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    nyota_okashi

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    nyota_okashi

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    サルベージした

    シiルiヴァiリiオパロのアサ森♀を書きたかった
    ラグナロクベースでヴェンデッタもトリニティもごちゃごちゃ混ぜてます
    名ありのモブがたくさん出ます

    銀の運命パロ その日はやけに胸騒ぎがして、森羅は一向に寝付けなかった。
     いつもはとっくに寝てる時間ではあるのだが、珍しく目が冴えていた。
     何度寝返りをうっても睡魔がやってくる気配はない。
    (少し外の空気を吸ってこよう)
     同居人達に見咎められたら「こんな夜中に女一人でフラフラ外に出て行くんじゃない」と叱られるかもしれないが、こっそり出ていってすぐに戻ってくれば大丈夫だろう。多分。住人の誰もが鍵もかけないようなこんな田舎で危ない事なんてそうそうないはずだ。
     胸中で言い訳を重ねながら、森羅は窓を開けて外にするりと抜け出した。部屋が一階で良かった、と裸足で草を踏みしめながら考える。
     夜特有の少し冷えた空気が肺を満たすのが心地良かった。
     ぼんやりと歩きながら、視線を天に向ける。 

    「今日もキレイだなあ……」

     溜息を付いて、天に浮かぶ第二太陽アマテラスを眺めた。

     ──千年前、何度目かの大戦の末、世界は一度滅んだのだという。

     当時あった日本が爆心地となり、それまであった世界は一変した。
     今でも世界地図を見れば、当時日本があったあたりを中心に冗談のように丸く抉れているのが見て取れる。
     ユーラシアの六割近くを吹き飛ばし、大陸の形をめちゃくちゃにして、世界の法則も一変させた。
     その結果生まれたのが、第二太陽アマテラス。
     空の彼方に御座す二つ目の太陽──と言われてはいるが、正確には千年前の大災害によって生まれた成層圏の向こう側に空いた穴にして、星辰体アストラルの源だ。
     別位相のどこかと繋がって、地表にアストラルという粒子を送り込んでいるのだという。
     昼間は淡く光っているだけだが、夜になるとまるで満月のように青白い光を放つアマテラスは確かに美しく、信仰の対象になるのも分かってしまう。

     夜空に燦々と輝くアマテラスをぼんやり見つめて、森羅は考えを巡らせた。
     アマテラスを見ると時折、妙な感覚が胸に湧き上がるのを感じていた。
     どこかに行かなければいけないような、誰かに会わなければいけないような。
     自分でもよくわからない感情が胸中に溢れてどうしようもなくなる時がある。
     そんな訳の分からない想いを無理矢理振り払うように第二太陽から視線を逸らして俯いた。
     
    「こんな所にいたのか。悪魔」

     溜息をついた瞬間、デリカシーの無い台詞が背中に投げかけられ、ばっと顔を上げて振り返った。 
    「悪魔じゃねえ! ヒーローだ!」
     反射で声の主に言い返す。
     どこかムスッとした表情で、同居人──アーサーが腕を組んで立っていた。
     いつもはまっすぐな金髪が若干乱れているので、もしかしたら外に出た時に起こしたのかもしれない。だとしたら悪い事をした。
    「何をしていた? というかこんな時間に一人でふらふら出歩くな。ハンナ達が心配するだろう」
    「だからおばさんを呼び捨てにすんなって……え、外出たのバレてるか?」
     行く宛の無かった二人の面倒を見てくれているハンナおばさんやマットおじさんの事でも、アーサーは呼び捨てにしている。それを笑って許してくれるような優しいおばさん達ではあるが、森羅が成長してきてからは少し過保護気味な気がする。夜に一人で歩いてたのを知られたら確かに心配させてしまうだろう。
    「いや、ぐっすり寝てたから大丈夫だろう。それで、何してたんだ」
    「……何か寝付けなかったから散歩してただけだよ」
     あっさりと首を横に振ったアーサーの言葉に安心してそう返す。
    「……あのさ、最初に会った日覚えてるか?」
     アマテラス見てたらちょっと思い出した。と天で煌々と輝く第二太陽を指差す。
    「知らん。忘れた」
    「マジかよお前……」
     間髪入れずに返ってきた答えに呆れながらも、こいつの頭じゃ仕方ないかもしれないと思い直す。

     アーサーとは随分不思議な出会い方をしたものだと思う。

     森羅が最初に見たのは青空と、ぼんやりと淡く輝くアマテラスだった。
     気がついたら何もない茫洋とした草原に倒れていて、ただ空を見ていた。
    『……え?』
     何だこれは。ここはどこだ。今は一体いつなんだ。
     いやそもそも──自分は誰だ?
     何も分からない事に酷く混乱した。
    『何だこれ……記憶喪失?』
     とりあえず頭をさすってみるが、特に傷があったり痛みがあったりするわけではない。
    『参ったな……』
     何故かそこまでの危機感は湧いてこなかったが、それでも困ったことになっているのは事実だ。頭を抑えたまま途方に暮れる。

    『おい、何をしている?』

     その時やっと、自分のすぐ側に、自分と同じように倒れている少年がいる事に気付いた。
    『……』
     同じようにぶっ倒れているくせに何故か偉そうな少年の顔を、森羅はぽかんとした表情のまま見つめ返した。
    『聞こえなかったのか? 何をしている』
    『……いや、気がついたらここにいて、何故か今までの記憶が何もなくて……』
     そこまで言って、もしかしたら隣の少年が知り合いなんじゃないかと思い至る。
     ここまで何もない草原でこんな近くにいたのだから、その可能性は高いはずだ。
     しかし、その期待は一瞬で粉々にされた。
    『そうか。俺もだ』
    『マジかよこいつ……』
     何故か自信満々でそう言う少年に、それ以外の言葉が出なかった。
     あとから思い返せば、この時からアーサーには驚かされっぱなしだ。色んな意味で。
     うーん、と唸って状況を整理する。子供二人がいっぺんに記憶喪失? こんな草原で?
     上体を起こして辺りを見回しても、近くに建物は無い。人もいない。
    『……多分、どっかの村が口減らしに子供を捨てたとかじゃねえかな。そんでその時のショックで俺たち二人共記憶が飛んだとか』
     適当な仮説ではあるが、大方そんなところだろう。
    『じゃあ俺たちは兄弟か?』
    『いやそれは……無いんじゃないか?』
     鏡を見たわけではないが、どう考えてもこいつと自分では人種が違うだろうという事位は分かる。
    『そうか』
     納得したのかなんなのか、少年はすくっと立ち上がった。 
    『おい、行くぞ悪魔』
    『誰が悪魔だ馬鹿騎士! 俺はヒーローだ!』
     そう言ってから、二人共ピタリと動きを止めた。
    『……』
     自分も、恐らく少年もほぼ無意識のやりとりだった。
     多分前からこういう事を言い合うような仲だったのだろう。というのは分かった。
     そんなのが分かった所で何が出来るわけでも無いが、何故か妙に気恥ずかしかった。
    『おい、名前も思い出せないのか?』
    『え?』
     若干複雑な表情を浮かべた少年に尋ねられ、名前について考え始める。
    『名前……』
     自分の名前を思い出そうとすると、意外にもするりと記憶から出てきた。
    『日下部 森羅……じゃないな。森羅 日下部。だと思う』
     先程まで全然思い浮かばなかったのに、何故いきなり浮かんできたのかが分からず、また頭を押さえる。
    『そうか』
    『お前は?』
    『思い出せん』
    『いやちょっとは思い出そうとする素振り見せろよ』
     間髪入れずに思い出せないと言った少年に森羅もかぶせ気味に言った。こういうやりとりが何故か妙にしっくりくるのは何なのか。もはや知り合いだったのは間違いないだろうが自分たちは一体どういう関係だったんだ。
     その後アホ面で首をかしげている少年を何とか励ましたり宥めたりしたが、一向に思い出す様子はない。大丈夫かコイツ。
     段々不安になってきた頃、少年はとうとう丸投げしてきた。
    『もういい、お前が付けろ』
    『ええ……』
     それで良いのかよ、と言っても少年に譲る気は無さそうだ。
    『お前、これで俺が変な名前付けたりしたらどうするんだよ……』
    『それは困る。騎士らしい名前にしろ』
    『偉そうだなコイツ……』
     騎士らしい名前、と頭を捻って無い記憶を辿る。が、出て来ない。ただでさえ記憶喪失で困っているのにいきなり他人の名前をつけろと言われても。
     途方に暮れて、空でぼんやり淡く光っている第二太陽に視線を投げる。
     ふと、誰かが困ったように笑ったような気がして──
    『……アーサー? ……アーサー・ボイル、とか』
     何となく、浮かんだ名前をそのまま口にした。
    『……ああ、良いなそれ』

     そうして、名無しではなくなった少年少女は自然と手を繋いで歩きだした。

     宛もなく歩いていたが、程なく街道に出て、出会った荷馬車に乗せてもらって、そうしてその内に長閑な村に辿り着いた。
     幸運にも優しい村人に拾われて、穏やかな環境で成長を重ねていった。
     時折立ち寄る行商人から東部戦線なんかの話は聞くが、長閑な田舎の村にとっては遠い世界の話だ。

     そんな平和な日々が、今の今まで続いている。

    「ああ、そんな事もあったな」
     ぽつぽつと語られた思い出話に、アーサーが頷く。一応思い出したらしい。
    「よく忘れてられるなお前。忘れないぞ普通」
     森羅もアーサーも数年で随分大きくなったが、アーサーの頭の中はほとんど変わってないのではないかと森羅は思う。
     頭は残念でも見た目が良いから大層モテるのだが。
     村に若い子はほとんど居ないけれど、行商人やら旅行者や近隣の街の女の人に声をかけられているのをよく見る。
     悔しいが、アーサーの顔がいいのは認める。
     今こうやって育ったアーサーを見たら、きっと捨てた奴も捨てた事を後悔するんじゃないだろうか。なんて、馬鹿な考えがたまに頭をよぎる。
    「たまーに思うんだよな。俺達どこから来たんだろうとか」
     これは当然の疑問だろうと思うのだが、隣に立っているアーサーにはどうもそうでは無いらしい。怪訝な色を浮かべて森羅を見てくる。
    「そんな事が気になるのか?」
    「たまにな。たまに。別に今の生活に不満があるとかじゃねえよ」
     こんなに平和な村で、何年も穏やかに過ごせている。
    (……なのに、何で不安になるんだ)
     時折、空に輝くアマテラスが何故か不安をかき立ててくる。
     それが何なのか、ずっと分からないままだが。

    「そろそろ家に戻ろうぜ。眠くなってきた」
    「ああ──」
     森羅と同じように、柵に寄りかかって座っていたアーサーが体を起こし、そのままピタリと動きを止めた。
     その視線が村の入口に向いているのを見て、森羅も視線の先を確認した。

    「……なんだ、アイツ」

     村の入口に立っていた男を見て、立ち止まる。

     ──アーサーに似てる?

     アーサーよりは背も高く、金髪も後ろ側で結んでいるから分かりづらいが、背にかかるほど長く伸ばしてある。
     騎士のように白と青が基調の鎧を纏っているから、もしかしたら地方領主として来た本物の騎士なのかもしれない。前任の騎士は中央に栄転になったと誰かが言っていたのを思い出す。
     きっと、アーサーが歳を重ねたら、もし本物の騎士になったらああいう風になるのだろうなと思うような男だった。
     なのに、
    「……森羅?」
    「……」
     怖い、と思ってしまった。
     男が何をしたという訳ではないのに、今すぐ逃げ出してしまいたい。
     顔が恐怖に歪む。直したいと思っている癖で、歪な笑みになっているのが分かる。
    「……帰ろう。早く」
     意味のわからない恐怖感から逃げたくて、アーサーの腕を掴んで歩き出した。
     その背に刺さる視線に、その時は気づかなかった。




    ───────────────


     

    「そういえばさっき聞いたんだけど、新任の地方領主様が着任されたそうだよ」
     翌朝、いつものように食卓を囲んだ際に言われたおばさんの言葉に、森羅は何故かひどく安心した。
    「そうなんだ。昨日騎士っぽい人見かけたけど、やっぱあの人かな」
     昨晩見た男の姿が脳裏をよぎる。
    (良かった、怪しいやつじゃ無かったんだ)
     あの時の意味のわからない恐怖感から無理矢理目を背ける。
     あんなの、気の所為に決まってる。
     昨日の事を知っているアーサーが何か言いたげにじっと見ているのには気付いていたが、ごまかす様に別の話題を振った。
    「そういやアーサー、お前よく騎士になるって言ってるけど、星辰奏者エスペラントの適正試験とか受けるのか?」
    「えすぺらんと? なんだそれは」
    「お前……。数ヶ月前に皇国の技術が流出して、教国でも研究が進んでるからその内民間からの応募も受け付けるんじゃないかって、この前行商人のおっちゃんが言ってたじゃねえか……」

    目をしぱしぱさせているアーサーに、一応、と星辰奏者についての説明を始めた。

    「星辰奏者は、十数年前に皇国が開発した強化兵の技術だったんだけどな。
     星辰体と感応できる適合者にとある処置を行うことで、何倍もの身体能力や超能力じみた力を使えるようになるんだってさ。
     だから星辰奏者の兵士がいる皇国側がずっと有利だったんだよ。東部戦線とか随分押されてるって話聞いたことあるだろ?」

     かなりざっくりとした説明だが、アーサーには多分丁度いいだろう。
     星辰奏者エスペラント──正確には星辰体感応奏者と呼ばれるが、一般には星辰奏者と呼ばれる。その名の通り、星辰体と感応できる能力者のことだ。
     星辰奏者のおかげで、主要三国は東京皇国一強と言ってもいい状況だった。
     森羅たちのいるラフルス聖陽教国側も灰島商業連合国も苦戦を強いられている。
     聖陽教国、東京皇国、灰島商業連合国の三つ巴になっているらしい東部戦線はかなり悲惨な状況だとは聞くが、森羅達のいる内地はまだまだ戦火から遠い。

    「待て、星辰体って何だ」
    「そこからか……!」
     ある程度は以前学校で一緒に習ったはずだが、すっかり記憶から抜け落ちているらしい。まあ、そこに関しては日常生活で使う知識でも無いから仕方ないのかもしれない。
     森羅は一時期興味を持って調べていたから少しは知識がある。とはいえ、こんな田舎町で調べられる範囲なんてたかが知れているが。
     なるべく分かりやすいように、と持っている知識をざっくりと説明し始める。
    「アマテラスから降り注いでる粒子だよ。その位は習っただろ?」

     星辰体は粒子としてそこら中に、それこそ世界中に広がっている。もちろん肉眼では見えないので、そうらしい、と聞いたことがあるだけだ。
     大災害の後、アマテラスから世界中に降り注いでいるそうだが、それこそが世界の法則その物を一変させてしまった原因だ。
     まず金属の抵抗値が一律して無くなった。ゼロになった、電気を減衰させることなく伝える事が出来るようになった、と言ってしまえば簡単だが、その結果ICチップ等のパーツは使えなくなり、当時あった殆どの機械は使用不能となった。
     当然ながら人類の文明は大きく後退する事となる。
     アストラルにより空気抵抗が増大したせいで航空関係の技術も一気に廃れてしまった。
     なんとかこの新西暦の世界でも使える旧日本の遺物なんかも駆使して、千年以上をかけてここまでの復興を果たした訳だが。

     そんな事をなるべく噛み砕いて説明したが、目をしぱしぱさせてるアーサーにどこまで通じているのか。正直怪しい。
     まあ知らない所でどうという訳ではないし、気にせず話を続ける。
    「で、さっきも言った通り星辰体と感応できる適合者は処置を受ければ星辰奏者って奴になれるんだよ。うちの国でも近々適性検査が受けられるようになるらしいって話。
     星辰奏者に適正がある奴は平民でも騎士の称号貰えるんだと。確か聖騎士<パラディン>とかいう……お前こういうの好きだろ?」
    「! ああ」
     ちょっと目を輝かせて頷いている。
     適合するかは分からないが、アーサーなら多分大丈夫なんじゃないかと森羅は思っていた。
     何故かアーサーは妙に腕っぷしが強い。
     以前街の連中に絡まれた時に数人まとめてボコボコにしているのを見た事があるのだ。
     見てたら普通に森羅も巻き込まれたので、応戦してアーサーに負けない暴れっぷりを見せた辺り人の事は言えないが。というか普段からアーサーと互角の喧嘩をしているのだから森羅も充分おかしいのだが本人たちにとっては今更だ。
     腕っぷしが強いから適合者とは限らないが、それでも森羅は何となく、アーサーなら何とかなりそうだと思っていた。
    「お前は?」
    「え?」
    「お前も受けるんだろう?」
     当然のようにそう訊いてくるアーサーに、少し面食らう。
     ──えっ俺も?
     アーサーが好きそうな話だから教えてやろうと思っただけで、自分の事は特に考えていなかった。
    (聖騎士になったら人の役にはたてるかもしれない……よな?)
     ヒーローになる、という夢には一歩近付ける気がするが、騎士とヒーローはやっぱり違う気もする。
     ただ、アーサーが一人で騎士になって、シンラだけがここで生活を続けるというのも何だか想像出来なかった。
     多分、物心ついてからずっと側にいたせいだ。
    「あー……多分?」
     曖昧な返事しか返せなかったが、アーサーはあまり気にした様子も無く「いつ受けられるようになるんだろうな」なんて、ワクワクした様子で言っていた。


    「ねえ見た!? 新任の騎士様! 凄いイケメンだったよね!!?」
     ジーナが顔を合わせるなり食い気味に訊いてくる。
     一緒に来たルースは妊娠中だからかジーナよりゆっくり歩いてきたが、ジーナのその様子に苦笑いを浮かべている。
    (いや、俺今仕事中なんだけど)
     ハナコ(牛)のブラッシングをしている最中だったので、とりあえず手は止めずに応対する。
     ちなみに、アーサーは別の場所で馬の世話をしている。どうも馬が好きらしい。多分騎士と言えば馬、というイメージが本人の中にあるのだろうが、この牧場にいるのは農耕馬なので割と寸胴な馬だ。良いのかそれで。
    「昨日ちょっとそれっぽいの見たけど、確かに格好良かったよな」
     見た瞬間の不安感は気にはなったが。今思い返すと、何故あんなに不安が掻き立てられたのか自分でも分からない。
    「そうよね!? 私も村長と話してる所を遠目でしか見えなかったけど、凄く格好良かった〜!」
     ジーナは昔から面食いだ。若い人間の少ないこの村でいつも年上のイケメンに飢えているから、今回の見目麗しい「騎士様」が来たのが相当嬉しかったらしい。
     アーサーを見ては「5歳も年下じゃなければ……」「頭があんな残念じゃなければ……」といつも嘆いているのを知っているので、こうやって喜んでいるのを見ると良かったと思う。若者の少ないこの村では5歳も年上のジーナでも数少ない同性の友達だ。
    「そんなに格好いいの? 私も見に行こうかなあ」
     大きいお腹を抱えながらルースが笑う。人妻で妊娠中でもイケメンには興味があるのか。森羅にはちょっと不思議だった。
    「くっ! 妙に余裕な態度なのがムカつく! アンタらは良いわよね……ルースは旦那さんいるし森羅はアーサーがいるし……」
    「いやだからアーサーとはそういう関係じゃないって」
     何故か事ある毎にそういう扱いをされるが、そういう関係ではない。断じて無い。だってアーサーだぞ。
    「えー良いじゃない。アーサー顔は良いんだし」
     ねー、とジーナとルースは二人で顔を見合わせる。仲良しかよ。
    「いやフォローされても……。あっちだって嫌だろ。あいつの好みティアラとかガラスの靴とか似合う女の子だぞ」
     そんな女の子が実在するかはともかく、自分がそれに掠ってもいないだろうと森羅は思っていた。
    「まあティアラとかはともかく、昔よりはちょっと女の子らしくなってるじゃない? 私達のおかげで!」
     何故か自慢げに胸を張ってジーナが言う。
    「それは感謝してるけど……」
     以前より伸びて肩につく位になった髪も、2人が言わなければ短く切りそろえたままだっただろう。
     あまり思い出したくないが、この村に来た最初の日なんて本当に男と勘違いされて、アーサーと一緒に風呂に入れられそうになった。というか今となっては信じられないが自分でもあの時は自分の事を女だと分かっていなかったから普通に一緒に入ろうとして脱いだのだ。二人して驚く羽目になったし、二人の悲鳴に驚いたおばさんとおじさんが怪我でもしたのかと心配してドアを叩いてくるわで滅茶苦茶な状況だった。記憶喪失のせいなのか何なのか未だに分からない。そこまで忘れる物なのか?
     確かにあの時よりはそりゃあ女らしくなっただろうが、マイナスがやっとゼロになった位の話だろう。
    「あとおっぱいも大きくなってきたよね」
    「は!?」
     不意に胸元を凝視しながらルースがそんな事を言ってきた。何の話だ。
    「分かる。大きくなってきた。昔マジでまな板だったのに。いや昔は子供だったから無くて当たり前なんだけど」
    「子供が育つのは早いわねえ……」
    「こんな所で成長確認してんじゃねえよ!! 何かもっと色々こう……あるだろ!! 身長とか!!」
     視線から逃れようとして、胸を腕で庇いながら言い返す。
     その様子を二人は暫し笑って見ていたが、子供といえば、とジーナが切り出した。
    「ルース、子供もうちょっとで産まれるんじゃ無かったっけ」
    「うん。もうちょっとのはずよ」
     随分目立つようになってきたお腹を撫でて、ルースが微笑む。
    「子供の性別って分かるんだっけ?」
    「んー、街の方でちゃんと調べれば分かるらしいけど、生まれてからのお楽しみにしとこうかなって」
    「楽しみだな」
     年寄りの多いこの村で、子供の数はやはりあまり多くない。
     男でも女でも、生まれたらきっと皆とても可愛がってくれるだろうし、友達の子供だ。自分も精一杯可愛がってやろうと思った。
     元気に生まれてくれると良いと、心から願った。


    ──────────────────


    「うわ、もう暗くなってるな」
     牧場の仕事が終わった後、おばさんに頼まれて酒場で働いているおじさんの所まで荷物を届けに行き、用事を済ませた時にはすっかり日が暮れていた。
    「じゃあな〜森羅ちゃんもアーサー君も、大人になったら一緒に飲もうなあ」
    「あー……はい。あんま飲みすぎないで下さいよ」
     顔を朱色に染め上げた客が森羅達に向かって握っている酒瓶を振る。多分手を振りたかったんだろうが手が酒から離れないらしい。話してる時もずっと握っていた。
     ここまで帰りが遅くなったのは客たちがいちいちちょっかいをかけて来たからだろうが、可愛がられているのはよく分かるので強くは言えない。
    「おい行くぞ馬鹿騎士」
    「ぬおっ」
     近くの客に餌付けされてつまみを頬張っていたアーサーの腕を引っ張る。さっき夕飯食べただろうが。
     森羅一人でも運べる量の荷物だったのに、もうすぐ暗くなるからとおばさんに無理矢理同行させられたのだ。だったらアーサー一人でも良かっただろと思わなくもないが、それだと微妙に不安なのも何だか分かってしまう。何故かこの自称騎士王は狭い村の中でもたまに迷子になる。なんでだ。
    「何をする悪魔!」
    「悪魔じゃねえ! ほら帰るぞ!」
     不満そうなアーサーを連れて店の扉を開ける。視界に入る客達がみんな微笑ましい物を見るような視線を向けてくるのが微妙にイラッとした。

    「一緒に飲めるようになったら……って言ってもまだ何年もあるよなあ」
     先程の客の言葉を思い出し、隣を歩いているアーサーにぼやく。
    「あと五年位か?」
    「四年な。四年。この前誕生日パーティやっただろ」
     もちろん本当の誕生日は分からないのだが、おばさんたちは初めて村に来た日を誕生日として毎年祝ってくれる。
     当然本当の年齢も分からないのだが、一応形式上はあと四年たてば酒を飲んでも問題ない、はずだ。
    「でも星辰奏者の試験通ったりしたらこの村になかなか戻ってこれなくなるかもな」
    「なにっ」
     もし通れば流石にここからは離れることになるだろう。聖騎士は人手不足だから、この長閑な田舎に星辰奏者を何人も割きはしないはずだ。
     中央に配属されればまだ良いだろうが、平民出のアーサーはもしかしたら東部戦線辺りに追いやられるかもしれない。
     ラフルス聖陽教国は他二国と比べ領土拡大に対する意識は低い反面、信徒数の増加と宗教的権威の肥大化に余念がなく、国風は閉鎖的だ。宗教国家という性質から血筋や家柄が重視されやすい。平民でも高い地位が与えられるという聖騎士のシステムも出来上がったばかりなのでここからどうなるのか分からない。
    (あれ、これ俺が一緒に聖騎士になっても同じところに配属されるとは限らないじゃん)
     冷静に考えればその可能性は十分有り得た。
    (なんだ──)
     その可能性に思い至って、がっかりしている自分が何だか不思議だった。
    「……何か心配事か?」
     考え込んでいる森羅の顔を覗き込んできたアーサーに驚いて少し仰け反る。
     こういう時、この馬鹿は妙に目敏い。
    「あー……いや、なんでもない」
     そもそも二人して星辰奏者の適合試験に合格できるかだって分からないのに、こんな事を心配するのは気が早いだろう。
     試験がいつ行われるのかだって分かっていないのだ。
     また明日考えればいい。
     アーサーは考えるのが苦手だから、こいつの分も俺が考えてやらないと──なんて、そう思っていた。

    「あ」
     小さく呟いて、アーサーの足が止まった。
    「あいつ、昨日の……」
     白と青の鎧を纏った金髪の騎士が、村の中心に立っていた。
     昨日のような不安感が、またじわりと胸に広がっていく。
    「? あいつ、何をしているんだ?」
    「……俺に聞かれても……」
     アーサーの暢気な声に答えようとした瞬間、
     ぱき、と音がした。
    (なんの、音)
     何故か背筋が凍るような感覚がした。
    「おい、森羅」
     先程より何故か緊張を帯びたアーサーの声に、そちらに視線をやる。
     何かに驚いたように目を瞠って、何か一点を見つめている。
    「……あれ、何だ?」
     アーサーが指をさした先、男の足元を見る。

     翡翠色に輝く結晶が、まるで芽を出す植物のように生えてきていた。

    「……翠星晶鋼アキシオン……?」

     知らないはずの単語が口から零れたことに、何故かその時は違和感を感じなかった。


     何故、明日も変わらない毎日が来るなんて思ってしまったのだろう。
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