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    さかなや

    @sakanauo37

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    さかなや

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    70歳になったら渡したいもの
    2023.7 webオンリー掲載用
    サスケ誕生日おめでとう!

     死後の世界について考えたことはあるか。いつかサスケとそんな話をした気がする。次の容器が見つかるまでの間、魂は暗闇の中を彷徨い何を感じることもなく消えていく。それは俺たちが味わった孤独とどちらが辛いだろうか。

    ──なんて話をしながら眠りについた、もう十年以上前のこと。結局サスケは何が言いたかったのか解らないまま時だけが過ぎた。今考えれば一人で死ぬかどうかはわからねえしすぐに次の容器が見つかるかもしれねえからと答えればよかった。あとは、平均寿命が七十歳だとして今三十歳の俺たちが死ぬまでにはあと四十年もあるんだから、そんな先の話をしたって仕方ねえだろ、と言い返せばよかった。だってそうだろ。今からそんな先のこと考えたって辛い結果にしかならねえんだから。
     そう答えたらサスケはどんな顔をするだろうか。話をしたのが確か、ちょうど今日と同じ雪の日だったからか、そしてその日と同じようにサスケが俺を呼び出すもんだから、これは何か大事な話でもされるのかもなと、思った。

    「お前に伝えておきたい」
     何もない、広大な土地のど真ん中でサスケは言う。こんな場所で一体何を伝えるつもりなのか。
    「お前がもう少しでかくなったら渡したいものがある」
    「でかくなったらって俺もう三十三歳だぞ。十分でけえだろ」
    「その時が来たら渡す。それまで覚えてろ」
    「覚えてろって、そんな勿体ぶらずに今言えよ。でかくなったらってどんくらい?」
    「そうだな。五十、いや、七十になるくらいの頃に」
    「そんな先か!?」
    「必ず渡す。だからそれまで俺との約束を覚えていろ」
     それだけ言ってサスケは消えた。追いかけて尋ねようとしたけど、楽しみは先に取っておいた方がいいかもなとも考えて、やめた。

     暗い話じゃなかったのは良かったと思う。告白に近いものを期待していたせいか案外あっけなく終わっちまったのは拍子抜けだったけどな。
     渡したいものがあるっつうならこっちも何か用意しておいた方がいいんだろうか。三十年後、いや、四十年後のサスケに。未来のサスケへ。今俺が思ってることを文字にして、手紙に残ししたら喜んでくれるかな?
     あとはサスケの好きなものと思い出の写真なんかを適当に木箱に詰めておこう。今の時代の食い物でも詰められたらいいんだけど、さすがに賞味期限四十年後のカップラーメンなんてねェだろうから無理かな。──それでもいいから入れておくか、それも面白いかも。あのとき俺はこんなものが好きで、お前はこういうのが好きだったんだぜっていう、思い出話ができるかもしれない。


     時が過ぎ、俺たちは五十歳になった。里も大きく変わった。新しい建物が次々と増えて緑は失くなった。
     帰郷したサスケに呼ばれた俺は一人で火影室を出た。雪は降っていない。サスケは昔と変わらず濃紺のコートを着て立っていた。
    「俺との約束は覚えているか」
    「ああ。あれからもう二十年も経っちまったなんて信じられねえってばよ。里もいろいろ変わっちまったな」
    「覚えてるならいい。だがすまん。お前には謝らなければならない。…来てくれ」
    「え?」
     訳が分からずサスケの後をついて行く。どこへ行くのかと思ったら火影屋敷の裏だった。サスケはそこに片膝をつき右手で土を触った。何か、探しているらしい。何もありそうにねえけど。
    「ここらに俺が植えたものがいつの間にか無くなっちまった。今日お前に渡そうと思っていた物だ」
    「何だって?」
    「木が、なかったか」
    「木?」
     記憶を辿る。もしかして半月くらい前に演習でこのあたりの地形を変えたからそのせいか…。確か、ボルトと。
    「ああ、それ俺のせいかも」
    「何?」
    「この前ボルトにつきあって闘り合ったらこのへんの土地が吹っ飛んじまったんだ。お前には悪ィけど何の木がどこにあったかなんて全部覚えてねえ。ボルトの暴走を止めるのに必死だったからさ」
     嘘じゃねえ。派手な親子喧嘩というか…結構な範囲の地形が変わっちまって、全部元通りにするのは時間がかかるから俺に近い場所は後回しにしたんだ。
     それが何だってんだ、と言おうとしたらサスケは直ぐに立ち上がった。眉間に皺を寄せて怖い顔をしている。
    「ふざけるなよ」
    「ふざけてねえってばよ。そもそも里の中に勝手に木を植えんなよ。こんだけ発展してんだから二十年後もそのままの形とは限らねえだろ」
    「お前に近いこの場所なら変わらないと思ったんだ。任務の報告ついでに立ち寄れるから丁度いい。なのになぜ俺の許可無くそんなことをした?」
    「許可無くって…。それを言いてえのは俺の方だぞ。お前名義の土地じゃねェのに勝手に木を植えんなよ」
    「もういい。しばらくお前の顔なんか見たくねえ。帰る」
    「はァ? 何拗ねてんだ。つうか帰るって…」
     引き留めたのに行っちまった。
     何なんだあいつ。五十になっても全く変わんねえな。俺はこの日がくるのをずっと待ってたってのに、会ってちょこっと話してたったの五分で終わりか?
     無くなっちまったからもういいって、いくら何でもそれはあんまりだろ…。俺だってサスケに渡したい物があったのに。


     そして俺たちは七十歳になった。あれからサスケと例の話はしていない。それどころかまともに話をしていない。このまま、あいつが渡したかった物の正体もわからずに死んじまうなんて嫌だな。
     俺から切り出すべきなのか──火影室の窓の先にある、白い景色に目をやったとき、まるでそれを見計らったようにサスケの鷹が飛んできた。
     ちょうど数十年前の今日、あの話をしたんだった。
     雪が降っていた。とても静かで、俺とサスケ以外この世界に誰もいないような、そんな気さえした。
     呼ばれて向かった先は木ノ葉の里を出る手前境目の場所だった。周りと比べて見るからに若い木が一本、そしてその前にサスケがいた。
     昔と同じ濃紺のコート。歳は、とったけど。その時のサスケは四十年前のあの日と変わらぬ姿に見えた。
    「ここなら下手に手は出せないと思ってな。望み通りとはいかなかったが、ある程度には育った」
     幹に触れながらサスケが言う。
     二十年前、ここに植えたんだと言う。その年でここまで大きくなるものなのかと不思議に思った。
    「お前が死んだらこの木の下にお前の骨を埋めさせてくれ。俺が先に死んだら、お前が俺の骨をここに埋めろ」
    「…え?」
     四十年越しの告白、いや、もっと重いものを告げられた気になって思わず瞬きをした。
    「お前と俺は古くからの因縁で知り合った。全てを片付けた今、その繋がりがまだ在るとは限らない。だが俺は次の世でもお前と共に生きたい。…迷わないように。お前の隣をもう一度歩けるように。そのために約束してくれ。来世も、その次も、必ず傍にいると。そうしたら俺も思い残すことなくこの世を去れる。これがずっと、俺がお前に渡したかった言葉だ」
     膝をつき、幹の周りの雪を手で触る。
     その下にある土を見つめながら白い息を吐く。
     サスケの姿を思い出す。昔、死後の世界について話した時のサスケの姿を。あの時どんな顔をしていたのかもっとよく見ておけばよかった。
    「…今日を迎える前に、俺が死んじまってたらどうするつもりだったんだってばよ」
    「考えたこともねえな。お前は必ず約束を守る男だから」
    「そう信じてくれてたなら嬉しい。お前の言葉が聞けてよかった。ずっと、楽しみにしてたんだ。お前が何をくれるのか…四十年も前から」
     本当は今日、あん時の話はどうなったんだって怒鳴るつもりだった。忘れてたらぶん殴ってやる、そのつもりだった。でも二十年の怒りも消え失せた。
     こんなの言われちまったら答えねえ訳にはいかない。俺が持ってきた物を一緒に埋めるのにも丁度いい。
    「俺もお前に渡したいものがあるんだ。お前ほど丁寧な言葉じゃねえし、大した理由もねえんだけど」
     きばこの蓋を開けて手紙を取り出す。それは俺が昔サスケに向けて書いた手紙だ。
    「来世でも一緒にいてくれ。必ずお前を幸せにする。…なんて、こんなことしなくても一緒にいられたかもな。考えてることが一緒だったんだから、多分そうそう離れねえってばよ。嫌だと思ってもきっと出会う。それでまた、二人で生きよう。そうしたらきっと寂しくない。俺もお前ももう独りにはならないはずだ」
     それでも念のため、骨は、埋められるかわからねえけど手紙くらいは。サスケが自分の一部として残してくれたこの木の下に埋めれば、きっと次も出会えると思う。次の器が見つかるまでの間も、その先も。



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     どちらも間違いではない。だが、永続的な平和を願うなら不安要素はできるだけ排除して次世代に繋げたい。そう考えて毎日火影業に勤しんでいる。しかし、理想とは裏腹に簡単にいかない問題であるのも事実だ。
     そもそもナルトは政治要素が絡んだ化かし合いなど最も不得意な分野だ。専らシカマルの助言でなんとか乗り切れているが、いつ手のひらを返してくるかも知れない大名たちに最近は辟易してきている。わかっている。それが自分の仕事だ。地道に道を作っていくしかない。それでももどかしさに歯噛みするときもある。
    10510