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    お題【桜】であって【毛虫】ではないはずなのに……おかしいな。

    後日、ギャレリアに画像版置くじょ。

    #創作小説
    creativeFiction
    ##小説
    #創作男女
    creators

    桜にわいた毛虫を拾う黒部と浮風「黒部ぇ、この子も追加ぁ」
     浮風さんがトングで新たな子……何かよくわからない黒い毛虫をつまんで持ってきた。
    「ふわぁ、ひっ、うぁっ……」
     僕は未だに慣れないその毛虫を見ないようにしつつ、その毛虫が大量に入っている半透明のビニール袋……の中も見ないようにしつつそのビニール袋を開け、新たな子を迎え入れる。
     地獄か。好きな子との課外活動で嬉しくはあるが、何だこの地獄活動は。

     葉桜生い茂った立派な桜の木陰からこぼれる初夏のうららかな陽射しの中、僕はおぞましいもの……毛虫が詰まったビニール袋の口を握りしめていた。
     その手の力を抜こうものなら、そのおぞましいそれらが這い上がってくるので必死に力を込めて締め続けた。

    ☆ ☆ ☆

     事の発端は、僕らの高校の校門前にある桜並木だった。その桜の木周辺に毛虫が大発生してしまったのだ。
     女子は校門付近を通る度にぎゃあぎゃあ叫び、粗野な男子は毛虫を踏み潰して謎の液体を通学路にこびりつかせたりしていた。
     
    「業者に頼んで毛虫を撤去してもらいたいとは考えているが……すぐには来れないそうでなぁ。それに、けっこう強力な薬品をまくそうだからお前らの身体……と立派な桜の木に何かあったら大変でさァ」

     と、いうわけで「ボランティアとして毛虫を人力で除去しないか?」という担任のお言葉にクラス中が悲鳴をあげた。
     内申書に「ボランティア参加」という素敵評価がほしい人は渋々と参加の挙手を上げた。無論、僕はやるつもりなど毛頭なく、視線を下に戻して中身を暗記しているほど読み込んだ犯罪者本を読む。

    「毛虫拾い? やるやるぅ~」
     イヤな予感は薄々していたが、隣の席の浮風さんが評価欲しさではなく、ただの興味本位でイキイキと挙手をした。
    「黒部もやろうよぉ!」キラキラした目でこちらを向かれてハツラツと言われる。
    「え……何でだよ……イヤだよ……」
     毛虫も嫌だし面倒だし最近暑いしで、そんな事に参加していい事なんて1つもないしでメリットなんざない。

    「ほら、可愛いこの私がきっしょく悪い毛虫をつまんでいるコラボレーションの図を見たくないかい?」
     一瞬、パァッと明るく可愛らしい浮風さんの細い指に汚らしい色の蠢く毛虫……という図が浮かんで若干面白くなった。が、騙されるな僕。この人は僕に向けてそのまま毛虫をぶん投げてきては爆笑するような人だ、うん。

    「可愛い浮風さんはいつまでも見ておきたいけど、毛虫はやっぱり御免だよ……」
    「あぁ、じゃあ俺も毛虫拾いますぅ」
     僕達の話を聞いていた前の席の倖田が先生に向かって叫ぶ。……あぁ?
    「意気地なしの役立たずクソメガネのぶんまで俺がめっちゃ毛虫拾うぜ、浮風!」
     倖田が浮風さんに向かってバチコンウィンクする。きも。

    「ごめん、前言撤回。僕も毛虫拾うよ。スカトロモノAV大好きド変態倖田くんが出来て、僕が出来ないわけはなかったわ」
     僕は浮風さんに優しく微笑む。

    「はぁ~~? いいよ来んなよ失せろよクソ陰気悪趣味メガネ。集めた毛虫はまたいつぞやかみたいにゲタ箱の中に詰めてやんよ」
     昔の僕だったら、その言葉だけで「やめてやめて」とビクビクしていたのだが、今の僕にとっては「変態AV趣味の奴が何イキってんの馬鹿じゃね?」である。

    「浮風さん。こいつ昔、僕のゲタ箱の中によくゴミ詰めてたんですよ。クソ野郎だよね、僕は想像で悪事を楽しんだり考えたりしているだけなのにコイツは実行するから危ないよねぇ怖いよねぇ。いつかうんこも食べると思いますよ、この変態」
    「はぁ? よく言うわ。お前のその“想像”って殺人とかだろ? 俺なんかよりよっぽど怖いわ、なぁ浮風?」
    「あっ、見てー。筆箱の中にロケットペンシルゥ~懐かしぃ~」
     さすが僕の浮風さん、興味がもう宇宙の彼方。

    ☆ ☆ ☆

     放課後。
     他クラスでも募集したそうで、割と参加者はいた。皆、先生らが用意したビニール袋やトングを持って、思い思いにばらけて毛虫を拾う。
    「ほい、早速1匹目ぇ」
     素手で毛虫を掴んでビニール袋に入れる浮風さんを見て驚愕する。
    「素手で触るのは危ないって汚いって! やめなよ!」僕は慌ててトングを渡す。
    「ムニョムニョしてて気持ちいいよ?」
     妖しく微笑む浮風さんも、まぁこれまた可愛い……のだが、騙されないぞ。言いたいことは言うぞ。

    「危ないし汚いのもそうだけど、あの、その……もし、僕と浮風さんがいつか手を繋ぐような事があった時、その時に僕は『あー……この手、毛虫を直に触ってたんだよな……』って浮風さんの手に思って冷めちゃうから、マジやめてほしい……な」
    「おほ」浮風さんが噴き出す。
    「ほぅ、君の方からいつかこの私の手を握ってくれるのかい?」
     浮風さんがニタニタしながら手の中の毛虫を弄ぶ。だからやめろっつーに。
    「い、いつか恋人らしく手を握ろうとは計画しているから、だからお願いだからその手で毛虫ムニョムニョしないでほしい……」

    「……悲しいなぁ」浮風さんがしょげる。

    「“毛虫を触った”という付加価値がついただけで、私のこの手はそんなにも忌避すべき存在になってしまうのかっ……!」
    「俺なら、毛虫触った浮風の手すら握れるし舐めれるけどな!」
     倖田が毛虫つまんだトング片手に仁王立ちしてドヤる。死ね。
    「なんなら、俺は浮風がトイレから出てきた直後の手だって舐めれる」
    「わァ、きっしょ♡」
     辛辣な言葉とは裏腹に、浮風さんが楽しそうに笑う。スルー力が本当にすごいな、この人(もしくは、本当にどうとも思っていないか心の許容量がパないのか)。
     僕は、どうしたら浮風さんに『手を汚してほしくない事と毛虫危ないよ』という事が伝えられるのか悩んで、上手い説明を思いついた。
     
    「……僕は、浮風さん100%の手を握りたいんだよ」
    「あ?」浮風さんも倖田もきょとんとする。
    「毛虫を触った浮風さんの手は『浮風さん90%・毛虫成分10%』になっちゃうじゃん? それだと真に浮風さんの手に触れた事にはならないんじゃないかなと」
    「ほぅ」おっさんみたいな相槌で納得する僕の好きな人。

    「冷たいことを言うけど、やはり“毛虫を触った”という事実は浮風さんの手の価値を下げると思う。毛虫を触った浮風さんの手……浮風さん90%・毛虫10%を許容するためには、まずは僕は毛虫を愛さなきゃいけない。毛虫10%すらを楽しむためには毛虫を克服しなければいけない……さすがにそれは億劫だ。でも、浮風さん90%はやはり許せな……」
    「マジメかよ、きめぇ」
     浮風さんはクックッと笑い「んな小難しく考えるなって。冗談だよ」と、素直にトングを使って毛虫を捕まえだした。

     ……え? 勝った? 僕、あの浮風さんに勝った?
    「いや、どんな浮風の手も舐めれる俺の勝ちだ!」
     倖田が僕に向かって言い放ったので、足元に落ちていた毛虫を拾って投げた。

    ☆ ☆ ☆

     半透明系の白いビニール袋で中ははっきり見えないが、大量の毛虫がその中で蠢いているのを感じる。あぁ……ぞわりと鳥肌が立ちかける。
    「集めたコレ、どうするんだろう……」
    「先生、『燃やす』って言ってたよぉ」
    「燃やっ……!」僕の背後で毛虫を拾っていた浮風さんの回答に僕は引いた。
    「燃やすのがヤなら、じゃあどうする? ローラーで踏みつぶす? グラウンドに毛虫詰めた袋並べて、グラウンド整備に使うアレで全部ブチブチィ……って」 
    「ひぃ……そんな、昔のアフリカのンガンダ女王の『人間石臼挽き』じゃあるまいし……」
    「……より気持ち悪い実話をありがとう、さすが黒部」
     あの浮風さんに褒められたぜ、やったぜ。
     
    「まぁ、にしても『気持ち悪い』という理由だけで集められて焼かれるこの子らは可哀想だね……」
     ん? 何か妙に芝居がかってるな?『浮風劇場』が始まった?
    「この子らもいつか立派な、キレイな蝶々になって空を羽ばたくというのに、この時点で殺されちゃうなんてね……お空に蝶々いっぱい、見てみたいなぁ……」
     嫌な予感がする。
    「黒部」僕をまっすぐ見つめる目がとてもキレイだ。
    「この子らを育てて……蝶々にしてみない?」
    「そんな潤んだ瞳で可愛く切なく言ってもさすがにそれはダメェ!」
    「浮風っ! 俺んちの庭、広いからこれくらいの毛虫の世話ヨユーかもしんねっ! 全部持ち帰んよ! んで、全部さなぎになったらウチ来いよ!」
     浮風さんに惑わされた倖田がヤバイお願いにのりかける。
    「おぉい、倖田! さすがにそれは騙されすぎだって! 落ち着け!」
     天敵だった倖田だが、さすがに可哀想すぎてつい止める。
    「ってか、コレ蝶々になるの? 蛾じゃないの? どうなの?」
    「知らん」浮風さんが急に冷たい。
    「何だよ黒部。この私がめちゃくちゃ可愛く言ったのにノらないなんて」
    「いや、割と序盤から芝居がかってて胡散臭かったよ……」
     浮風さんがヒヒィと笑う。

     結局、集められた毛虫袋はゴミ集積所に置かれ……まぁ普通に業者が持っていったか、噂によると校長が嫌っている某他校の桜並木近辺にまかれたとかまかれてないとか。
     
    ☆ ☆ ☆

    「これからの人生、もう桜を見ても今日の大量の毛虫しか思い出さないだろうな……」
     夕暮れ時の帰り道、だいぶきれいになった校門前の道を浮風さんと見つめる。
    「網膜に、黒くてゴワゴワウゴウゴ、モニョモニョ蠢くお毛虫ちゃんがニチャリとこびりついてしまわれましたからねぇ」
    「擬音過多で明確に思い出させようとするのやめて……」
     僕はゲッソリしていたが、浮風さんは相変わらず飄々としている。

    「そうだ、手でも繋いで帰るかぃ?」
     浮風さんがそう言いながら手を出してきて「え」と心躍るも、毛虫を素手で弄びまくっていた事を思い出してしまい、萎える。
    「………なんかもう、まだキスのほうがハードル低い気がする……」
    「えっ? いやん、する?」
     浮風さんがわざとらしくときめいた演技をして、ぷっくりとした唇に手を添える。

    「………浮風さん、うんこ食べた事はないよね?」
     女の子になんて事を訊くんだ、と我ながら思うも、あの浮風さんだからわからない。
    「さすがにまだねぇな」
    「“まだ”って何すか……」
     では、いつか浮風さんが興味本位でそんな事をしてしまう前にキスしておいたほうがいいのかなと、ふと思う。
    「私が興味本位でウンコ食べる前にチューしといたほうがいいんでない?」
     同じ事を考えた僕と浮風さん。
     理屈では確かにそうだが、だからといってキス出来る度胸があるかというと、まぁない。
     
    「お?」
    「まだ、毛虫触りまくって価値の下がった浮風さんの手を握る方が出来ますわ……」
     もう、小難しく考える事も問答も疲れたので自分のやりたい事をした。僕は浮風さんの手を握って駅まで歩いた。
     僕の好きな人の手は意外とガサついてて、あー、マジで何もしない母親の代わりに家事してるんだな、みたいな手だった。
     
     来年、このおぞましい通り道だった桜並木が薄桃色に染まる頃にはキスできる度胸くらい育っているだろうかな。
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