転んで、目を閉じる。わたしだって、間接的に人を殺してしまうようなことがなかったわけではない。きっとわたしが関わった人の中には、わたしを恨んでいるような人もいるだろう。けれど、手を血に染めるようなことは、怖くて……。
     ヴィクトルの言葉を思い出す。話の通じる人間だと思った、それは事実だ。本当の怪物を知っている、本当の化け物を知っている。だから、あの人たちがその類とは思わなかった。でも……
    「……本当に、こんなところにいていいんだろうか……」

     ──神様はいない、この世を救うことはできない。人は脆く、簡単に世界という地獄に飲み込まれる。
     人の傷に触れた時、自分は一体、どうしたらいいのだろう……
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