◯別行動
(おや、珍しい)
来店を知らせるベルを聞き入口に目を向けると、そこにはアーノルド・ノイマンが立っていた。彼が来店するのは決して珍しい訳ではないが、一人でとなると珍しい。何時もならルームシェアをしているというダリダ・ローラハ・チャンドラII世と連れ立ってやってくるからだ。嬉しい事に、最近ではコノエの親戚でもあるアルバート・ハインラインも一緒という事も増えて来た。
ノイマンは何かあったという感じでもなく、いつも通りであったが、一人だからという事もあってだろう、何時も使っているテーブル席ではなくカウンター席の方へ腰掛けた。
「こんにちは、今日は一人かい?」
「はい。チャンドラとアルバートは鉱石ラジオだか真空管ラジオだかを作ると言って材料を買いに行きました」
「そうなんだ?ノイマン君は一緒に行かないの?」
「一応誘われはしましたが、行っても何もわからないので。でも、出来上がりは楽しみですね」
笑顔でそう言うとノイマンはコーヒーと軽食を注文した。そして文庫本を取り出し読み始めた。
先にも述べたが彼らはいつも二人でこの喫茶店にやってくる。二人で仲良くずっと喋っていることが多いが、チャンドラがノートパソコンを持ち込み作業をしている横でノイマンがぼーっとしていたり、逆にノイマンが本を読んでいる横でチャンドラが外の風景を見ていたりする。
無言であっても気まずくならないぐらい仲が良いとコノエは認識していて、なんと言うかコノエとしては、二人セットというイメージが本当に強いのだ。
「なんだか君がチャンドラ君と一緒に居ないと不思議な感じがするね」
出来上がった軽食をノイマンの前に置きながら、コノエは感じた事をそのままノイマンに話した。
「そうですか?チャンドラとは別に何時も一緒という訳ではないですよ。あ、でもここにはいつも二人で来てるか」
「そうだねぇ」
「でもチャンドラと本当にいつも一緒では無いです
よ?」
あいつ、俺が運動に誘っても絶対来ませんし。
話はチャンドラへの文句から始まったが、ノイマンはチャンドラとの事を楽しそうに話した。最後の方はいつも一緒ではないという理由から外れた話にもなっていたが、コノエは穏やかな気持ちで話を聞いた。
「すみません、余分な事まで話しすぎましたね」
「いや、楽しかったよ」
「そうですか?こんな話で良ければいつでもしますよ?」
コノエは本心からそう言ったのだが、ノイマンは訝しげな顔をしていた。
◯おこたつ
「アルバート、そこで寝るなよ?」
「だいじょうぶです。おきてます」
先日、チャンドラとノイマンのアパートについにこたつが導入された。
そしてハインラインはこたつの虜になった。
どれくらい虜かと言うと、アパートにいる時間の三分の二以上はこたつに入っているという有様である。
「今日風呂は?入るなら早く入れって」
「はいります。もうすこしまってください」
この会話もこたつの弊害である。
こたつに入ると全てのことが億劫になるのか何をするにしてもハインラインの動きは遅い。
ノイマンとしては早く入ってもらって風呂を洗ってしまいたいのに。ノイマンはため息をついた。そして、最終手段を取るしかないと考えた。
「こたつ、撤去するぞ?」
「それだけは……!」
そう言えば、ハインラインはこの世の終わりみたいな顔をしているし、その後ろでチャンドラも信じられないものを見るような目でこちらを見ていた。
「……そこまでか?」
「そこまでですよ!撤去なんて悪魔の所業です!」
「そーだ!そーだ!」
「なら撤去されないように早く風呂に入ってこい」
「わかりました!」
そう言ってハインラインは急いで浴室に向かったが、明日もきっとこれを繰り返すのだろうなとノイマンは思った。