笑顔が見たくて(2023.11.02)「そんな顔をしないで、ベイビー」
椅子に座るヘンリーの前に膝をついたアレックスは、そう言って悲しみの表情を浮かべた。凛々しい眉はすっかり八の字に下がってしまっている。
「……わかってる」
ヘンリーは納得しているとは言い難い声で返事をして顔を逸らした。大好きなアレックスにこんな顔をさせていることが申し訳なくて、自分の不甲斐なさに鼻の奥がつん、と痛くなる。
「ヘンリー」
アレックスが大きな手で恋人の頬を優しく挟んでちゅ、と鼻先に口づける。
「笑ったのは、僕も昔同じ失敗をしでかしたことがあって、それを思い出したからだ。決して君を馬鹿にしたわけじゃない。でも、君を傷つけたね」
ごめん、と真摯な声音で謝るアレックスに、ヘンリーは頭を振った。
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