【MH夢】海とピアス 観測拠点エルガドにカムラの里からハンターが来て、もう数週間経った。今見ている限りでは提督にも姫様にも失礼のない、問題ないハンターだと思っている、けど。
「ふふ、そうなのか」
フィオ様と距離が近いのは何事、だと思う。猛き炎と話している時のフィオ様はよく笑っていて、楽しそうだ。あたしには見せないような顔もする。それが、とても嫌だった。
「(あたしのフィオ様なのに!)」
そうは思うけど、フィオ様が楽しいのが一番だ。だから邪魔をしないよう、誰も来ない船着場の辺りに逃げる──と。
「ロン様!?」
「おや、セレネ嬢! どうしたんだい、珍しいじゃないか」
そこには、フィオ様の妹君……ロンディーネ様がいた。大方、交易のお仕事で来たんだと思う。帳簿を携えて船着場に立つ姿は、もう到底王国騎士には見えなかった。
「え、えと……お散歩をしようと思って……」
我ながら無理があると思ったが、ロン様はあたしの言い分を信じたようで「そうか!」と笑った。心配になるくらい純粋だ、この人。
「セレネ嬢が来たのなら、これを見てほしいな。ご覧、珍しい鉱石だそうだよ」
そう言って荷物から取り出したのは、青色の鉱石。どうやらドンドルマというところから採掘されるものらしく、その色はエルガドの海にも似ていた。
「きれい……」
「そうだろう? 貴殿に似合うと思ったんだ。もしよければ買っていかないかい?」
う。流れるような営業トークも板に付いてきたな。けれど、ロン様があたしに似合うと思ってくれたなら、ご好意は受け取っておくべきだろう。
「ありがとうございます! ええと、ポイントですよね」
「結局買ってしまった。でもこれ、武具に使えるわけじゃなさそう……お家に飾っておこうかな」
受け取ったドンドルマリンを眺めながらエルガドを歩いていると、肩をぽんぽんと叩かれた。はて、誰だろう?
「セレネ、随分機嫌が良いようだが、その鉱石のおかげか?」
「フィオ様ッ!? ど、どうしたんですか!? 猛き炎と話してたんじゃ……」
動揺して声がひっくり返る。すると、フィオ様はおかしそうにくすくすと笑う。
「次の目標を相談していたんだ。その話ならもう終わって……ここから貴殿の姿が見えたのでな」
「そ、そうなんですね。えへへ……」
誤魔化すように笑うと、フィオ様はあたしの手元を見た。
「ドンドルマリン……ロンディーネに買わされたな?」
「え!? よ、よくわかりましたね」
「あいつも交易商が板に付いてきたようだからな。だが……その色は、貴殿によく似合っている」
ふわりと笑う瞳は愛おしげで、どきりとしてしまう。それを振り払い、話題を変えようとした。
「そ、そうですかね! でもこれ、扱いに困ってて……武具には使えませんし……」
「そうなのか。なら……私に預けてくれないか? きっと、貴殿の満足するものを渡せるはずだ」
少し考えて、了承する。フィオ様の考えることだから、きっと悪いことではないだろうと。
「ふふ、ありがとう。時間はかかるだろうが、必ず見せるよ」
それから数ヶ月が経った頃。「セレネ!」と呼び止められ、あたしは振り向いた。
「フィオ様! どうしたんですか、そんなに急いで」
「貴殿から借りたドンドルマリンを返しに来たんだ。その……少し形は変わっているが、この方が使いやすいだろう?」
そう言って差し出したのは、きらきらとした青色のピアス。形は、フィオ様がつけているピアスに似ていた。
「えっ、えっ……!? い、いいんですか、こんなに綺麗なの!」
「当たり前だ。……貴殿は、私がいない間のエルガドを代わりに纏めてくれていたと聞く。それに、私のために随分と駆け回ってくれたそうじゃないか」
それを、知っていたのかと驚く。フィオ様にバレないようにしていたし……でも、きっとフィオ様は察しがいいから、どこかで気づいていたのかもしれない。
「貴殿のおかげで、私は復帰出来たんだ。だから、これくらいの礼は当然だろう?」
「……お、お礼なんていいですよ。あたし、フィオ様が元気なのが一番ですっ!」
「ふふ、そうか。ならば、これからも怪我のないようにせねばな」
そう笑って、あたしの頭を撫でるフィオ様。それに甘えながら、強く思う。
どうかどうか、この幸福が続きますように……。