猫の日「コンニチハ」
時刻は昼過ぎ。リビングの天井まである大きな窓から太陽の光がさんさんと射し込んできている。やや眩しくはあるが、日の光の暖かさは嫌いではない。ソファに腰掛け、アッシュに用意させた紅茶をひとり傾けていた時のこと。
音もなくリビングに侵入してきていたらしいそれの、わざとらしい挨拶に私は思わず肩を震わせてしまう。
「……スマイル。突然声を掛けるなと何度」
言えば分かるのか。私は不機嫌さを隠さず振り向き奴を見上げ……そして言葉を失った。
「にゃーん」
私が振り向いたタイミングに合わせ、にっこりと満面の笑みを浮かべたスマイル……の頭頂部には、いわゆる猫耳が生えていた。黒くつやつやとした毛並みのそれは、一見すると本物のようにも見える。身につけているものも、モックネックの黒いセーターに黒いスラックスと珍しく全身黒ずくめだ。
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