兄と鈍感 最近になって、イギリスの国内は祝日に向けて忙しくなった。兄と口吸いをしたあの日から、スキンシップが一気に減ったことが凄く不安になった。校内でも祭りの準備を生徒全体で押し進めているからだとは分かっていても、兄にはかまって欲しい。だから疲れがピークに達した時に、一時の気の迷いで自身の胸を兄に晒して「触るか?」と聞いた。暗い部屋で一緒に眠り、お互いの温もりがじんわりと肌に伝う。なかなか返答が来ないから顔を伺ったが、生気の抜けた真顔を見せて胸をずっと見続けてきた。ぼうっとした顔の兄が、とうとう口を開いたと思えば「触る」の一言だけで、胸に手を添えるだけの触り方だった。布団の中で温まった大きな両手が思っていたよりも熱く、そしてしっかりしていた。生肌で味わう兄の感触に、ドクドクしたものが全身に伝わったが、兄は無心になって胸を見つめて手を動かすことすらしない。何をするのかわかったものでは無い状態で、不安になってエンフィールドの方を向いた。少しだけ眉を動かして、兄はようやく指を動かし始めた。下乳に指を這わせて、胸の突起を親指で優しく触れてくる。次第に腹の中から熱い何かが込み上げてきて、自分だけが兄に興奮しているのかと思うと恥ずかしくて仕方なかった。息が荒くなり、エンフィールドにはバレないよう我慢をしているがエンフィールドの内腿と自分の腿脚をすり合わせてしまった。
「…………」
まだぼうっと胸を見つめていたエンフィールドが、ふと俺を抱きしめて胸に顔を埋めてきた。胸の隙間から兄の息遣いが聞こえて生暖かい空気が行き交った。こそばゆい感触に身が震えて、そっと兄の頭を撫でた。
「……エンフィールド?」
名前を呼んでみた。
「…………なんだい」
気の抜けた声が、胸中から聞こえた。
「……おやすみ、スナイダー」
え?
……………………は?
……またか?またこの兄はここまでやって寝るのか?据え膳を捨てて、胸に埋もれて、それで満足したのか?
確かに俺は、シャスポーみたいな男女の注目を集めるくらいの胸もない。スプリングフィールドのように庇護欲が煽られるような性格もしていない。気立ては決して良くない自覚もある。だが、この間あんなにキスをしたはずじゃないのか……そんなに、俺に魅力がないのか?
次第に悲しくなった。胸の奥が張り裂けそうな気もしたが、頻繁に感情を表に出さないばっかりに、甘え方も泣き方も分からない。
「……エンフィールド、お願いがある……お前とキスがしたい」
頑張って心から搾り取った言葉だった。エンフィールドはのっそりと顔を上げて、俺をムッとした顔で見てきた。眠かったのか、それほど寝たかったのかと思うと心が傷つく感覚がした。
だが、エンフィールドは思っていたよりもあっさりと俺にキスをしてきた。布団を滑らせ、突然覆いかぶさってくると、強く肩を押えられた。一瞬怯えた顔を見せると動きが止まったが、息遣いを荒くして、貪るようなキスをしてきた。呼吸がしたくても舌が入ってきてままならない。頭が真っ白になって、クラクラする。エンフィールドが使っている整髪料の匂いだろうか、焦がした砂糖とベリーの焼けた匂いがする。匂いが頭を通りすがる度に、腹の下が疼いてしまう。まだ空気は吸わせてくれないのだろうか、怒らせてしまったのだろうかと不安になるが、エンフィールドの目はギラ着いている。
「、はぁ、……ねぇ、スナイダー…………次の休みのせ前夜まで我慢して。じゃないと僕、ダメになるから……ねぇ、お願いだよスナイダー」
これで我慢してと言われて、首筋に噛み付かれた。ギリギリ見えない部分だろうか……勘違いしてしまった自分が恥ずかしいのに、胸がいっぱいになった。次は体を優しく抱かれて、エンフィールドは額にキスをしてきた。
「おやすみ、スナイダー」
「……あぁ」