独占欲⑥完 先輩の腕がの腰に回り、太ももに顔を埋められた。
「ぼく…傷ついた…」
なんて、態とらしくいうから思わず笑ってしまう。
「ははは、先輩の僕呼び似合わないね」
「もう!僕、怒ってるんだからね!」
「ごめんって…」
先輩の連絡を無視しいて、てっきり怒られるか飽きられるかするかと思えば、悄気られた。
こんなに元気のなさそうな彼をみると、心の底から申し訳なくなるけど、可愛くて、つい笑ってしまう。
「今日は、お仕置きだから。僕の好きなようにするから」
「え?」
そう言われて、急に怖くなる。やっぱり、悄気ているのではなく、怒ってる?
先輩に腰を強く抱き締められ身動きが取れない。彼の頭が、俺の股間へと近づくと、これからされる"お仕置き"が何か想像してしまう。
「ちょっと!」
思わず先輩の頭を掴んでしまうと、急に顔を持ち上げて上目遣いされた。
「ゆうじ…僕傷ついた。お仕置きだよ。だからこれ付けて」
何処からか、ヘアバンドを取り出していた。
いつも見上げている先輩の上目遣いは、貴重だし可愛くて、つい頷いてしまいそうになるけれど…そのヘアバンドは何?
「え…何それ」
「はい、ゆうじくんに拒否権はないでーす」
頭出してと、手を伸ばされれば、反射で頭を出してしまう。先輩の手によって伸ばされたヘアバンドが、頭を通り目元を隠す。
「うわ、なんも見えねー」
「まぁ、僕の特別仕様だからね」
「…こんなん、他の人にも使ってんのか」
「違うよ!悠仁にしか使わないよ!」
先輩の慌てる声が聞こえる。慌てる先輩が見れないのは残念だけど、その声を聞くだけで嬉しくなってしまう。本当に俺にしか使わないのかな。
急に静かになると、手を握られる。握れた手の感触に妙に緊張してしまう。強張っているのは先輩にも伝わっているようで
「見えないと、怖い?それとも、こういう方が好き?」
悪戯に言われた。さっきまで可愛こぶっていた彼とは違う。いつもの先輩だ…
これから齎されることを想像して、生唾を飲み込んだ。
チュッ
手の甲に先輩の柔らかい唇が触れた。
チュッ
今度は、指先にキスされる。なんだか、想像していた行為とはまるで違った。
「……先輩、これがお仕置き?」
「んー?悠仁、なんかエッチな想像してたでしょ」
いやらし〜と言う先輩は、たぶんニヤついている。そして、またキスをされる。
指先の次は、手のひら。そして、腕、首、耳と段々上に上がっているのを感じる。見えていない分、次はどこにキスをされるのか分からなくて、鼓動が速くなる。
でもこの順番なら、次は唇かなとちょっと唇を突き出した。が、頬にキスをされる。
…すごくもどかしい!
「今、唇にするかもって、期待したでしょ〜言ったでしょ。お仕置きだって。まだしてあげない」
また先輩の笑い声が聞こえる。今絶対、意地悪な顔して、俺の反応を楽しんでる。
「エッチな悠仁くんには、キスだけしてエッチな欲求を我慢してもらうのがお仕置きだよ。あと唇にもしない。その分、他のところにはたくさんキスしてあげるからね〜」
ふぅーっと耳に息を吹きかけられれば、神経が耳に集中する。変な気分になってしまう。
視界がないだけで、こんなにも他の感覚が敏感になるものなのか。思っていた"お仕置き"と違って、恥ずかしさや残念な気持ちが入り混じる。そして、それが五条先輩にもお見通しで尚更恥ずかしい。
唇や、エロい気分になる場所以外には、たくさん唇が触れる。気持ちいいし、多幸感は大きいけど、あと数センチずれていたらと思う所ばかりで、焦ったい。逆にイヤらしい気分になわ!
「アッ…!」
「ん?感じた?」
「先輩が焦らすから…」
「あれ、何かお仕置きじゃなくて、開発になっちゃったかな?」
そう言っていても、先輩は続ける。焦ったい…もどかしい…先輩が欲しい…
この欲求を我慢しようと、目も唇を引き結ぶ。
「…ッチュ」
硬く結んだ唇に、柔らかい感触。その感触で、結んだ唇が緩んだ。
「お仕置き、終わり。俺が我慢できなくなってきた…」
吐息まじりの先輩がそう言った。目隠しを外され、漸く見れた先輩の顔は少し赤らんでいるようだった。
「悠仁、大好き…っ」
今度は先輩の顔をちゃんと見ながらキスができた。
◻︎◻︎◻︎
先輩のお仕置きから解放されて、先輩は俺の横に腰を下ろす。
「俺まで"お仕置き"されてるみたいになったから終わり!」
「先輩が始めたんじゃん…」
「でもだいぶ、効いたでしょ」
「まぁ、すごく変な気分になりました…」
先輩は、横にいた俺を自分の膝の上に乗せ、ギューっと強く抱きしめる。
「でも、まだヤらないよ〜今はこうしていたい気分だから」
「左様ですが…」
てっきりこのままベッドインかと思っていたから、まだお仕置きは続いているのかも…
ふと、ラブホ街で先輩を見かけた伏黒の話を思い出した。あの日は聞けなかったけど、今なら聞ける気がする。勇気を出して、聞いてみる。
「五条先輩さ…この間、ラブホ行ったの?」
「ラブホ?行ってないけど。俺たちいつも家じゃない?」
俺の問いに、何の変化もなく答えてくれた。嘘をついているようには聞こえない。でも真実が知りたい。
「伏黒が…見たって。女の子といるの」
そう続けると、一瞬黙ったので過去を思い出しているようだ。すぐに、あぁ!っと思い出して先輩は言った。
「悠仁の元カノに、牽制してきたときね!」
「俺の元カノ?」
「そうそう。あの子、また悠仁とより戻したいらしいから、牽制しといた」
そう言った先輩の笑い声が聞こえる。
五条先輩曰く、大学で女の子3人組が俺の話をしていたのが聞こえたらしい。気になって近づいてみると、その中の一人が「悠仁くんとより戻したい」と話していたことから、元カノだとわかったようだ。
自分の好きな人をこっ酷く振った女が許せなくて、どうにかその鼻をへし折ってやろうと思いついた作戦が「ホテルへ誘って、直前で振る」ことだったらしい。
「あの女さ、ちょっと声かけたらすぐ付いてきてさ。だからちゃんと言ってやったわけ。『悠仁は俺のだから、諦めな。お前のセックスより、俺とのセックスに夢中だよ』ってね!」
それを聞いた彼女は、顔真っ赤に染めて激怒して帰って行ったらしい。
「先輩って、やばいね…てか、元カノに先輩とのかとバレたのか…」
「良いじゃん。事実なんだし。僕がいれば、もう他の女はいらないでしょ?」
強く抱きしめられた背中に、先輩が頬を擦る。"僕"と呼び、態とらしく甘えてくるけど、元カノへの対処は、やりすぎな気もする。
「まぁ、いいけどさ」
「悠仁、好きだよ〜」
腹に回された片手を手に取り、先輩の手の甲に、先輩がしてくれたキスをしてみた。
「俺も大好きだよ…さとる先輩」
すると急に体が浮いて、そのまま進みだす。
行き着いた先はベッドだった。
「悠仁、これからよろしくね。と言うことで、仲直りセックスしようか!」
キラキラ輝かせた瞳に、つい笑ってしまう。ストレートな言い回しにおかしくなってしまう。でも、それが嬉しくって、キスで返事を返す。
交わる最中、沢山の「好き」を伝えてくれる先輩をもう誰にも渡したくなくなった。
俺だけの悟先輩。大好きだよ。
◻︎◻︎◻︎
おまけ
事後ー
「先輩、さすがにバトンを突っ込むは、ないでしょ」
「そうだよね。俺もあの時、何言ってんだって思ったよ」
「あんな先輩初めて見た」
「やめて…思い出させないで」
「ふふふ、でも好き」
チュッ