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    buntan101

    イラスト置き場
    今はポップン(Deuil、スマユリ、赤黒)

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    buntan101

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    スマユリ前提なんですけどラブ要素全然なくなっちゃいました。
    スマイルが喫煙者。アッシュくんは被害者。スマイルがユーリに怒られる話。

    「ユーリが足りなくて死にそう」
    聞き違えたかと思う程突拍子もない台詞と共に姿を現したのは、終日部屋に籠りきりだったスマイルだった。調理場の扉を開くと手近にあった丸椅子を引き寄せよろよろと倒れ込むように腰を降ろす。元より青白い化粧を施しているその顔面は、言葉の通り一層どんよりと陰を落としていた。翌日の食事の仕込みを終え、洗い物も粗方片付き一息ついていたアッシュは突然の訪問者に思い切り顔を顰める。
    「煙草くさ…」
    思えば朝食も昼食も手が付けられていなかった(曲作りが乗ってきた時のスマイルには良くあることだけれども)、恐らく何も食べず一日煙草だけで済ませたのだろう。彼の右手には吸い殻が山盛りになった灰皿、左手の指先には正に煙を燻らすそれ。スマイルははぁ……とわざとらしく溜息をついたかと思うと、調理台に伏せていた顔だけを上げる。不満げな表情を隠す事もせずにアッシュに視線を向けた。
    「だって、ユーリがいないんだもん」
    「だもんじゃねぇっスよ、それにそんな吸ったらバレるんじゃ」
    「帰ってくるまでには証拠隠滅しておくし」
    そう、数日前から城の主人は珍しく不在にしていた。広告の撮影という何の変哲もない仕事ではあるが、辺鄙な場所での撮影ということで泊まりがけとなったのだった。出発の際にアッシュとスマイルが"はじめてのおつかい"よろしく心配し、ユーリが怒号を上げる一幕もあったのだが……それは別の話。
    スマイルの様子から察するに「ユーリがいなくて寂しいから煙草で紛らわしても仕方ないでしょ」と言ったところか。とはいえたかが数日間の話である。それでいちいちこんなに摩耗されては堪らないとアッシュも思わず溜め息を漏らす。それに、用意しておいた食事を手付かずにされるのは些か気に障るものである。1日の仕事を終えた筈の換気扇のスイッチをONにすると、スマイルとはなるべく距離を取るよう、対角線上にあった丸椅子にアッシュも腰を下ろした。
    「電話でもすればいいじゃないスか」
    「こんな格好悪いとこ見せたくない」
    格好悪い自覚はあるのか……と内心笑いをこぼしたのがうっかり顔に出てしまったらしい。スマイルは身体を起こすと肘をつき唇を尖らせる。
    「アッシュくんたらひどいなぁ……」
    しまいにはよよよ、と泣き真似までし始めた透明人間を見て、アッシュはどうしたものかと思考を巡らせる。既に時刻は23時にもなろうとしている。今日一日スマイルが何をしていたのかは知らないが、自分は一通りの家事と仕事をこなして休もうとしていたところだったのだ。正直……眠い。
    「仕方ないっスね」
    にわかにポケットに右手を滑らせると、スマートフォンを取り出して素早くタップする。その仕草を見て何かを察したスマイルが、それまでのぐったりした様子からは想像もつかない位の素早さで立ち上がる。
    「あ!ちょっと!アッシュくん!」
    スマイルが駆け寄りアッシュの手から端末を奪おうとするが、距離を取って座っていたせいでメッセージアプリのビデオ通話を開始するまでには間に合わない。呼び出し中の画面に切り替わったのがチラリと見え、スマイルの顔がより一層苦々しくなる。
    「もー俺も眠たいんス、ユーリが足りないなら補給してスマもさっさと寝て下さい!」
    「だからそれはダメなん……」
    『アッシュ?どうした、何か用か』
    思い切り手を上に伸ばし、スマートフォンを奪われないように抵抗していたせいで自然と高い位置から自撮りをしているようにユーリからは見えているのだろう。画面に表示された我らがリーダーは寝る支度を整えベッドに腰掛けているようだが、画面越しの状況が分からないようで目を丸くしてこちらを見ている。
    こんな時に限って1コールで出るなんてどういうこと…と内心苦虫を噛み潰しながら、彼に疑われないよう自然な仕草を装い、スマイルが左手を自身の腰の後ろに回す。その仕草を横目で見ていたアッシュは床に灰が落ちないか内心ハラハラしつつも、高く掲げていた手を顔の高さまで戻してユーリに呼びかけた。
    「夜分にすみません、ユーリ。用があるのは俺じゃなくてスマイルなんスけど……」
    『……そうか。スマイル、何か申し開きはあるか?』
    「エ? ……あ‼︎」
    数日間離れていただけだが、随分長いこと顔を見ていなかった気がする…などと感慨に耽る間もなく画面の向こうのユーリの目元がくっと細められた。これは……不機嫌な時の仕草だ。長い付き合いからスマイルは察する。一瞬の思考の空白の後……吸い殻を捨てようと持ってきていた灰皿の存在を思い出す。今アッシュとスマイルが立っている場所から対角線上の調理台の上に置かれたままのそれは、背景に映り込みユーリの知るところとなってしまったのであった。綺麗に綺麗に形作られた笑みが今は恐ろしい。
    『そうか、何も言うことはないか』
    「あのユーリさん」
    問答無用。画面越しでも凄みを効かせるユーリにスマイルはもう何も言えず、ガクガクと震えるばかりだ。不意に表情が和らいだかと思えば、自身の髪の毛をさらさらと弄りながら続ける。
    『そうだ、伝え忘れていたが…天候に恵まれたお陰で撮影が早く終わってな。明日の午前には戻れそうだ』
    「エ」
    『アッシュ、済まないが昼食から用意を頼む』
    「あ、了解っス」
    『それではな。……良い夜を過ごすといい』
    それはさながら最後通牒にも聞こえる挨拶だった。

    翌日。
    予告よりも更に前倒しで戻ってきたユーリと、「証拠隠滅」中のスマイルが鉢合わせしたところを目撃したアッシュ。……以降のやり取りは(恐ろしさの余り)知るところではないが、夕食時に姿を表したスマイルの憔悴しきった表情と「いただきます」「ごちそうさま」の2ワードしか口にしなかったことで概ね察することが出来たのであった。
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     鋭心先輩の口からは際限なく罪状が零れ落ちる。いま、俺は神父で鋭心先輩は裁かれることのなかった罪人だった。彼の告白する罪のひとつひとつがどんな罪に問われるのかは知らないけれど、その積み重ねの先にこんなどうしようもない人間が生まれてしまったのだということが悲しいほどにわかってしまう、そういう声だ。
     正直、こんな役を鋭心先輩に演じてほしくはなかった。鋭心先輩が次の仕事で演じるのは罪を犯したのに罰を与えられなかった人間だ。キーパーソンでもなんでもない、ただ世界の不条理を示すだけの端役で、やることは道端を歩くこと、懺悔室でたっぷり2分をかけて罪を吐露すること、そして何を守るでもなく車に轢かれることだけ。未来すら描かれることのない、亡霊のような役だ。
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