追憶の壺「鍾離先生はさ」
いつもと変わらない宴席で、他愛もない話をした。
「俺がいなくなったらどうする?」
杯を傾けそう宣った青年は、酔いが回って頬が朱く染まっている。
酒の席での、本当に些細なもしもの話。
鍾離は知っている。この話が近い将来現実になることを。目の前の人間である彼と違って、凡人の皮を被った長命種の鍾離は、置いていかれることに慣れていたから。
青年は何処までも意地が悪かった。二人の仲が急速に縮まる要因になった事件を、定期的に掘り起こしては文句を言い、拗ねた振りをしてみせる。本当は終わったことだと気にしてなどいないくせに、罪悪感を抱かせるように話しては鍾離の反応を見て楽しんでいるのだ。
今回もまたその類だった。
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