Last Dance~I’m fond of you.~episode 一
服部が指定された居酒屋に到着した時にはすでに黒羽は酔っぱらっていた。
日本ツアーで自身の秘密の恋について告白した友が十年にわたる片思いを実らせてはや数か月。ようやく日本に戻ってきたときにはすでに木々は秋の装いを深め冬の気配が色濃く街に下りたころだった。
店員に案内されたのは奥の個室。お座敷タイプの引き戸を開け放った瞬間、むせ返るほどの酒の匂いに顔を顰めた。あちこちに徳利やらビール瓶が転がり、お世辞にも居心地がいいとは言えない。テーブルに突っ伏してもグラスを離さない男こそ、日本でもっとも有名なマジシャンである。正確に言えば、世界において指折りの、それこそ最高峰といっても過言ではない超がつくほどの有名人だった。
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