枷があるなら踊れない「体は丈夫なほうだと思ってるんだけどね。……情けない」
椅子に腰掛けた英雄殿は靴から開放された足をぱたぱたと泳がせていた。靴の鋭い縁や摩擦によってなのか、じわりと血が滲んでいる。社交の場で真新しい靴を用意したのだろうが、かえってそれは彼女を圧迫してしまっていた。
「歩けないほどじゃない」
「実際は?」
「痛い、泣きそう、帰りたい」
顔色を変えずにぶっきらぼうに言い捨てるものだからつい笑ってしまった。先程まで気丈に振舞っていたぶん、弱味を見せられるとこちらも困ってしまう。しかし今回は英雄殿も個人としてこの場に呼ばれている。早々に帰宅し期待を裏切ることは考えていないだろう。
ひんやりとした足を掬い、医療セットから拝借してきたガーゼを宛てがう。凝固しかけた血にぴったりと付着し、同時に英雄殿が身構えた。
1170