コク×暁 (雰囲気R-15)「どうした、早く済ませるぞ」
「は、っはい…!」
コートをその場で脱ぐと、彼は机の上へと雑に置き椅子へと腰をかけた。
──最初はちょっとした憧れだった。
憧れ、それはコクウという男。「幽世(ゴースト)」という教団の首魁である。
恐ろしい化け物、幽霊、悪、彼の銃口に撃ち抜かれた者たちは忽ち彼の背中を追っては忠実な魍魎へと成り果てる。そうして彼はその魍魎を束ねるだけの力と頭脳を多く持っていた。
少年暁はその姿に憧れた。俺もああなりたい、強力な力で皆を纏められるあんな力が欲しい。
そして、憧れであるそんな彼を支えてやりたいと、自身の力で何か出来ることは無いのかと、背中を追い続けながらもようやく彼は首魁の御傍付きまで上り詰めたのだ。
しかし、いざ御傍に居続けてみて分かったことがある。それはコクウが自身の想像とは違い並に生活が出来ていなかったことだ。
仕事に追われているせいか、夜部屋へ戻ると倒れ込み床で寝ようとするし、食事だって簡単に出来る物や栄養食とばかり味わずに喰らおうとする。
これではいけないと思ったのが以前のこと。何とかして彼に人並みの生活を送らせようと必死になった結果、今の暁は彼の世話係のような立場となってしまった。
そんな関係だけで十分だ、仕えるだけで幸せだと思っていたのに、欲が出てきてしまったのだ。
もっとこの人のことを知りたい、もっとこの人の役に立ちたいと。
そう思い始め、数日……ひょんなことにより、暁は彼の「仮」としてお付き合いをすることになった。
仮とは言え恋人となってしまった以上、もうここから後戻りはできない……!
憧れのコクウさんへ、今日こそ俺は一歩踏み出すんだ…!
「何をしている?早く来い」
「し、失礼…します…」
ゆっくりと歩み寄ると、彼は手を広げていた。恐る恐ると膝へ乗り込むとそのまま金色の髪を触られてしまい思わず肩が上がる。
「うぁっ…」
「ん……」
目の前で瞳を閉じ、静かに唇をこちらへ向ける姿に心臓が飛び跳ねそうになる。これはキスしろということで合っているのだろうか。
そっと紅潮させた顔を近づけ、唇を触れ合わせると満足そうな声が聞こえてきた。
「ん、ぅ……」
触れるだけの口付けから徐々に深く舌を絡め合う………ということにはならなかった。
あくまでこれは「仮」としての恋人同士。どうやらこれ以上の関係はコクウは望んでいないようであった。
「(また…舌が入らない…)」
「ふ、うー……はぁっ……」
ちゅくちゅくと音を鳴らしながら何度も角度を変えては接吻を続けるが、やはりそれ以上先に進むことは無かった。
名残惜しむように離すと唾液の糸が伸びていく。
「コクウさん……あの…」
「なんだ?」
以前から何度も2人きりでキスはしてきたはずなのに、コクウはキスを許すだけでそれ以上の行為を求めてこなかったのだ。
「もう一回、良いですか…」
「……良いだろう」
素っ気ない面のまま目を閉じる彼にむー…と不満ながらに見つめつつ再度口づけを交わす。
だが、やっぱりいつもと同じで舌を入れようとすると歯でガッチリと守られ口内に入れてくれる気配は無かった。
こんなにも自分は求めているというのに……。
「……あ」
そうだ、こちらが駄目ならばあちらから求められるように仕立てれば良いんだ。
暁は肩を置いていた手をゆっくりとコクウの脚へと置いた。
「……」
「んっ、んん……」
睨みつけるコクウから目を逸らしながらキスで歯並びをなぞるように舐め上げる。そして暁の手はスルスルと太腿を這わせて股間を目掛け上へといやらしい手つきで上がっていった。
「(コクウさん、ちょっと、勃ってる…)」
気のせいかズボンが張ったかのような感覚にドキドキと胸を高鳴らせる。
これならきっといけるはずだと確信した暁は、ベルトに手をかけ外していこうとした…その時だった。
「ッ…おい、何をしている」
「あっ……!」
調子に乗りすぎてしまった、とうとう怒らせてしまった。
低い声と共に腕を強く握られてしまい身動きが取れなくなる。
戦場に立つ時と同様の冷たい目でこちらを睨みつけられ、恐怖で身体中が震え上がった。
「す、すみま…せん……!」
「……」
黙り込んだままのコクウに怯えるしかなかった。
冷酷な首魁である彼になんたる無礼だろうか。嫌われたかもしれない、もしかしたらここで殺されるかも…。
色々なことが頭の中で駆け巡るが、気に触らせた焦りで何も言えないでいると、掴んでいた手を離し優しく胸に引き寄せられた。
「こっ…コクウ、さん…?」
「お前、幾つだ?」
「えっと……15、です…」
そう伝えるとコクウは大きくため息を吐き、顔を背けた途端、眉間に皺を寄せ額を抑えた。
「餓鬼め……これ以上大人を煽ろうとするな…」
「がっ……!」
ガキという言葉に少しながらカチンと頭にきてしまったが、それよりもコクウの腕に抱き寄せられたことで自身の心音が大きく鳴り響いていた。
「まだ、早い……」
その言葉の意味を理解するには時間が掛かった。
そりゃあそうだ、自分はまだ未成年であり、この人はずっと年上で経験だってあるのだからそんなのは当たり前のこと。
しかし、それは彼が俺のことを思っての言葉だということにすぐ気づく。
「(コクウさんも……同じ気持ちなのか…)」
そう思うと、暁の顔は自然と照れくさい笑みを浮かべていた。
「…コクウさん、好きです」
「ああ、知っている」
「俺が成長したら、必ず貴方の…本命の恋人になってみせますから!」
「……好きにするといい」
18になったら、あのキスの続きが出来るだろうか。それとも高校を卒業した時にだろうか。
どちらにせよ、それまでは仮でもなんでもいい。
俺はこの人の傍にいる、それが今の幸せだ。
「それじゃあ、就寝の準備に取り掛かりますか」
「待て、暁」
「はい?」
踵を返そうとしたところで呼び止められ、どうしたのかと振り向き首を傾げると、彼の手がこちらに伸びてきて頬に触れる。
「んむぇっ!?」
「……寝る前にもう一度だけキスをしろ」
「は、っはい……喜んで……!!」
END