互いに顔を見合わせ、先ほどまでの緊迫した状況を無かったかのように扱って見せたのは、少し意外であった。けれども埃を叩き、無事を確かめたらそれでおしまい。本当に何事もなかったかのように日常に戻ろうとする二人を、七草は生徒会室へと連行した。
さすがに、本校舎前で繰り広げた事件を、怪我人はいませんでした、はいおしまい。とはいかないのである。
二人も流石に理解したのか、無言で後を追ってくる。生徒会室までの道のりは、やや重苦しいものであった。
生徒会室の鍵が締まり、十文字が防音壁を張った所でようやく二人以外の者たちが息をついた。流石に一般生徒の手前、緊張を見せる訳にはいかなかった。虚勢を張っていた、と言えば聞こえがいいかもしれない。
小さくもう一度息を吐き出してから、七草は大人しく自分たちの目の前の席へと腰かけた二人を見た。
一人はそっぽを向き、一人は視線を落としていた。
「それじゃあ、確認させてもらうわね」
全員が腰を下ろしたのを確認し、七草がそう口にした。そうすれば、意外にもそれに返答を寄越したのは達也の方が先であった。
「えぇ。構いません・・・今からではどうやってもあなた方に真実を話す以外、納得してもらう方法がありませんからね」
達也はそう言って肩を竦めて見せるが、実際の所その胸の内は落ち着きを取り戻すのに必死になっていることだろう。
特異存在が公になってからすでに半世紀近くが経っているとは言え、特異存在はいまだに魔法師の中にも受け入れられ切れていないのが現状である。半世紀経ってもいまだ数が少ないのも原因の一つだろうが、それ以上に魔法師がいまだに一般人から受け入れられていない、という現状も大きく影響していた。
一般人からしてみれば、魔法師以上に特異存在は受け止めきれない存在だろう。ゆえに、迫害の対象になることは少なくなかった。
二人はまだいい方、と言えるだろう。
「俺は鳥類・・・梟の特異存在です」
種類はおそらくウラルフクロウであろうと達也は推測している。違った点といえば、その全てが白で構成されていること。そしてこれは、
「俺にも共通していることです」
オオカミ、別名ハイイロオオカミとも呼ばれる種類に該当している服部もまた、その全てを白色で構成していた。
「本来であれば、色はその動物に倣ったものになり、特別変化するものではありません」
けれども二人は生まれながらにして、真っ白な毛、羽を持っていた。
それが何を意味するのか。
「この共通の議題の研究のために、国立機関で俺たちはすでに出会っていたんです」
***こっから設定
特異存在:
西暦二〇五〇年前後から魔法師の中で突然変異として生まれてきた存在。
その姿を特定の動物にノーリスクで変えることができる。現在その変化の過程については各国が研究を進めているが、解明できた所はない。
共通認識として、魔法師のみに現れる特異的な存在であること、一人につき対象の動物は一種類であること、自我を保った状態で変化することができること、などがあげられている。
現在把握できている対象動物が七つの大罪に比肩する動物であることから、オカルト的な組織からの信仰がある。が、それが過剰な行動を起こし、数年前に死亡事件を引き起こした。それ以来、保護の対象として国によって厳重に管理されている。
白色変化については例が少なく、同時期に同じ場所に二人も現れたのは偶然であり、奇跡の確率だと言われている。