おめでとう 隣で眠る幼い顔を見ているとほっとする。
今日は特別な日だから、日付が変わった瞬間にその言葉を伝えたかった。
それなのに、この子は22時には布団に入って、穏やかな寝息を立てていた。朝からハッスルしたし無理もないか。
カーテンの隙間から薄い青い光が差し込む時刻。隣の子を起こさない様にベッドを抜け出した。
音を立てない様に扉を閉めて、キッチンへ向かう。
キッチンは昨夜、彼が綺麗に片付けてくれた時のままだ。一緒に住み始めてしばらく経つのに、生活に彼がいることを感じると、その都度嬉しくなる。
『一番最初にお祝いしたくて』
僕の誕生日の時も、彼は一緒だった。
誰かがいる生活がこんなに居心地がいいとは知らなかった。実家ではたくさんの使用人が居たはずなのに、息苦しくて堪らなかった。
まぁ、居心地がいいのは悠仁だからなんだろう。笑みが溢れてしまう。
「よし」
気を取り直して、彼のためのバースデー朝食の準備に取り掛かる。
ご飯を炊飯器に仕掛けて、昨夜の残りのカレーもと温めて。野菜を切ってサラダも用意した。一ヶ月も前から予約して楽しみにしていた有名パティスリーのケーキもお皿に移して、もう準備は完了。
気合が入りすぎたせいか、思っていたよりも準備は早く終わってしまった。
ご飯が炊けるのをのんびり待つ間に、仕事を片付けよう。
今日は長い一日になるだろうから。
ーーー数時間後
ガチャ。寝室の扉が開き、眠い目を擦る彼がフラフラと出てきた。
「せんせ…おはよ…」
大きな欠伸を掌で覆う。今日も可愛い。
「おはよう、悠仁。さあ、早く顔洗って来て。ご飯食べよう」
キッチンに隠している朝食をバレない様に、悠仁の背中を教えて、バスルームに連れて行く。
シャコシャコと歯磨きを始めた彼を確認して、最後の仕上げへ取り掛かる。
こっそり買っておいた国産A5ランクのステーキ肉。丁寧に下味をつけて、熱したフライパンに置くと、良い音を響かせた。
「せんせー!なに焼いてんの?!」
バスルームまで、聞こえた様だ。
「悠仁の大好物だよ!」
バスルームから聞こえる音が忙しなくなる。
「五条先生、おはよ!」
「おはよう、悠仁」
大きな目をぱっちり開いて元気に挨拶をする。すっかり目が覚めた様だ。
そして、テーブルの上の飾り付けられた食事を見てさらに目を輝かせた。
「わぁ!すげー!」
「どう?美味しそうでしょ」
「うん!すげー美味そう!」
「そして、メインはこちら」
熱々のステーキを悠仁の前に置くと、彼の喜びは声にならない様だ。
「悠仁のために用意した和牛A5ランクサーロイン!」
「…っ!やばいよ、先生!」
「特別な悠仁のためだからね」
「ありがとう!!」
喜ぶ彼を見ると、早起きして準備した甲斐があるってものだ。
「悠仁、誕生日おめでとう」
「こちらこそ!五条先生ありがとう!」
「うん。それから…生まれてきてくれてありがとう」
そう伝えると、悠仁の丸い瞳が少し潤んだ。そして、彼は満面の笑みを浮かべた。
その笑顔が、僕の宝物だ。
3.20 Happy Birthday Yuji
おまけ
「さて、お祝いはこれからだよ!今日は遊園地に映画、海にだって連れて行ってあげる!」
「まじ?!楽しみ!」
「プレゼントだって、沢山用意したんだから」
「まじか!」
「なにが一番先に欲しい??」
「んー…五条先生かな!」
「それって、今日はベッドの上から動かないってことでいい?」
「…かもな!」