止血、説教、庇護欲「申し訳ないんだが、医者を呼んでくれるか」
依頼を終わらせて帰ってきたハリスは、軽傷かのようにそれだけ口にした。──ベストに包まれた腹から、大量の血を流して。
「キャン!」
ガーゼで強く押して止血をすると、痛いのか涙目でキュウキュウと鳴く。その声を聞いていると罪悪感に苛まれるものの、やはり怪我をしたことへの怒りが勝っていた。
「ハリス」
「ん……?」
「何故このような重傷を?」
金色の瞳は涙で潤み、痛みで揺れている。だがそれをしっかりと見つめ、問い詰めた。
「ええと……今回の依頼はホロウ内部での捜し物。なおかつそれが本人にしかわからないような特徴のため、依頼人の同行有り。ここまではいいな?」
「はい」
頷くと、ハリスの顔に少し後悔が滲む。どれに対してのものかは、わからないものの。
「だが依頼の品の近くでエーテリアスの襲撃を受け、よりにもよって依頼人に狙いをつけたためそれを庇った。エーテリアスは撃退し、依頼の品も無事だったものの、このザマというわけだ」
自嘲し、首を振るハリス。それを見ていると、どうにも心が騒いだ。
「エーテリアスへの警戒は怠らなかったが、人を庇いながら、というのは少し……だが依頼は完了している。心配するようなことは何も……」
「──あなたは何か勘違いしている」
「え?」
細い腕を引っ張り、その瞳を至近距離で見つめる。動揺で揺れる金色に、少しだけ胸のすく思いがした。
「私は、依頼のことを案じたわけではありません。あなたの痛み、あなたの身体、そういうものが心配なのです」
そこまで言って、まだ困惑の色が浮かんでいると気づく。なので、はっきりと口にすることにした。
「あなたに怪我をしてほしくない。あなたに痛い思いをしてほしくはない。私は、あなたの友人として、あなたを心配しているのです」
「…………ぁ、えと……ごめん……」
ぺたりと耳を伏せ、今にも泣きそうな顔でハリスは謝った。ああ、そんな顔をさせたかったわけではなかったのだが。
「その……本当に、ごめんなさい。私は……貴方の気持ちを、蔑ろにしたんだな」
「そうかもしれません。ですが……今ご自覚していただいたので、精算と致しましょう。よく頑張りましたね」
言いながら背を撫でると、ハリスは驚いた顔をした後、とうとう泣き出してしまった。泣くことに慣れていなさそうな、抑え込むような声で。
「ひぐっ、ふぇ、うぅ……!」
「よしよし……痛かったでしょう。きちんとお医者様にかかりましょうね」
「うん……」
普段であれば、決して見ないような顔。それを眺めながら、「この人は守らねばならない」と強く感じるのだった。