まわる、まわる「東。寿司食いにいくか?」
平日昼過ぎ。一番、この店が平和な時間。海藤はふらりとやってきては、無遠慮に東を呼ぶ。
「兄貴が食いたいんなら」
「回るやつだけどな。ほれ」
どちらにせよ、そろそろ昼の休憩を取るところだった。そんなタイミングでの誘い、願ってもいない。
そう立ち上がったところで、目の前にぺらりと差し出された紙に目を遣った。
「ん? オープン記念優待チケット……?」
「この前の依頼人が、依頼料のついでにくれたんだ」
見ればチェーン店ではあるが、それなりに美味いと評判を聞く店だ。神室町初出店、と銘打って書かれた割引率を見るに、結構な力の入れようだ。そんなコネクションも、海藤の愛嬌を感じさせて。
「へぇ。流石は兄貴の人望だ」
「早速行こうぜ。今日もそこら中走り回ってたから腹減ってよぉ」
走り回っているのは猫でも追い回していたのか。借りたものを返さない不義理な輩がいたのか。
無遠慮に大きく鳴った腹の虫。空腹を思い出させるそれに、東は思わず笑う。そして空腹ついでに引き摺り出てきた、何でもない記憶。
「……そういや知ってますか、兄貴。今日は回転寿司の日だそうです」
「お前物知りだよな」
「いや。うちに来る子供達が、そういうの好きみたいなんすよ。昨日そんな話してましてね」
偶然だとしても面白いものだ。そもそもそんな日が制定されていること自体、面白いのだが。
「なんの日でもいいけどよ。お前と飯食えんなら」
それこそ何でもないように零された海藤の言葉に、はたと目を見張った。
「なんすか兄貴。俺みたいなこと言って」
そう。海藤と居たいと思うのは、自分ばかりだと思っていたから。
照れ隠しのように、肩をどつかれる。痛くはないよう加減はされているそれが、どこまでもむず痒かった。
了
***
回転寿司の日なのはほんとらしいです。
日々の全てを二人で分かち合ってずっと二人で笑っててくれ……って外伝やりながら願ってました……