ノイマンの誕生日にハインラインが冷蔵庫を買った話現パロ設定
現代の日本みたいな所。まだまだ宇宙に行けない科学力だし戦争もしてないよ。
登場人物
アーノルド・ノイマン 28歳
大学で出会ったチャンドラと8年間ルームシェアしている。普通の会社員
ダリダ・ローラハ・チャンドラII世 28歳
大学で出会ったノイマンと8年間ルームシェアしている。フリーランスのプログラマー。在宅勤務
アルバート・ハインライン 30歳
行き倒れている所をノイマンに保護されチャンドラに餌付けされたため2人に懐いた。
凄く良いマンションを借りているのに週5でノイマンとチャンドラのアパートに通って食事をしている。食費は払っているし、コノエに言われたので手土産もちょくちょく持っていっている。
超大手企業の開発員。特許をいくつか持っている
アレクセイ・コノエ 42歳
ノイマンとチャンドラのアパートの近くにある喫茶店のマスター。ノイマンとチャンドラは常連さん。アルバートとは親戚(弟の義弟)
アルバートに良い友達が出来て嬉しい。まさか冷蔵庫を買うとは思わなかった。
ノイマンの誕生日に冷蔵庫を買ったハインライン
の話
チャンドラ視点
「チャンドラさん、今日13時に冷蔵庫が届きます。庫内のものを出しましょう。クーラーボックスを持って来ましたので冷凍のものはこちらに」
「なんて?」
現在6月9日、午前11時。
ノイマンがある日拾って来たアルバート・ハインラインはその後、チャンドラとノイマンの家に度々やってくる様になった。はじめは先日のお礼だと言って菓子折りを持って来た。その時にまた夕飯をご馳走した事でまたお礼をと続き、何回か繰り返したところで、チャンドラが何も持ってこなくて良いし何時でも来ていいぞと言ってしまった。言った後に何時でもは言い過ぎたなと思ったのだが、ハインラインがとてつもなく嬉しそうにしていたので訂正もできず、その後は言われた通りハインラインは“何時でも”ノイマンとチャンドラの家にやってくる様になった。
チャンドラはフリーランスでプログラマーをやっているので基本的には在宅ワークである。それを知ったハインラインは平日の昼間にも家に顔を出す様になった。今日もチャイムがなりインターホンを見てみればハインラインが立っていて、チャンドラはそれを招き入れたのだ。
クーラーボックスを見たチャンドラは一瞬不審には思ったが、ハインラインが手土産を持ってくることは多々あったので今日もその類だろうと思い玄関先ではその事に触れなかった。
ハインラインが家にやって来る事が当たり前になったため、招き入れた後は特に何もしない。ハインラインもリビングで何やら仕事をしたり、だらけたりと何時も自由に過ごすので、チャンドラは本日も特に彼には構わず仕事に戻ろうとリビングの横の私室に戻ろうとした。冒頭のハインラインとチャンドラの会話はその時のものである。
「聞こえませんでしたか?」
「いやいや、聞こえたけど!どういう事だかわからないんだが?冷蔵庫が届く?」
「はい、13時に」
「なんで?」
「今日、ノイマンさんの誕生日でしょう?」
誕生日プレゼントってやつです。
ハインラインのその言葉をチャンドラはやはり理解しきれなかった。友人の誕生日プレゼントに冷蔵庫とはこれ如何に。
ノイマンが大きな冷蔵庫を欲しがっていたのは確かであるし、チャンドラだって大きな冷蔵庫は欲しい。今家にある冷蔵庫はチャンドラが大学進学の際に買ったもので、一人暮らし用の2ドアのものである。とにかく小さいのだ。3人分の料理を作るとなるとそれなりの量の食材が必要で、一回の買い物で2、3日分の買い出しをするとかなりの量になる。そうなると、冷蔵庫に食材が入りきらないのだ。その事を2人でぼやいていた時、ハインラインも確かにその場にいた。
しかし、冷蔵庫はやはり友人の誕生日に送る様なものではないだろう。
「…まじか」
「本気ですよ。なので早く庫内のものを出しましょう?」
ハインラインはそう言ってまずは冷凍庫を漁り始め、テキパキとクーラーボックスに中身を詰める。その様子をみてチャンドラはこれが冗談でもなんでもない事を理解した。冗談だったらどれほど良かったかわからない。
(どうしよう)
あと2時間で冷蔵庫は届いてしまう。
ハインラインはおそらく百パーセント善意で、ノイマンを喜ばせたくて冷蔵庫を誕生日プレゼントにしたのだろうが、金額的には容易く貰って良いものではない。どの程度大きなものを買ったのかはわからないが、軽くノイマンの給料一ヶ月分はするだろうに。コノエ曰くハインラインは凄く高給取りらしいので彼の懐の心配をしなくて良いのがせめてもの救いか。
「…因みにサイズは大丈夫なの?この家に入る?」
「その辺りは抜かりありませんよ。ここに収まるように冷蔵庫は薄型にしましたし、搬入経路も問題ありません」
「そっかぁ、なら大丈夫だな」
何も大丈夫ではないが。
「因みにお値段を聞いても?」
「それは無粋ですよチャンドラさん。プレゼントは気持ちが大事だとアレクセイも言ってました」
確かにその通りなのだが。
金銭感覚が違いすぎるのか、はたまた友人との距離感の取り方を理解できないのか。恐らくその両方なのだろう。コノエも「アルバートに友人が出来るなんて!」と喜んでいた。友達付き合いというものを今に至るまでやった事がなく、高給取りの大人が初めて出来た友人の誕生日を全力で祝いに来た結果がこれなのか。
「チャンドラさん、ノイマンさんの誕生日ケーキは予約していますか?確認してから買いに行った方が良いとアレクセイに言われたのでまだ買っていないのです」
「…特に予約はしてないけど」
「予約していないのならオススメの店があるので冷蔵庫の設置が終わったら一緒に買いに行きませんか?ああ、あとその時に良いお酒も買いましょう。庫内を見る限り夕食のメニューはノイマンさんの好物を作る予定なのですよね?チャンドラさんのご飯は美味しいですからきっと喜びますよ!」
テンションが上がってきたのかハインラインの喋る速度が速くなり始める。彼は、とても嬉しそうで楽しそうで、表情は喜色に溢れていて。
チャンドラはそれを見て、冷蔵庫の問題をとりあえず棚上げする事に決め、ノイマンの誕生日をハインラインと一緒に全力で祝ってやる事にした。
ノイマン視点
お誕生日おめでとう!と家に帰ったら玄関でクラッカーを鳴らされた。少し驚いたが、確かに今日は自分の誕生日だったし、チャンドラだけならともかくハインラインもいたので彼がやりたいと言い出したのだろうと思った。少し照れながらもありがとうと礼を言いそのまま彼らの先導でリビングに向かう。
テーブルにはチャンドラが作った自分の好物が並べられていて、ホールケーキには数字の形のキャンドルが刺さっている。まさしくお誕生日会という様相である。
こんな風に誕生日を祝われるのは10代の最初の頃以来じゃないだろうか。嬉しいような少し恥ずかしいような、そんな気持ちになる。
そんな事を思いながら、ふとキッチンに目を向けると、見知らぬ物体があった。思わず二度見した。
「…え?」
間抜けな声が出た。混乱しチャンドラの方を見れば彼は諦めてくれという表情でこちらを見ながら首を横にふる。そしてハインラインを見ると彼は良い事をして褒められるのを待っている様な子供顔をしていた。そして、もう一度キッチンを見るとノイマンの見間違いではなく、そこには真新しい大きな冷蔵庫が鎮座していた。
「これ、どうしたんだ?」
冷蔵庫を指差しながら問う。
「僕からノイマンさんへの誕生日プレゼントです」
喜んで頂けましたか?ハインラインが満面の笑みでノイマンの問いに答えた。
冷蔵庫が誕生日プレゼントとは。ノイマンは少し考え込んで黙ってしまった。すると「ノイマンさん?」とハインラインが不安げな顔でこちらに呼びかけてきた。おおかた気に入らなかったのかと心配しているのだろうが、問題はそこではない。
「嬉しいよ、ハインラインさん。ありがとう」
プレゼントを用意してくれた気持ちは本当に嬉しいのでお礼を言う。そうすればハインラインはあからさまにホッとした顔をした。
チャンドラの方をもう一度みると、そうそう、それで良いよと言わんばかりに今度は縦に頷いている。いや、良くはないだろう、とノイマンは思うが、その間にもハインラインは嬉しそうに冷蔵庫の前で機能の説明を始めた。誕生日プレゼントを貰ったノイマンよりも余程嬉しそうにである。
値段は凄く気になるが、自分へのプレゼントの値段を聞くと言うのも無粋だろう。
それに、あんなに嬉しそうな人が悲しむかもしれない言動は出来れば避けたい。
つらつらとそんな事を考えながらハインラインの話に耳を傾けていると、ハインラインがこちらを見ていないタイミングでチャンドラがそっと耳打ちしてきた。
「冷蔵庫の件は、明日コノエさんの所で話そうぜ。…今は取り敢えずお前のお誕生日会だな」
ハインラインさんかなり張り切ってたからさ。
チャンドラはそう言って耳打ちを終わらせるとハインラインに声をかける。
「ハインラインさん、先に夕飯にしようぜ?」
「そうですね!せっかくチャンドラさんが作ったご飯が冷めてしまっては勿体無い!」
「そうそう、温かいうちに食べよう。ノイマン、お前の席今日はあそこな」
そう言ってホールケーキの目の前の席を指定される。ノイマンが席つくと、チャンドラがニヤリと悪い笑みを浮かべながら聞いて来た。
「蝋燭に火をつけて、バースデーソングでも歌ってやろうか?」
想像したら恥ずかしかったので流石に断ろうと思った所でハインラインも乗ってくる。
「良いですね!」
「いや、流石に恥ずかしいから辞めてくれ…」
そう言っているのに、チャンドラは何処からかライターを持って来て数字の形の蝋燭に火をつけた。
「え、本当に歌うのか⁉︎」
「本当に歌いますよ?」
「歌い終わったらちゃんと蝋燭の火、吹き消せよ?」
チャンドラはスマホを構え、動画まで撮影し出した様であったが、止める間もなくチャンドラの掛け声で二人は歌い出した。顔に熱が集まるのを感じる。
(想像以上に恥ずかしいな…!!)
バースデーソングは程なくして終わり、ノイマンは蝋燭を吹き消した。
「顔真っ赤じゃん!」
「ふっ…、本当ですね」
「うるさい…!だから辞めろって言っただろ⁉︎」
チャンドラはゲラゲラ笑っているし、ハインラインも笑いを堪え切れていない。
ノイマンは、そんな二人に文句を言うが、まぁ、こんな誕生日も悪くはないなと思った。