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    reika_julius

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    POIPOI 19

    reika_julius

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    再放送などは面倒でしない主義なのですがこれはポイピクの方が読みやすいなと思いこちらにまとめた

    一番星の輝きをこの国で1番大きな劇場。そこは今多くの警察車両に取り囲まれ空にはテレビ局の中継ヘリが飛んでいる。大きな事件が起こった訳では無い、これから起こるのだ。
    「遂にこれを狙ってきたな……“劇場のアルケミスト”め!!」
    劇場の中、役者達が待機する舞台袖にて上司はそう息巻く。男はため息をついた。
    誰が名付けたか“劇場のアルケミスト”─それは2年ほど前から舞台に使用される道具を狙う神出鬼没の怪盗の名前だ。警察がどんなに手を尽くしてもいつもするりと抜け道を作り出して華麗に盗み出す。その大胆で鮮やかな手口に彼を好むファンも少なくない。そんな怪盗から昨日警視庁に届いた予告状。そこにはこう書かれていた。
    「“愛しのロミオ”を頂きます。 劇場のアルケミストより」
    たった1枚その紙っぺらのせいで多くの警察官の土曜日の休みは消え失せた。ため息をついたこの男もそうだ。本当なら今日は家でのんべんだらりと怠惰に過ごす予定だったというのに予告状のせいで朝から包囲網の準備と警備に追われている。
    今回狙われている“愛しのロミオ”というのは本日行われる劇に使用される小道具の短剣のことだった。ロミオ、という名の通り『ロミオとジュリエット』にてそれは披露される。何故これが狙われるのかはしっかりと順を追って説明せねばなるまい。
    まず、この劇場で行われる『ロミオとジュリエット』というのはただの劇では無い。2年に1度その年で1番演技力が高いといわれる役者を主役に置き脇を固める役者すら非常にレベルが高い者しか選ばれない。主役はおろか、その舞台に立てるだけでも大変な名誉として称えられる。その舞台で使用されるのが前述した“愛しのロミオ”という短剣だ。しかしただの小道具と思うことなかれ、確かに殺傷能力はない玩具同然というものの柄には美しく輝く宝石が嵌め込まれている。この国で1番有名な舞台小道具と云えば今ならばこの“愛しのロミオ”だろう。“劇場のアルケミスト”が現れたのは2年前、前回の『ロミオとジュリエット』が千秋楽を迎えた後だったため彼は必ず今回盗みに来ると警察は予測していたのだ。その割にはドタバタと忙しなかったが。
    「待ってろアルケミスト!!今回はお前の好きな通りにはさせんぞ!!」
    舞台袖に上司の声が轟く。さて今日はその栄誉ある『ロミオとジュリエット』の初日だった。本番まであと10分。役者達はこんなイレギュラーな事態に置かれていても流石選び抜かれた者だけある、警察を気にすることも無くこちらとは全く違う緊張感を持って控えていた。“劇場のアルケミスト”が現れるのはいつも舞台上でその小道具が使用される瞬間だ。劇をぶち壊しながら現れ、しかし舞台に馴染みながら違和感を払拭したまま盗み出す。相当演技力の高い男だ。真剣に役者をやればこの『ロミオとジュリエット』の舞台にだって立てるのではないだろうかと言う者は多い。そんな演技力に秀でた怪盗と国1番と認められた舞台役者の共演を誰もが楽しみにしているようだ、観客席は期待に湧いており持ち込み禁止のスマートフォンを取り上げられている光景が時折見えた。
    「馬鹿馬鹿しいな……」
    その騒がしい中ふとちらりと聞こえた呟き。声の聞こえた方を見やると発した主はこの舞台の主役も主役、役者の最高峰に立った若き才能ロミオ役の天馬司だった。特徴的なグラデーションがかかる金髪に宝石のような金の瞳、そして幼さの残る甘い顔が大人気の今をときめく役者その人だ。しかし今は青をベースにした14世紀イタリアの名家を身にまといながら甘さをどこかへ遣った険しい顔で空を見つめている。怒っているような刺々しい雰囲気はテレビでは一切見れない顔だ。そんな物珍しさに男はほんの少し好奇心が湧きついつい彼に話しかけてしまった。
    「せっかくの舞台初日だというのに、アルケミストのせいで……その、大変ですね。」
    「ん?ああ、まぁそうだな。だがアイツなら話をめちゃくちゃにはしないだろうからな。オレはただ観客に最高の舞台を見せるだけだ。」
    つっけんどん、ぶっきらぼう、吐き捨てるような言葉に男は萎縮する。やはり少し怒っているようだ。
    「す、すみませんでした……」
    「あぁ、約束したというのにアイツは観にも来ないらしいからな。オレの舞台よりもずっっと大事なものがあるらしい、いやいいんだがな、オレだってあんな奴より観客と舞台の方が大事だって言えるから……」
    頭を下げてそそくさと立ち去ろうとしたその時ボソボソと呟かれたその言葉は怒りと言うよりも、少々異なる感情が見える。もしかすると彼も緊張しているのかもしれない。面識のない警察官にこんな話をする程度には。
    「……彼女さん、とかですか?」
    「…………同棲してる恋人のようなものだ。」
    恋人。果たして自分はそんな話を聞いても良かったのだろうか。彼は超人気俳優だ。品行方正、誠実というイメージにスキャンダルなどひとつも無い。そして彼女の有無も公表されたことも一切無かった。世間のファンはその事実を知ったらどうしてしまうのだろうか。
    「大体、一昨日必ず観に行くと言ってきた直後だぞ?最低な奴だと思わないか?オレがこの舞台にいるのだからお前は必要無いと、むしろなんで一緒に立ってくれなかったんだ……。そんなことせずとも、いつかきっと見つかるとオレはそう言っているのに……」
    「……………………」
    要領を得ない恋人のようなものへの愚痴に口を噤む。下手に口出ししてはいけないような気がする。この話から推測するに恋人のようなものというのは同業者らしい、ますますのスキャンダルだ。正直めちゃくちゃ気になるところではあるがそろそろ止めた方が良いと己の好奇心を理性が止める。この劇場はテレビカメラの一台、スマホすら入れない場所だが警察は特別に無線機を持っているし何より人の口に戸は立てられない。
    「あの、天馬さん、そろそろ──」
    これ以上この話を自分が聞いてはいけない。止めようとしたその時バチンッという音と共に視界が奪われた。
    「なんだ?!!?」
    「停電か?!」
    舞台袖、観客席から悲鳴が上がる。無線機からは周りの建物は停電なんて起こしていないという報告。
    「まさか、“劇場のアルケミスト”か?!」
    「まだ開演5分前ですよ!!」
    阿鼻叫喚の中で懐中電灯を片手に“愛しのロミオ”が隠されている場所まで上司と共に走る。こんなことをするのは1人しか思い浮かばないがこれまで彼は上演中に必ず盗み出していた。だというのに何故今日は開演前に仕掛けてきたのか。
    「本番中に本物を使わせないとか言う会話がバレたんじゃないですか?!」
    「そんな訳あるか!!とにかく奴をとっ捕まえるぞ!!」
    開演時間1分前にようやく電気が復活する。劇場には非常灯が作動するはずだったのだが何か細工をしたのだろう。相変わらず頭の回る怪盗だ。
    さて“愛しのロミオ”の保管場所まで来たが特に何かが起こっている訳では無いようだ。元々この場所だけ電池式のライトで小道具を照らしていたので停電中でも誰かがそれに手をかければ目視出来るはずなのだ。しかし誰も何も見ていないという。
    「どういうことだ……?!」
    上司の呟きは虚空に消える。特殊なライトで照らすと色を変えるその宝石はしっかりと本物だった。盗みは失敗したのだろうか。開演を知らせるブザーが遠くで鳴る。一体何が起こったのか。緊張感が困惑へと変わる中無線が音を発した。告げられた言葉はあまりにも衝撃的な事実だ。

    天馬司が居ない。

    この舞台の主役が忽然と消えてしまったと無線機の奥で焦る声が聞こえる。男と上司は元いた舞台袖へと全力で駆け抜けた。


    ───────


    この国の最高峰、2年に1度の『ロミオとジュリエット』の主役。司はその役を貰ったとき心の底から喜んだ。自分の実力が周囲に認められたのだと。そしてそれは同棲中の恋人も祝福をしてくれた。
    だというのに、あの予告状。
    必ず初日に来ると言ったでは無いか、何がなんでも来ると。嘘つきめ。
    心の中は怒りに煮えくり返り面識のない警察にプライベートな愚痴をこぼすほどだった。

    天馬司は怪盗の正体を知っていた。“劇場のアルケミスト”─そう呼ばれる彼が自分の恋人であることを、警察に追われる彼が様々な舞台の演出を手掛ける天才演出家の神代類という事実を知っていた。
    本来ならそんな危険なことは当然辞めて欲しかった。いつ警察に逮捕されるか分からない。なまじ表の顔は有名人であるのだから素性だって一般人に比べれば検討がつきやすいだろう。だからやめて欲しいのに。類は聞かない。2年近くずっと警察の操作をかいくぐり小道具を盗み出してはこれは違ったと元あった場所に返しに行く。
    もういいんだ、そんなことしなくたって。司の言葉は届かない。
    類が怪盗をし始めたのは取り戻したい宝石があるからだ。“一番星”と呼ばれるそれはかつて司が亡き母から譲り受けたとある舞台の小道具。公にはされていない司の母親は数十年前国を湧かせた大女優だった。その母が当時引退前最後を飾った舞台の道具がその“一番星”だ。もう一生あなたのような役者は現れないだろうとその舞台は母を最後に上演されることはなくなりそのまま“一番星”は息子である司の手に渡った。
    3年前のある日、その日は司が大きなオーディションに臨む日だった。そしてその日“一番星”を司は不用心にも鞄に入れて持ち歩いていた。オーディションに臨む日はいつもそうしていたのだ。亡き母が見守ってくれているような気がして、誰にも言わずただ鞄の中にしまい込んで抱きしめるだけで大丈夫だと安心出来る。文脈からもう分かるだろう、そう、その日司は母の形見である“一番星”を何者かによって盗まれてしまったのだ。誰がなんて分からない、どこにやってしまったのかも分からない。直ぐに警察に通報しようとしたが“一番星”のことを知られれば司の母は公になるだろう。せっかくこれまで母の功績に頼らず必死にこの仕事をこなしていたのにここで母の名前を出すことははばかられた。
    当時司と母の関係を知っていたのはごく一部の舞台関係者と母方の祖母、身体の弱い妹、そして恋人である類だけだった。既に同棲を始めていた家に帰るとまず司は類に泣きついた。沢山の後悔の言葉を連ねた。類はただ黙って司を抱きしめ、その日はそのまま腕の中で眠ってしまった。
    翌日から類は司の為に盗まれた“一番星”を探し回った。類自身演出家という舞台関係者なのだ、すぐ見つけてみせると言って様々な人物をあたったらしい。しかしそれは見つからない。類曰く宝石は国外に出ている様子はないらしい。どう調べたのかは分からないが類が言うならそうなのだろうと司はそれを信じて形見が帰ってくることを祈った。そんな中、司は名前も知らない劇団の小道具の中に“一番星”によく似た宝石を見る。小道具の形は違うが幼い頃から見てきた宝石を見間違うはずもない。すぐにそれを取り返そうとするも不幸なタイミングが重なりそれは阻まれ後日その劇団に問い合わせるとその小道具は元々その劇団のものではなく借り物なのだという。借りた人の名前を聞いてもその人物は見つからなかった。
    「木を隠すなら森の中……だね。“一番星”はかつて君のお母様に譲られて以降君と妹さん、そして僕以外誰も目にしてないんだ。君はそれだと確信出来ても他の人には分からないだろうね。」
    司が生まれるずっと前に人々の前から姿を消した“一番星”に気づく人はそう居ない。類はそう言った。“一番星”は公演中の映像も残っていなければ小道具の図録すら残っていない。全く当たり前の事だった。
    けれど、存在していることは分かった。それだけ分かれば良いと司は類に笑った。舞台の小道具として使われるなら“一番星”も本望だろうと。
    しかし類はそれを良しと思わなかったらしい。2年前、いきなり地方の劇場で小道具が盗まれた。美しい金の宝石が輝く小道具だった。司は舞台を終えてその知らせを聞き、かつて自分の“一番星”も盗まれたことを思い出しながら帰ると白のシルクハットにスーツを纏い金の石が嵌め込まれた小道具を持つ類が出迎えた。これは違うかい?なんていつもの調子で言いながら。唖然とした。まさか、自分の恋人がその事件の犯人なんて思わなかった。今すぐそんな馬鹿なことはやめろと止めようとした。でも止めることは出来なかった。“一番星”を必ず見つけ出すとあの時とびきりの笑顔で宣言してくれたから。お願いと言う言葉を預けてしまったから。


    ───────


    「ねぇ司くん、そんなに怒んないでよ。」
    「うるさい!!なんなんだ今日は!!オレの舞台を観に来ると言ったくせに、来てくれないし!挙句の果てに劇場から連れ出すし!!舞台をすっぽかしたなんて、最低最悪の役者だ!!」

    劇場が停電した後司は大きく動揺した。てっきり舞台のラストシーンまで来ないと思っていたのにいつにも増して早い来場だ。警察の懐中電灯がスポットライトのように張りめぐる混沌の中ふと背後から声をかけられた。

    「やぁ、愛しのロミオ。今宵は君を頂くよ。」

    それはまさしく怪盗の、類の声だった。驚く間もなく衣装を軽く脱がされて何かを羽織り、頭からマスクのような物を被された。そのまま手を引かれて大混乱の劇場を抜け出し警察車両と慌てふためいて外へ逃げ出た観客の波を怪しまれないままするりと抜けて類の車で家へと帰ってきたのだ。しかも結局“愛しのロミオ”は盗んでいなかった。何のために警察を呼んだのだと司は怒る。しかし類はあっけらかんと司の怒りを受け流す。
    「いやぁ、それが昨日舞台関係者から“愛しのロミオ”の宝石の色は“一番星”とは全く違うことを聞いてしまってね。でもやっぱり“愛しのロミオ”だって同じく図録も映像も残っていない小道具だろう?宝石を嵌めかえたって気づく人はそう居ないだろうからね。今のうちに警察にその見た目を覚えてもらおうと思ったのさ。それにただでさえ今回は必ず僕がアレを狙うだろうと警察が数日前から劇場付近を彷徨いていたからやっぱり期待には応えたいところだし……」
    「そんな理由で…………」
    「司くん、そんな理由なんて言わないでおくれ。君の“一番星”を盗んだ人物は小道具の中に上手く隠してあちこちを転々としているのだから。何のためにそんなことをしているのかは僕には分からないけど……木を隠すなら森の中、なら隠せないように森を焼き尽くしてしまった方が早いだろう?」
    テレビで大々的に盗み出した小道具がクローズアップされたり警察が守るためにその小道具を目にする。その過程が大事だと類は言う。“一番星”を盗み出した人物は確実にその価値を知っている。だからこそ売りもせず小道具の中に紛れ込ませているのだろうと。そしてその意味を知ってるからこそきっと紛れ込ませる舞台もより大きなものを望むはずだと。その際の逃げ道を無くす為に今類は大きな回り道をしている。決して“一番星”を狙っているとは気づかれぬように。
    「でも何も盗まないというのはちょっと怪盗としてどうなんだろうと思ったからね。僕の愛しのロミオを貰ったよ。」
    2人きりの部屋の中類は司の頭を撫でながらそう言う。しかし司の表情は暗いままだった。
    「なぁ類、どうしてお前は怪盗なんだ……?」
    声が部屋に落ちる。頭の上の手が止まる。
    なんて馬鹿なことを言ったんだと司は自嘲しそうになった。先程まであった怒りは類の言い分を聞いて既にに冷えていた。なんでだなんて分かってる。自分のせいだ。類は自分の為に危険を犯している。それでも、
    「類、怪盗という立場を捨ててくれ。オレももう“一番星”のことは諦めるから。ただの恋人に戻ってくれ……」
    「司くん…………」
    例えなぞらえていたとしてもこれは本心からの言葉だった。危険なことはやめて欲しい。恋人が警察におわれ続けているのを黙って見守るのはもう限界なのだ。そして何よりこの怪盗のせいで演出家としての活動を少々減らしていた。これによって今回の『ロミオとジュリエット』の演出家最有力候補として類の名前が挙がっていたはずなのに別の人物に取って代わられてしまった。共に舞台を作り上げようと約束したのに。
    「……僕のジュリエット、僕には君に可能性を捨てろなんて言えない。そして僕もこの怪盗という立場を捨てたくない。」
    「もういいだろう?いつかきっと見つかるから、お前がそんな犯罪を犯す必要なんて無いんだ……!!」
    「嫌だよ。僕は悲劇にはしたくない。必ず大団円で終わらせてみせる。何も捨てない、捨てさせない!」
    真っ直ぐにこちらを見据えて類はそう宣言する。
    どうして分かってくれないのだろう。どうしてあの日類を頼ってしまったのだろう。司の胸の中に後悔と罪悪感が湧く。親身になってくれることがこんなに辛く思うのならば一緒に諦めて欲しいのに。けれどこんなに必死になってくれることに嬉しさを覚える自分も勿論いる。愛されているんだと。
    司の瞳からポロポロと涙が落ちる。
    「司く──」
    「やっぱり無理だ……っ!!類が、囚われてしまったら、オレは会いに行くことが出来ないっ!怖いんだ、類……!!」
    白く光る電灯の下で司は類の手を握り濡れた顔を胸へ押し付けた。類はそれでも引く気配はない。頑固者だ、昔から。頭は柔らかいくせにこうと決めると中々曲げない。特に司と舞台が関わるとそれは顕著だ。
    「ふふ、司くん、僕はそんなにヤワなジュリエットじゃないよ。ロミオを待たずしてバルコニーから飛び降りて駆け落ちしに行く。」
    「そんなお転婆なジュリエットには100年の恋も冷めてしまうかもな……っ!」
    「司くん、分かってよ。僕は君を愛してる。辞めることなんて出来ないよ。それに、割と楽しいんだこの怪盗というのも。舞台じゃなかなか披露出来ない装置を試したりも出来るから案外気に入ってるんだよ。」
    でもその代わり演出家としての仕事を犠牲にしてるじゃないかとは司は言わなかった。もう仕方がない。こうなったら引いてくれない。ただひたすら類の手を強く握りしめた。居なくなってくれるなと祈る気持ちを込めて。
    「なら、類。せめて今だけは怪盗という立場を忘れてくれないか?」
    「どうしたんだい?急に……」
    類の身体を引いてソファの上に誘導する。ソファに座る類に跨るように乗って涙は拭かないままそっと口付けをしようとした。
    「類……」
    「司くん……」
    類の手が背中に回される。

    とその時─大きな音と共に類のスマホに着信が入った。

    「うわぁぁああっっっ!!!」
    「いたっっ!!!ちょ、つかさく、!」

    急な着信音についつい驚き、反射的に上がった腕が類の顔に直撃した。その一撃に類は痛がりながらもポケットからスマホを取り出す。かけてきた相手は警察だった。もしかして、正体を知られたのかと司が顔を蒼白にして固まる中類は躊躇わずに受信ボタンを押してそのまま通話を始める。どうやら劇団員仲間が司と類が同じ家に住んでいることを知っていてそれでかけてきたらしい。ひっそりと司は胸を撫で下ろす。
    「ええ、分かりました。もし家に帰ってくれば連絡します。そちらも彼を見つけたら連絡をお願いします。」
    かつては演出家兼役者として数々の舞台で培った度胸の発揮しどころだった。不自然な態度を悟られぬよう声色も息遣いも塗り替える。
    やっぱり、共に舞台に立ちたかったと司はその様子を見て残念に思った。
    「終わったよ司くん、5分後くらいに警察に連絡するからね。」
    「…………そうか。……やっぱりお前の演技を見るのもオレは好きだな。」
    「おやおや、ロミオにそんなことを言って貰えるなんて光栄だね。ところでキスはまだかい?待っているんだけど。」
    ソファの上で司を歓迎するように腕を広げる類に、司はムードが壊れて若干恥ずかしくなったのを隠すため知らんと返してソファを離れる。全く今は幸運だから捕まってないだけなんだぞとまたも説教タイムだ。こんなことになるなんて。類はひっそり警察を恨む。
    「それでも─僕は君をくすませる憂いを盗み出すために怪盗を始めたんだ。何盗めていない今この名を捨てる訳には行かないんだよ……」
    「?類、何か言ったか?」
    「何でもないよ。」
    ハッピーエンドを掴むため怪盗は明日も“一番星”を探す──
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