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    ふかよる

    妄想しかないです。どこにも置けないネタとか小説擬きを投げようと思います。

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    ふかよる

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    ルサン。ある日の船での話。

    青い時間いつだって寝たい時間に寝て、起きたい時間に起きている。
    エースやサボといた時は毎日の生活がかかっていたし、何より朝は二人から起こされるから大体同じ時間に起きていた。
    夜は疲れ果て、ある程度その日にやらないといけない事を終わらせると三人とも倒れる様に寝ていた。
    二人と離れた後はフーシャ村のみんなが色々と気にしてくれたから、なんだかんだ規則正しい生活をしていたと思う。

    うーん、細かいところは忘れたな。

    それから海に出た後、仲間が出来てからは睡眠時間がかなり自由になった。
    みんなが船で必要な事をしてくれるからおれはわりと自由だ。
    これと言って何もしなくて良くなったおかげで、今は好きな時間に起きて、好きな時間に寝れる。
    幸せだなー、と思いながら今日も重くなってきた瞼に逆らう事なくボンクの中で目を閉じる。



    夢を見た訳でもなく、ただ、いつもの様に意識が浮上し目が覚めた。
    辺りはまだ薄暗く、みんなの寝静まった気配だけが漂っており、時間の感覚が無くともまだ朝が来ていない事は分かる。
    まだ暗いしもう一度寝ようかとも思ったが、なんとなく目が覚めてしまったので音を立てない様にボンクから降り、麦わら帽子を被って男部屋を出る。
    起こさない様に静かに歩くも、ひたひたと自分の足音が耳に入って来る程の静寂。
    普段夜遅くまで起きているゾロも寝て、早起きのブルックも起きていない時間。
    いつも誰かしらがいて騒がしい船なのに誰もいない不思議な時間。
    その見慣れない光景に胸が高鳴り、思わず叫びたくなる程のわくわくが止まらず口角を上げながら船内から出る。
    扉を開けると誰もいない甲板が広がっていた。

    ……すっげェ静かだ。

    サニー号になってから更に広くなった甲板ではあるが、薄暗く、波の音だけが響くこの空間は更に広く感じる。
    先程の高揚した気分はこの静けさに飲まれ、静かに揺らめく波の様に凪いでいく。
    普段と様変わりした景色に立ち尽くし、ぼんやりと目の前を眺める。
    誰もいない寂寥感、静かな揺れと波の音、まだ日の出前の薄暗さ。
    そんな筈は無いのに、この世界には自分しかいないのではないか?と思う様な不安や焦燥に駆られる。
    それ程、目の前の光景は静止していた。
    一人の寂しさは痛い程知っている。
    だから、この世界から逃げ出そう、と足を動かそうとしたその時。

    「……ん?誰だ?」

    誰もいないと思っていた静寂な世界から、急に聞き馴染みのある声が上方から聞こえ、弾かれる様に声のした方を見た。
    見上げるとランプの薄明かりが灯り、展望デッキの窓から顔を覗かせる人影があった。

    「サンジ!」

    光をキラキラと反射させる金髪は、今日の不寝番であったサンジだった。
    嬉しくてつい大きな声が出た所為か、慌てた様に今降りる、とジェスチャーをすると中へ入り、ランプを消したのか展望デッキが暗くなった。
    降りてくる音は時間帯に合わされ限り無く小さく、暫くすると近くに人の気配が近付き、薄暗さの中に何処と無く居るのが分かる距離まで来ると声をかけてきた。

    「おい、ルフィ。そんな大きな声出すな。皆が起きちまうだろ。」
    「わりぃ。」
    「んで?どうした、急に呼んだりなんかして。」

    腹が減って目が覚めたのか?といつもの調子で煙草に火をつける。
    その姿に言い様の無い安心感を感じ、先程のあの気持ちはもう忘れてしまっていた。

    「いや、なんか目が覚めちまったから探検してた。でも、サンジの顔を見たら腹減ってきた。」
    「ははっ、なんだそれ。」

    やっぱり腹減ってんじゃねェか、と口元の煙草を揺らしながら笑うその姿は、そろそろ夜明けの時刻が近付いているのか、うっすらと見える様になってきていた。

    「メシを作ってやっても良いけど……、まあ、もうちょっと待てよ。」
    「ん?なんかあんのか?」

    いつもだったら余程の事がない限り何か食べさせてくれたり、作ってくれるサンジが珍しく待って欲しいと言い、思わず理由を聞いた。
    するとサンジは悪戯っぽくニッと笑った。

    「もう直ぐ良いものが見れるぞ。」

    そう嬉しそうに言われるも、どういう事だ?と首を傾げる。
    見れると言う事はなんか出てくんのか?と思い、回りをきょろきょろと見渡すも、これと言って何もなく、ただ時間の経過により、先程よりも辺りが見えやすくなっているくらいの変化しかない。
    海と空の境界線が消えかけていた夜が終わり、水平線を境に夜を薄める光が境界線を明確にしていく夜明けの気配。
    詳しくは分からないけれど、朝ご飯をねだりたくなるくらい腹が減った頃には夜が明けるのかもしれない。
    メシの事を考えたら腹減ってきたな、と思いサンジにメシを作ってもらおうと口を開く前に声をかけられた。

    「ルフィ、キレイだろ。」

    え?と思いサンジを見ると、海の中にいた。

    いや、違ェ。

    おれ達の周りが、世界が、青色に染まっていた。
    晴天の時の空と海の青さとは違う、深く、もう何年も見た事がない深い海の中を彷彿させる青さ。

    「ブルーアワーって言うんだ。」

    この深く静かな青さに似合う声が言葉を紡ぐ。

    「ぶるーあわー?」
    「ああ、日の入りと日の出前に今みたいに周りが青くなる時間があるんだ。」

    煙草を口から外し、まるで海の中にいるみたいだろ?とニッと笑いかけられる。

    「お前カナヅチだからアクアリウム以外でこんな色はなかなか見ねェだろ?」
    「おう……、すっげェ青いな。」

    まるで海の中で会話をしている様な錯覚さえ覚える青。
    体に宿す悪魔の実の所為か、擬似的な海に息苦しささえ感じてしまいそうになる。
    溺れないのに溺れてしまいそうな。

    「おれ、この時間の景色が好きでさ。不寝番の時はよくこの景色を見てんだよ。」

    誰かと一緒に見たのは始めてだけどな、と静かに笑いながら言われた。
    その静かな声が波音に混じり、より海を彷彿させる。

    「へえーそうなのか。おれ昔からカナヅチで泳げねェし、今は悪魔の実のせいで海に入るとすぐに力が抜けちまうからこんなすっげェ青色を見た事ねェかもしれねェ。」
    「はははっ、海に愛されてねェな。どうだ?苦しくない海の中は?」
    「うーん、平気だけど海だと思っちまうと少し苦しい気がする。」
    「へぇ、そういうもんなのか。」

    能力者っていうのも大変だな、と言うとサンジは二本目に火をつけた。
    足掻く事すら許されず沈む体、本能的に助からないと感じる恐怖や苦しさを感じる世界はきっと能力者にしか分からない。
    それを擬似的に感じてしまう程の青の中にいても、隣で燻る煙草の匂いに言い知れぬ安心感を覚える。
    限り無く海に近い世界。
    その世界でも息が出来るのはいつも海から引き上げてくれるサンジが一緒だからなのか。
    穏やかな青色を二人でぼんやりと眺める。
    波の音と煙草の匂いが青の世界を穏やかな海中に変える。
    これで魚や海王類とかが泳いでいたら本当に海の中っぽいのになー、と空想していると、少し楽しそうなサンジの声が聞こえた。

    「なぁ、ルフィ。」

    声をかけられて気泡を吐き出す。

    「なんだ?」
    「オールブルーもこんな青色かな?」

    仲間になる前に子供っぽく夢を語った時と同じ楽しそうな顔。
    絶対仲間になって一緒に夢を追いかけたいと思った顔。
    金髪から覗く青い片目が、きらめく海面の様に輝き心の底から嬉しそうな顔。
    青い世界でも分かるその表情に何かが溢れ、溺れていないにも関わらず、海の中にいるかの様に胸が苦しくなるのに甘い高揚感が沸き上がる。
    だから言葉にしねェと。

    「一緒に見に行こう!」
    「え?」
    「オールブルーが本当にこんな色か一緒に見に行こう、サンジ。」

    おれが絶対連れてってやる!と煙草を持っていない方の手を握り、ぐっと顔を近付けニッと笑う。

    「一緒に見ような!サンジ。」
    「……おう、楽しみにしてる。」

    少し照れ臭そうにしながらも、サンジもニッと笑い返す。
    その白い頬が少し赤く染まっているのが分かるくらいには、少しずつ辺りが明るくなってきた。

    「お、そろそろ朝が来るな。」

    サンジが白み始めた水平線の方に顔を向ける。
    同じ様にそちらを見ると、海面へ浮上して行く様に空が薄水色になっていく。

    「じゃあ、そろそろ朝飯の用意をするか。」

    水平線に背を向け、サンジが船内に入ろうとするのを握った手を引っ張り止める。

    「どうしたルフィ?腹減ってんだろ?」
    「なぁサンジ、また見ような。」
    「ん?オールブルーの事か?」
    「じゃなくてぶるーあわーの方だ!」

    また一緒に見ような、と笑うとお前いっつも日が出てから起きるだろ、と呆れた顔をされた。

    「えー、じゃあサンジ起こしてくれよ。」
    「寝たい時寝て、起きたい時に起きる奴を起こしに行っても起きねェだろ。つーか、いつも朝飯にならないと起きねェじゃねェか。」
    「その時は起きる!」

    むっ、とした表情でサンジを見ると、やれやれとした表情で仕方ねェな、と言った。

    「じゃあ、次のお前の不寝番の時におれが声をかけてやるよ。」

    それならお前起きてるだろ、と言われた。

    「やったー!約束だぞ!」
    「分かった分かった。」
    「サンジが不寝番の時は起こしに来いよ。」
    「別に構わなねェが、お前ちゃんと起きろよ?」

    起きなかったらほっとくからな、と言うとパッと手を放された。
    それに少しの残念さを感じるも、次の約束に口許がニッと上がる。

    「なーんか腹減ったなぁー。」
    「それはいつもの事だろ。」

    少しだけなら味見させてやるよ、と言ったサンジはキッチンへと向かう為、扉を開けて船内へと入っていく。
    それに返事をする様にお腹が鳴り、笑い声と一緒に早く来いよ、と声をかけられた。
    それに元気良くおう!と返事をして同じ扉を潜る時、足元には影が伸びていた。

    世界は海面から顔を出し、夜が明けた。

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