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    tekuro99

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    tekuro99

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    魔王討伐に成功して帰還したら何故か追われる身になってしまった勇者と魔王の娘がなんだかんだ逃避行する話。めちゃくちゃ途中。
    ※若干の流血描写
    ※軽率に人が死ぬ

     木々のざわめきと獣の鳴き声に紛れ、背後から複数人の足音が聞こえる。鬱蒼とした森の中では、自分が今どこを走っているのかも分からない。左腕の傷の痛みは時間の経過ともにひどくなってきている。
    ――パーティを解散しておいて良かった。
     痛みでぼやける思考の片隅で、金髪の青年――ジオラス・ベルドリッジはどこか他人事のようにそう思った。

     ジオラスはどこにでもいるごくごく平凡な青年であった。父は王国騎士団の所属であったが、ジオラスが子供の頃に魔獣との戦いで命を落とした。母は父の死後、病に倒れて後を追うようにこの世を去った。そうして、身寄りの無くなった彼は何十代目かの勇者に選ばれた。この国――アズトラム王国ではさして珍しくもない話である。
    王国は数百年にわたり魔王侵攻の恐怖にさらされ続けてきた。これまでに何人もの勇者が魔王討伐の旅に出発し、そのことごとくが失敗し、命を落とした。王からしてみれば、勇者の存在は手持ちの兵力を削らずに済む体のいい生け贄に近いものだったのだろう。「王は魔王討伐に心を砕いている」という国民へのポーズが重要なのであり、はなから成果の期待などされてはいなかったのだ。
     だが、ジオラスは魔王討伐を成し遂げた。アズトラム王国はついに魔王の魔の手から逃れることに成功したのである。
     仲間と共に王城に帰還したジオラスは、王からの多額の報酬を辞退し、パーティを解散したのちに王都の郊外にある自宅に戻った。役目を果たした今、人々が平和に暮らし、自分はひっそりと過ごすことが出来ればそれで良かったのだ。
     ――それが、なぜ。

    「……まるで狩りだな」

     ジオラスは樹木に背中を預けながら、冗談めかすように呟いた。鞘に納めることなく右手に握ったままの剣がひどく重い。襲撃を受けた自宅から脱出した際に一瞬見えた旗印は、確かに王国騎士団のものであった。なぜ王の直属部隊である王国騎士団が自分を狙っているのか。ジオラスはその答えを未だ見つけられずにいた。
     傷の具合を確認する。左の上腕と脇腹に、いずれも矢が掠めた傷がある。出血こそ止まっているが、それで痛みが引くわけではない。動けなくなるほどの傷ではなかったことだけは幸いだった。

     ジオラスが空を見上げると、煌々とした月がはるか上空に浮かんでいた。襲撃を受けてからどれくらいの時間が経ったのだろう。この森に逃げ込んだときにはまだ太陽が沈んでいなかったから、少なくとも数時間、もしかすると半日近く経っているかもしれない。
     追手は少なくとも今ここで自分を殺すつもりではないらしい。自身の経験からジオラスはそう結論づけていた。ここで殺すつもりならば、さっき掠めた矢に毒でも塗っていればそれで済んでいた。それに、自分を狙う矢のどれもがわざと急所を外しているように見えた。生け捕りにしろとでも命令されているのだろうか。いずれにせよ、捕まればろくな目に遭わないだろう。
     震える脚を叱咤し、地面に突き立てた剣を支えにして立ち上がる。同じ場所に長時間留まるのは危険だ。そう思って数歩足を踏み出した、その時だった。

    「魔王討伐を成した英雄がなんたる無様なこと」

     鈴を鳴らしたような、可憐な声が聞こえてきた。すぐ、背後から。
     ジオラスは振り向くと同時に剣を振るった。その鋭い切っ先は少女の首筋に至る数センチ手前でピタリと静止する。

    「まあこわい。いえ、問答無用で斬り捨てないだけお優しいのかしら?」

     突きつけられた刃など意に介する様子もなく、少女はクスクスと笑う。
     ジオラスは剣を構えたまま少女を睨みつけた。剣を握る手に汗が滲む。葉擦れの音も、風の音も遠くなるような緊張感が漂っていた。

    「いたぞ! こっちだ!」

     男の叫び声にジオラスの意識が引き戻される。木々の隙間から複数人の鎧をまとった兵士の姿が見えた。

    「はあ……邪魔ですね」

     少女は興がそがれたと言わんばかりにため息をつくと、兵士のいる方向に手のひらを向ける。瞬間、彼女の身体から影が伸びた。夜闇よりも暗いそれは瞬く間に兵士たちを包み、貫き、引き裂いた。最後の兵士が動かなくなったのを見届けた少女は、肩のあたりで切り揃えられた黒髪をつまらなさそうに弄んだ。

    「こんな弱い相手にどうして抵抗しなかったのです?」
    「……どうして殺した」
    「どうして? 私が殺してなかったら貴方、今頃死んでいましたよ」
    「それでも、殺す必要はなかった」
    「あいにく、我々には人間ごときにかける情けはありませんの」
    「なら、なぜ俺を助けた? あのまま俺が殺されていれば、お前らだって得をしただろうに」
    「ああ、そうそう。私、そのために来たのでした」

     少女は思い出したようにひとつ、手を叩いた。

    「兄様からの命です。勇者の死ぬ様を見届けよ、と」
    「それで、お前が来たのか。魔族がわざわざ人の姿までとって」
    「ええ、契約のためですから。魔王の末娘たる私が出るのが道理というものでしょう」

     彼女の言う契約とは、かつてジオラスが魔王を討ち果たした際に魔族との間に交わされたものである。魔王は自らを討ったジオラスに敬意を表し、ひとつだけ希望を叶えてやると言ったのだ。魔王の問いかけに、ジオラスはこう言った。
     ――今後一切、人間界への侵攻をしないこと。
     そもそも、それが旅の目的だったのだ。魔王の侵攻から人間界を守ること、それがジオラスの――何十人と散っていった勇者の願いである。魔王は死の際に瀕しているにも関わらず、大声で笑うとその契約を承諾した。

    「ただし、無期限というワケにはいかん。そうだな……勇者、お前が死ぬまでの間は人間界への侵攻はやめてやる」

     という、条件を付けて。
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    yonokisekiCR09

    DONEジャミカリ小説転生ものです。
    ようやく、1章完成出来ました。
    初めてに近しい小説で、シリーズものに挑戦したわたしは阿呆です。

    ポチ袋や反応下さった方、ありがとうございました!とてもとても励みになりました。

    *転生ものです。
    *女体化ですが、先天性ではありません。
    *原作にない地名、駅名、登場人物が出てきます。
    *キャラが崩壊しているかもしれません。
    *ところどころツッコミどころがあると思いますが、温かい目で見てやってください。
    *ラッコくんとは最後の方で再会してます。

    注意書きはこれからまた増えます。
    なんでも許せる方向けです。
    お豆腐メンタルなので、強い言葉は控えていただけると助かります。誤字・脱字の指摘はしていただけるとありがたいです。
    嫌な方は回れ右でお願い致します。

    最後の方、🐍くんがそれだけだと勘違いしてしまうような危うい?セリフを言ったりしてますが、これはわたしが彼に感じてる、そこそのセリフ言う!?
    そのセリフだけだとあれじゃない?ってところを表現したくて入れました。
    R18要素はないです。それを彷彿とさせるセリフは出てきます。

    自己解釈・想像のオンパレードです。途中で何が何だか分からなくなったので、文章が繋がってない部分もあるかもしれないです。でも、とにかく完成出来て良かったです。

    多分修正を入れて、数日後に支部に投稿する予定です。
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