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    見不乃ーミズノー

    練習、あとは表に載せてないものを載せていきます。
    そゆことで!

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    POIPOI 11

    ある新米教師の昔話、序章。

    『追憶のプロローグー杜々凪最永ー』「はぁ………。」
    寒空の下、ため息をつく。

    昼休みの屋上。
    風は冷たいがまだ日差しは暖かい。
    持ってきたお弁当箱の中身はもう空になっている。


    ボーッと空を眺めていたが
    ふと、自らのうなじに手をやる。
    もう何回目だろう。
    そこに今まであったものが無いことを確認するのは。

    「スースーする…。そら、そうかぁ。」

    先週。
    クリスマスの催し前にと
    実家で髪を少し切ってもらうつもりで帰省した。
    と、言っても勤務している学校から近い商店街の
    中道を入ったところにあるので
    帰省という言い方が、間違ってはないが
    大袈裟に聞こえる。


    毛先を少し切ってもらうだけのつもりだったのだ。
    本当に少し。

    だからわざわざ
    店とかに行かなくてもいいか!と
    軽く考えたのが悪かった。

    そして…結果、数分の間にバッサリと…。

    「せやけど、もう言うたかてしゃーないのんわかってんやって………」

    独り言を呟いた。

    わかっている。
    頭では理解している。
    でも………。

    往生際の悪い自分が嫌になる。
    こんな気持ちももう何度目か。

    「何が仕方ないんです??」

    横から声がした。

    ビクッとしてから横を見上げる。

    見ると少し怒ったような表情の
    女性教員の顔が自分を見下ろしていた。

    「なんや、クマか~っ!はぁ~…
    ビックリするやん、くノ一か!お前はぁ~。」

    と、肩に入った力を抜いて壁にもたれ掛かる。

    杜々凪がもたれている壁の
    対角になっている面に屋上の入り口がある。
    熊谷先生が隣にくるまで
    誰かが近づいているのも気づかなかった。
    だいぶ自分の世界に入り込んでいたらしい。


    「探しましたよ!
    さっき私のお気に入りの消しゴム貸したでしょ?
    授業が始まる前に回収しとこうと思ったんです!
    とっと先生すーぐ忘れるんですから!」

    少し膨れて見せる熊谷先生に
    思い出したように杜々凪は手をポンと打ち鳴らした。


    「おー!せやったせやった!ちょっと修正したくて借りてそのままやったわ!」
    すまん、すまん~と言ってから自分のポケットに手をのばした。

    「もー!しっかりしてくださよー!
    うぅ~っもう風が冷たいですねぇ…。」
    肩からかけた厚めのストール越しに自分の腕を抱くようにさする。

    「でも、日向はまだあったかいやろ?」
    そう言いながら空を扇ぐ。

    「あ、たしかに!ここちょうど風避けになる場所なんですねぇ。暖かい…。」

    彼女はいつも大体話に乗ってくれるのである。
    だからか大元の話が脱線しがちだ。


    「それで?何が仕方なかったんですか?」
    肩に引っかけたストールをかけ直し、
    彼女は杜々凪の隣に腰を下ろした。


    「え?あー………まぁ………。」

    「もしかして、髪の毛のことですか??」と言ったひと言に「う…」と言葉を詰まらす。


    「まだ言ってるんですか~!?
    この前も言いましたけど私は似合ってると思いますよ~?」

    「褒めてくれるんは素直に嬉しいねんけどなぁ…。」
    杜々凪は複雑な顔をして空を再び見上げた。



    「そもそも、なんで髪を伸ばしてたんですか?」



    熊谷先生の質問に少しドキッとする。

    「………うん……まぁ……せやなぁ…。」

    漂うような返事が口から漏れる。

    自分の話をするのは苦手だ。
    特にその話は自分が情けなくなってしまうような、
    そんな話なのだ。

    でも………

    今の自分のモヤモヤとした…
    いつまでも引きずるような気持ちの悪い感覚。
    これを軽くするには誰かに聞いてもらうのも
    ひとつの手かもしれない。


    そんな気にもなった。

    それは相手が相手だったからかもしれない。
    熊谷絢音とは入学式からの付き合いだが、
    お互い何かと気が合う。
    友人が少なかった杜々凪にとって
    数少ない『友人』と呼べる一人でもあるのだ。


    「………クマ。」

    「はい。」

    「おしるこ好き?」

    「はい?」


    100円ショップで手に入るような
    熱いものも注げる紙コップを熊谷先生に持たせ、そこに自分で作ったおしるこを注ぎいれる。
    小豆の甘い香りと湯気がほわっと広がり、青空に溶けていく。

    「はい、おあがり~~。」
    おばちゃんのような台詞を発しながら自分の分のお汁粉を注ぐ。

    「わ!あったかぁ~い!
    いただきま~す…ってなんでお汁粉?」
    受け取ったはいいが疑問符を頭に浮かべ、首をかしげながら杜々凪の顔を見る。

    「ちょっとまぁ、話聞いてもらおう思うて。…しょーもないし、苦い話かもしれんから。」
    いつになく、しんみりそう言うとひと口お汁粉を飲んだ。

    「うん、甘い!美味い!」

    「もう、クリスマス前で合コンの為に甘い物我慢したりしてるこっちの気も知らないでー!………あ、美味しいっ!
    あまーい!お餅もほしくなっちゃう~っ。今度はお餅入れましょう!」

    「合コンの為っちゅーんはどこいったんや。」

    思わず呆れた表情を浮かべ、
    もう一口お汁粉をすする。

    少し間を置いてから杜々凪は口を開いた。

    「俺自身の昔話や。」

    そういうと杜々凪は
    ポツリポツリと話はじめたのだった。






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