「おねーさん、今夜暇?」
仕事中腕にまかれたAppleウォッチがメッセージアプリの通知を表示する。
連絡が来るのは久々な筈なのに、見慣れたアイコンはきっと私が彼から連絡くるのをずっと待っていたからだと思う仕事は今一段落ついているからこっそりと通知を開き「暇だよ!」と連絡を返す。
すると直ぐに既読がつき「ならご飯行かない?」とお誘いの連絡が来る、その連絡に一気に気だるかった気持ちが晴れていく「今日仕事だよね?おねーさんが終わる時間に迎えに行くね!」と追加できた連絡に可愛いキャラクターがお礼しているスタンプを送り仕事に戻る。
それからと言う物、終わったら乱数ちゃんに会えると言う嬉しい予定のおかげで仕事があっという間に終わってしまいすぐ退勤になっていた
外に出てみると、乱数ちゃんは流石にまだ着いていないみたいでその間にカバンからミラーを取り出し身嗜みを整える。退勤する前に髪は整えてリップも塗り直している為あくまで変なところがないかだけチェックしていると「おねーさん、お待たせ」と声をかけられる。乱数ちゃんの声に振り返るとそこにはいつもの服装じゃない乱数ちゃんが立っていた
「乱数ちゃん、その服どうしたの?」
「ん~?おねーさんに久々に会えるから着替えてきたの」と可愛い事を言う乱数ちゃんは腕を広げてお洋服を見せてくれる。
「じゃー行こっか」と言って乱数ちゃんは私に腕を差し出された手を握ると、そっと優しく恋人繋ぎをされる。乱数ちゃんは慣れた手付きで私をリードしながら歩幅も合わせて歩いてくれる。
「ごめんね、誘ったくせに何も考えてなくてお店決まってないんだけどおねーさん何か食べたいものある?」
「んー、乱数ちゃんと一緒に居られるだけで私は嬉しいからなんでもいいよ」
そう伝えると乱数ちゃんは少し考える素振りをして「じゃあ、おねーさんが好きそうなお店予約しておくね!」と言ってスマホでお店を調べてくれる。
「おねーさん、ここなんだけどどう?」
そう言って乱数ちゃんの案内で着いたのは小洒落たイタリアンレストランだった。
「ここのお料理とっても美味しいって評判なんだよ」と乱数ちゃんが教えてくれて、私はドキドキしながら店に入る。店内に入ると店員さんが丁寧に席まで案内してくれて予約のことを伝えると個室に案内された
「乱数ちゃん、個室なの?」
「うん、今日はおねーさんと2人でご飯食べたい気分だったから」
そう言ってくれた乱数ちゃんに嬉しくなりながらメニューを開くと美味しそうな料理の写真に目移りしてしまう。そんな私を見て「ゆっくり選んでいいよ」と言ってくれる乱数ちゃんはニコニコしていてなんだが少し照れてしまう。
「乱数ちゃん、どれにする?」と聞くと乱数ちゃんは少し悩んでから「じゃあこれで!」とピザが乗っている料理を選んでくれたので私はパスタの欄に目をやる
「んー、私はこれかな」
そう言って指をさすと「いいよ!ならそれにしよ」と言って乱数ちゃんは注文をしてくれる。
そんな姿を見ながら、やっぱり乱数ちゃんのこと好きだなぁなんて呑気に考えているといつの間にか注文は終わっていて2人きりになっていた。
「ごめんね、急に誘ったりして迷惑じゃなかった?」
「全然!!私も乱数ちゃんに会いたい気分だったから…」
「ほんと?ならよかった!」と言って乱数ちゃんは安心したように笑う。それから少し雑談をしていると料理が運ばれてきたので一緒に手を合わせながら食事を始める
。乱数ちゃんは食事中もお仕事の話や、私の話など沢山話題を振ってくれてとても楽しい時間を過ごすことが出来た
「おねーさん、今日はありがとうね」
そう言って乱数ちゃんは私に優しく微笑んでくれる。そんな笑顔を見て私も自然と笑みが溢れてしまう。「こちらこそありがとう」と言って2人で店を出る。外はすっかり暗くなっていて、少し肌寒かった
「おねーさん寒くない?」と心配してくれる乱数ちゃんに対して大丈夫と答えるがやっぱり寒いものは寒い。すると乱数ちゃんは私の手を握り
「え!?おねーさん手冷たいじゃん 全然大丈夫じゃないでしょ?」と言って乱数ちゃんは私の手を温めてくれる。
「乱数ちゃん、ありがとうね」
そう伝えると乱数ちゃんは
「おねーさん寒がりなんだからちゃんと暖かくしててよ」と少し怒りながら言うので思わず笑ってしまう。そんな私を見て乱数ちゃんも笑ってくれる。
そんな楽しい時間はあっという間で、いつの間にかだいぶ時間が過ぎていた
。「そろそろ帰ろっか?」と乱数ちゃんが言い、2人で駅まで歩く。
駅に着くと私はふと寂しい気持ちになってしまう。すると乱数ちゃんがそっと私の手を握るので驚いてしまう
「おねーさん、どうしたの?」と心配そうに顔を覗き込んでくる乱数ちゃんに私は素直に今の気持ちを話す
「もう少しだけ一緒にいたいな……」と言うと乱数ちゃんは少し驚いたような顔をした後に優しく微笑んでくれる
「おねーさん、今日は甘えん坊だね」そう言って私の頭を撫でてくれる乱数ちゃんの手は優しくて思わず頬が緩んでしまう
「実は僕ももう少しだけおねーさんと一緒にいたいなぁって思ってたから、嬉しい」
そう言って私の手を引いてくれる乱数ちゃんの手は暖かくてとても心地が良い そのまま私たちは駅のホームにあるベンチに腰掛ける。少しの沈黙の後、先に口を開いたのは意外にも私だった「ねぇ、乱数ちゃん……最近お仕事忙しい?」そう聞くと乱数ちゃんは「うーん……最近はあんまりかな」と答えてくれるが嘘だということはすぐにわかった
「嘘つき……」そういうと乱数ちゃんは困ったような表情を浮かべる
「……本当はちょっと忙しいかも」と素直に答える乱数ちゃんに私は思わず笑ってしまう
「もう!なんで笑うの!おねーさんに心配かけたくないから言わないつもりだったのに…」そう言って拗ねる乱数ちゃんが可愛くて思わず頭を撫でてしまう。すると乱数ちゃんは嬉しそうに目を細めるのでなんだか猫みたいで可愛いと思ってしまう「ごめんね、でも無理はしないでね」と伝えると乱数ちゃんはコクリと頷きながら「でも今日おねーさんに会えたから僕元気になっちゃった!ありがとう、今度ちゃんとお礼させてね?」と言ってくれる
「お礼なんていいよ、私が乱数ちゃんに会いたいだけだもん」そう伝えると乱数ちゃんは少し驚いたような顔をした後に嬉しそうに笑う。そんな笑顔を見ると私まで嬉しくなってしまう。
「おねーさん、今日は本当にありがとうね」
そう言ってくれる乱数ちゃんに私も同じ気持ちだよと答えるとまた優しく微笑んでくれた
「じゃあ、また連絡するね」そう言って乱数ちゃんは歩いて行く。その背中を眺めているとふと乱数ちゃんが振り返りこちらに向かって手を振ってくれるので私も手を振り返す。そのまま乱数ちゃんの姿が見えなくなるまで見送ると私は改札に向かい自分の家へ帰るための電車に乗り込んだ。