ある日の防衛隊、休憩時間の仮眠室「最近さ、俺思うんだ。ブレーザーって普段どこで何してるんだろうって。」
「いきなり何?」
「だって、怪獣現出時だけだろあいつが観測されてるのって。」
「そりゃぁ宇宙人だし?宇宙にでもいるんだろうよ」
「俺はレーダー観測員だ。探してたよしょっちゅう。でも地球付近の宇宙域をどれだけ探しても居ないんだ。」
「あー、確かに。いつも飛び去る時に大気圏出るかでないかの辺でレーダーロストするなぁ」
「だろ?普通はあの巨体を見失うなんてあり得ないんだよ。」
「飛び去るフリをして実は地上に潜伏してる…とか?」
「50mの巨人が?いやそれは無いだろ、絶対誰か気付くって。」
「…小さく…なれるとか」
「お前さぁ、質量保存の法則って知ってる?」
「知ってるよ!でもブレーザーは宇宙人だ、地球の法則で考えちゃいけないのかも」
「うーん、だったら、小さくなるとか言うよりもさ、人間に化けてるとかの方が有り得そうじゃね?」
「あ、それいいね~、いかにも宇宙人っぽい」
「まぁ、なんかあいつ、野蛮人っぽいからどっかの山中にでも居るのかも。」
「ハハハッ、それウケる」
「だろ〜、首都近郊の山中にて、野蛮人現る!みたいな。」
ガチャッ
「お疲れ様です〜」
「おう、お疲れ様。」
「お疲れ様〜」
「何の話ししてたんですか?随分賑やかですけど。」
「あぁ、ブレーザーがな、普段はどこで何してるのかな~って。」
「もしかしたら人間に化けて地上に潜伏してんじゃねぇかって考えてたところなんだ。お前も何か意見ない?」
「人間に…化けて…なるほど…その選択肢は僕持ってなかったですね。」
「ん?なんか思い当たる節でもあるのか?」
「いやね、僕、最近の作戦行動時の通信記録を整理してるんですけど、ちょっと妙なところが有るんですよ。」
「うわー、記録の整理かぁー、嫌な仕事回されたなー。」
「それなー…って、妙なところってなんだよ」
「怪獣現出時って、基本空挺部隊と地上部隊、あとは特殊部隊が通信に居るんですけどね、先日気が付いちゃった事があって。ウルトラマンが現出してるタイミングにだけ、通信記録に居ない隊員が1人、居るんですよ。」
「え?何だそりゃ。居ないのか。」
「はい。最初はたまたまかと思ったんですけど、ここ半年間の作戦行動記録のほぼ全ての時にそうなってるんです。」
「その隊員って、誰?」
「言っちゃって良いのかな…今の話の流れ的に彼がウルトラマンかもしれないんですよ…誰にも言わんで下さいよ!!!」
「言わん言わん。」
「どうせ誰も信じないって」
「ふー………特殊部隊SKaRDの比留間弦人隊長。」
「えぇぇ???」
「マジで!?!?」
「マジです。例えば、半年前のバザンガ掃討作戦。ブレーザーが初めて現れた時、あの時比留間弦人は特機団の隊長でしたが、ブレーザー現出の直前、彼らの部隊がいた場所が怪獣に破壊されて通信ロストしてるんです。」
「あぁ、それは俺も聞いてた。分隊の方が攻撃されて、ゲント隊長が1人で飛び込んでったときな。」
「特機団がやべぇぞって指揮所もなってたな。撤退のてんやわんやでそれどころじゃなかったけど」
「それだけなら偶然でしょう、でも毎回そうなんですよ。」
「でもあの人、アースガロンで出撃したりしてるじゃん。」
「そう、そうなんですよ。でもね、例えばタガヌラー初現出の時ですよ。アースガロンが電源ロストして、機長の比留間隊長が機体外部から強制起動するんだって言ってコクピットを出て、直後にブレーザーが現出してるんです。そしてその間、比留間隊長は通信に居ないし、アースガロンも再起動できなかった。」
「ほう。」
「アースガロンとウルトラマンが共闘してる時、機長は決まって名倉副隊長なんです。」
「ほうほう。」
「極めつけは、ヴァラロン襲来前のタガヌラー同時多発現出の時です。」
「あー、確か、ブレーザーがネバダに現れた時だな。」
「あの時、比留間隊長はSKaRD CPから作戦指揮をとっていました。で、アメリカ支部からタガヌラーに対してアースガロンの出撃要請がありましたが、そのアースガロンはこちらで先に現出したタガヌラーと戦ってた。」
「そうそう、世界中でタガヌラーいっぱい、だったな。」
「アメリカ支部の要請直後、ネバダにブレーザー現出。その直前、SKaRD CPからアースガロンに電波障害のため指示が出せないとの通信が入っています。音声はガビガビでしたが間違いなく比留間弦人からのものでした。」
「通信障害?そんなのあったっけ?」
「無いです。無かったはずなんですよ。あの作戦時に教江野基地周辺で通信障害があったという報告は他には上がっていません。僕が確認した限りでは、ですけどね。」
「怪しい…なぁ…。」
「怪しいんですよ。どうにも彼には何か、ブレーザーと関係があるように見えて仕方がないんです。もしかしたら本人かも、とは考えなかったですけど。」
「..........ブツブツ…」
「先輩?」
「どうしたお前?さっきから。」
「......無い…」
「え?」
「ぜっっっ....たいに無い!!!」
「うわびっくりした。」
「いきなり大声出さないで下さいよ。」
「俺は!現場時代にあの人に凄くお世話になったんだ!だからゲント隊長が宇宙人なんて絶対に有り得ない!」
「あぁ…お前はそうか、比留間信者だったか…。」
「なんすか信者って。」
「お前みたいに最初から裏方で入った奴は知らんだろうがな、現場経験者の多くは比留間弦人を慕ってるんだよ。あの人は面倒見もいいし、実績もある。若いうちから様々な任務で活躍してたからな。借りがある防衛隊員は多いんだ。」
「なるほど。上からは嫌われてるみたいですけどね。」
「あくまで現場の立場で動くタイプの人だからなぁ。でも頼りになるぜ。状況判断力はずば抜けてる。」
「それを買われての新設特殊部隊の隊長だ。実際、活躍してると思うぜ。上は最終的な戦果が上がってないって評価してるみたいだけどな」
「もし比留間隊長がブレーザーなんだとしたら、SKaRDの対戦成績爆上がりするんじゃねぇか?」
「ほんとだ。ウルトラマンが倒したのって現出した怪獣のほとんどですもんね。」
「でもなぁ、俺、ゲント隊長のことそんなによく知ってる訳じゃないけど、どうにもブレーザーとは結び付かないなぁ…自由人で口調は軽いけど理知的だし、指示も的確、まじめで誠実な人だと思うんだ。野蛮人ぽいところなんて無いぞ」
「ブレーザー、ビル登ったり吠えたり跳ねまわったりしてるもんなぁ。」
「そう、なんですよね。通信に居る比留間弦人と実際のウルトラマンのキャラが違い過ぎて。だから僕は、彼がウルトラマンと何かの関わりがあるとは思いますけど、本人説は無いなぁと。」
「何か関係かぁ…ま、好かれる人だからな。宇宙人にも好かれてるんじゃね?」
「ブレーザーは間違いなく現場タイプだもんな。」
「あの、そのですね、ここまで言っといてなんですけど、僕やっぱり彼は関係ない様な気もしてるんです。」
「は~??言い出したのお前だろ??」
「そうだそうだ!せっかくわれらが頼れるゲント隊長が正義の巨大宇宙人説が盛り上がってきたのに」
「盛り上がってんのお前だけな。てかさっき結びつかないって言ってたじゃん。で?なんでいきなり反対意見が出てくるんだよ。」
「一回だけ、一回だけなんですけど、ウルトラマンと比留間弦人が同時に存在してた確実な証拠があって。」
「おぉい!確証あるんかい!」
「いつだよ。」
「ヴァラロンが地上に降りた時です。あちこちめちゃくちゃで指揮所もそれなりに混乱してましたけど、地上に帰ってきたアースガロンには確実に、SKaRD全員が搭乗してました。」
「ブレーザー連れて帰ってきてたもんな。」
「確かに。あん時は大変だったな~。まさかブレーザーも負けるとは思ってなかったもんな。」
「そのあとの戦いではもう通信記録もめちゃくちゃで、SKaRDが指揮所の指示に従わず、ヴァラロン掃討を優先したくらいしか分かんないんですけどね。」
「その判断したのって誰?」
「名倉副隊長です。比留間隊長は月面からの帰還直後に倒れて医官に絶対安静を申し付けられてたみたいです。」
「うん、ゲント隊長無茶しがち~。あの人が医官の指示に従うってことは相当ヤバかったんだろうな」
「あん時のブレーザー、超元気だったよな。地上に落ちてきた時は死んじゃったのかと思ったけど。」
「回復速度が尋常じゃないんだろ。宇宙人だし。ほらやっぱゲント隊長じゃないだろ。あの人死にかけてたんだろ」
「そうですよね。だから、単にウルトラマンに好かれてる~くらいの方が自然な気はします。彼が危ないときに助けてくれてる、みたいな。」
「それもなかなかすげぇと思うけどな。」
「なぁお前ら、このこと誰にも言うなよ」
「なんすかいきなり。どうせ誰も信じてくれないでしょ。」
「それはそうなんだけどよ、ゲント隊長上から嫌われてるじゃん?そんな中にブレーザーと何か関係あるかもなんて噂が立ったらよ、最悪それを口実に更迭とか在り得るかもしれねぇ。知ってて黙ってた、とか難癖付けて」
「あ~、やりそう。うちの上層部そういうのやりそう。司令官にバレない程度にやりそう。」
「司令官はSKaRD側の人ですもんね…」
「それでもアースガロン作らせた人でしょ?宇宙人の力には頼りたくないだろうしな。」
「言わないです!誰にも!!ていうかその流れだと言いふらしたら僕らこそなんかされそうじゃないですか…。」
「それな。あと、ゲント隊長に何かあったらそれこそ現場の人間は険悪になるからな」
「好かれてんなぁ。」
「人望あるんですね。」
「ヤバッ!そろそろ休憩時間終わるじゃん!」
「え!?ほんとだ、俺ら行かなきゃ」
「僕はあと30分ほどあるので…。」
「じゃまたな。いいか、絶対言いふらすなよ。墓まで持ってけよ!」
「重い重い。」
「まぁ記録整理してるの僕だけなんで、僕が言わなきゃ誰も気づかないっすよ。」
「頼むぜ後輩!また時間あるときに話そうぜ、現場を知らぬお前にゲント隊長のすばらしさをじっくり教えてやる」
「はいはい、行くぞ、遅れると後が怖い。じゃ、お疲れ様~。」
「お疲れ様です~…。」
「そっか、僕が秘密握ってるのか…ふふふ…本人に言ったらどうなるかな…」
――――――――――――――――――――
「司令官。本日昼、仮眠室での会話です。」
「なるほどな。この三人は特定できているか?」
「ええ。現在位置も把握済みです。どうしますか?」
「一時拘束して記憶処理。通信記録の整理には別の人間を配属しろ。…なるべく短期間で入れ替えた方が良さそうだな。」
「承知しました。」
「…ゲント、お前はもう少し、周囲に気を配った方がいいぞ…。」