「どれだけ知りたくても、勝手に暴いたらそれはワイドショーだ」
服部先輩はそう言って、苦笑を浮かべた。それきり言葉を紡ぐようなことはしない。こちらの出方を伺っているのは容易にわかった。わかった上で、俺は黙り込んでしまった。
服部先輩と、所謂お付き合いというものをし始めたのは、丁度彼が魔法科高校を卒業した時である。卒業式のその日に呼び出され、桜が綺麗だったからだろうか、それとも彼の表情があまりにも美しかったからだろうか、はたまた唇に触れたその熱が脳を溶かしたからだろうか。理由は分からないが、俺はその告白を承諾した。
頬を染めて喜ぶ彼を見て、何かが腹の底から湧き出る感覚を覚えた。
それが、過去に受けた魔法事故の後遺症の回復傾向であったことを知ったのは、此処最近のことである。
よく笑うようになった。少しのことでむっとなるようになった。涙をこぼすようになった。
彼と生活していく上で、様々な感情を揺さぶられるようになった。心から深雪への思いが乖離していくのを遠くから見て、それを寂しいと思いつつも新しい火種が心を温めた。
まるで氷が解けていくようだった。
「優しいんですね・・・」
「今までも優しかっただろ?」
「えぇ。本当、初対面の時が嘘のようですよ」
そう言って揶揄ったように言って見せれば、気まずそうな表情を一つ。けれど、本気で俺がその言葉を口にしたわけではないことくらい、彼にも分かっていた。
頼んだ珈琲が少し温くなっている。珈琲カップを口に着け、ナッツフレーバーのそれを呷る。
「この豆、買って帰りますか?」
「いいな。丁度この前のが無くなりそうだし」
話はおしまい、とばかりに先ほどの話はなかったことにされる。彼としては、いずれ明かされるまで本当に何も聞くつもりはないのだろう。
だから俺は魔法事故だと嘘をついている。
本当のことを言ったとき、彼はどんな表情をするのだろうか。悲しむだろうか、怒るだろうか、それとも慰めてくれるだろうか。
「・・・どうかしたか?」
「いいえ・・・ただ、」
幸せだな、って。