素直になれなかった 夜の月明かりに、優しく照らされた屋敷の一室。瑠凛の横に並んだ道長は、彼女の白い指を絡め取り笑った。
「なあ瑠凛。いい加減聞かせてほしいんや。……あんたは、誰を想ってそないな顔するん?」
迫る瞳は切なげで、苦しそうでもあった。瑠凛は居心地の悪さを感じ、そっと目を逸らす。
「べ、別に誰も……」
「嘘言うなや。誰も想うとらん女が、そないな顔せえへん。な、教えて?」
首を傾げて上目遣いで問う姿は、雨の日に取り残された子犬のように悲しそうだ。翡翠色の瞳と視線がぶつかった瞬間、瑠凛は耐えきれず立ち上がる。
「だ……っ、道長さんのことなんか好きじゃありません! ばーっか!!」
それだけ言って屋敷から飛び出した瑠凛の後ろ姿を見つつ、道長は「……なんなんや?」と疑問を浮かべていた。
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