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    reika_julius

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    私が夏バテしてます

    「類~?類は居ないのか?」

    帰りのHRを終えて隣の教室へ顔を覗かせると目当ての人物はそこにはいなかった。今日は見たいものがあるから一緒に帰ろうと朝に誘ってきたのは類からだというのにどこにも見当たらない。類のクラスメイト曰く6時限目から教室には居なかったという。その事実をきいた司は授業は真面目に受けろと言っているだろうと独りごちて広い校舎の廊下を踏みつける。スマホの通知欄は空のまま。連絡ひとつ寄越さず消えてしまった類に苛立ちを覚えながらもどこにいるのか推測する。屋上や中庭、花壇、よく居るのは大体そこだ。しかしそこに必ず居るとは限らない。神出鬼没という言葉がよく似合う類は思いもよらない場所にいることだって多かった。1日が終わったことに湧く生徒たちの波の中、司は頭を抱えたい気持ちを抑えてまずは屋上に向かう。

    放課後の屋上には誰も居なかった。そういえば文化祭の時は屋上で合流していたな、なんて不意に思い出す。今回の屋上は奇跡を起こせなかったようだ。と、そこまで考えてわざわざ探さずとも電話をかければ良いじゃないかと閃いた。あの日の文化祭も結局電話をかければよかったという話だったような気がする。
    おもむろにスマホを取り出して類へ電話をかけるとそれはすぐに繋がった。

    「類か?今どこに居るんだ?」
    『え?今かい?図書室にいるよ?』

    向こうから聞こえるのは悪気ひとつ感じられない至って普段通りの類の声だった。しかも─

    『何か用事でもあるのかい?』
    「なに?!はあ、お前なぁ…………」

    あろうことか自分から言い出した約束を忘れているようだった。類の焦る声が聞こえるスマホを手にしたまま思わず屋上の床にへたり込む。なんて酷い男なんだ、こっちは朝からずっと期待と緊張の中過ごしてきたというのにとここに居ないのをいいことに胸中で類を責め立てた。そして落ち込んだ。約束に対して落ち着かない気持ちのままだったのは自分だけだということを痛感してしまった。つまるところ脈ナシだ。

    司は類に対してただの友人、ショー仲間以上の感情をもっていた。出来ることなら類にとって特別でありたい、ありふれた友人・仲間の一人でありたくない。一言で言うならばその感情は恋だった。故に珍しくも類の方から一緒に帰ろうと誘われた今日は舞い上がっていたのだ。しかし類の方はどうやら違うらしい、約束のことをすっかり忘れている。元々同性同士の恋が実るなんて思ってもいなかったがそれでも辛いものは辛い。
    ──が、しかし。そもそも類はショーバカと司に言われるほどの人物だ。図書室で何かショーに対するいい案でも思いついて約束のことも忘れてしまったのかもしれないと司は思い直して通話を切り屋上を後にする。司は案外ポジティブだった。または類に恋という感情を期待していないとも言う。

    さて図書室に入って最初に飛び込んできたのは司の身長を優に超える本棚とそれに収まる本の数々、その本棚の前で見慣れない本を片手に佇む類─そしてその類と楽しそうに話す、司にとっては弟のような存在の冬弥だった。別に何かおかしいところがあるという訳ではない。冬弥は図書委員でよく放課後は図書室に居る。類は今日授業をサボって図書室に居た。その二人が話していることに不自然な点は何一つない。そういえばこの間結婚式のエキストラを腹痛で休んでしまった時から二人はよく話すようになった気がする。ズキズキと胸が痛む。
    違う、良い事じゃないか。類が気軽に話せる人が出来たのは、良い事だ。必死に司は自分の心にそう納得させようとするが気持ちが晴れることは無かった。
    今まで司は類にとって数少ない近しい友人という立場に留まっていた。だが類に友人が増えたら自分は一体どうなってしまうのか。勿論ショーが司にはある。同じショーをする仲間、これは1番の強みだ。しかしこの間結婚式で類は冬弥達を演出したと聞いた。

    類に恋愛感情は期待してない。だからと言って類への恋心を諦めたわけではない。そんな司にとって目の前の光景は受け入れ難いものだった。恋は人を強欲にする。その位置は少しでも譲りたくないものだった。さしもの司もこのような出来事が重なればいつもの前向きな思考を失いかける。

    「司くん!」
    「司先輩!」

    そうして図書館の入口で声をかけるのを躊躇っていれば二人から声が上がった。類は本を持ったまま司の元へ歩み寄る。

    「その……司くん、僕……」

    眉尻を下げて罪悪感を表情に出す類はしかし肝心の謝罪の言葉は出てこない。類は何故かこういう時素直に謝るということが出来ない。いつもならば笑って流すところだが今日はなんとなくその態度に心が苛立った。

    「……いい、類、オレは今日1人で帰る。」
    「えっ……」
    「別に見たいものは今日でなくてもいいんだろう?忘れる程度には些細な用事だったようだしな。」
    「ち、ちがっ、待って司くん!」

    棘のある言葉を投げかけると類は明らかに動揺を示した。冬弥とそのまま楽しく話していればいいじゃないか、という本心は口に出さず踵を返す。後ろで呼び止める声が聞こえるが振り返ろうとは思わなかった。

    「──司くんっ!!」
    「うぉっ?!」

    しかし図書室の扉に手をかけようとした瞬間思い切り肩を引かれ思わず後ろを見上げて睨みつけた。一瞬それに怯んだ類は相変わらず後ろめたいような顔を崩していない。悪かったと思うならそう一言言えばいいのに。それが出来ないのが可愛らしいと思うこともあるが今は怒りに燃える火に油を放り込んでいるだけだ。

    「帰りたいんだが?」
    「…………ごめん。」

    小さな声。しかししっかりとした謝罪だった。予想外の言葉に思わず瞠目すると類は更に続ける。

    「忘れてた訳じゃないんだ。いや、忘れてたのだけれど、違うんだよ……!」
    「はぁ……?よく分からんが、もういい。」
    「えっっ─」

    動揺、焦り、狼狽─そんな言葉がピッタリな類の言葉に司の怒りは冷めた。結局司は類に弱いのだ。思わず笑みを零して「帰るぞ」と言うと類の表情も明るくなる。
    本を片手に演出の話を繰り出す類はもうすっかり通常運転だ。そのまま図書室を出て校門まで歩いているとそういえば冬弥のことを忘れていたと司は気づいた。あろうことか挨拶すらしていない。

    「冬弥のことを放置してしまった……」
    「青柳くんかい、まぁ彼ならそんなこと気にしないんじゃないかい?」
    「そうは言ってもだな……、そうだ、冬弥と何を話していたんだ?」
    「うん?」

    司の質問に類はにこりと笑顔を浮かべる。それ以上は何も言わない。あくまで話す気はないようだ。

    「そんなことよりも、司くんは部屋に彼から贈られたクマのぬいぐるみが飾ってあるらしいじゃないか。ぬいぐるみが好きなのかい?」
    「うん?いや、冬弥から行き場の無い景品のぬいぐるみをよく貰うだけだが……」
    「今日はぬいぐるみとか見ていかないかい?」
    「人の話を聞いているのか?おい、類?」

    隣から上がる抗議の声に耳を塞いでやり過ごす。
    ─きっと司には分からない。
    類が図書室に居た理由は司との約束が原因で何も手が付けられなくなり冷静になるためだったということ。冬弥と話していたのは過去の司の話や類には見せない司の一面の話だったこと。司が思っている以上に類は恋愛という感情を理解しているということ。
    そして類は司に対して恋愛感情を全く期待していないということ。


    二人の恋はまだ始まってすらいない。
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