とある自己愛が強い3年生の気持ちの移ろい今年の入学式から1週間が経った頃だろうか──
昼休みに妹に会いに1年の教室が並ぶ廊下を通っていると
ある教室から何かが床にぶつかる鈍い音がした。
すかさず音が鳴った教室の開いた扉から
様子を見てみると驚きの光景が広がっていた。
特に滑りやすいものが周りに無かったにも関わらず
色違いのツタージャの女子が転んでいたのだ。
彼女は自身が大丈夫である旨をクラスメートに
伝えて制服についた土埃を払った。
しばらく様子を見ていると何やらクラスメートと一緒に
学校の備品を運ぼうとしていたので慌ててその場を離れて
遠くなる小さな背中を眺めていた。
緑色の体色が見えなくなるのと同時に
カフォムさんの心に今までにない感情が込み上げてきた。
「カフォムさんより美しい……なんて……
あり得ない……この学校にカフォムさんより
美しいヒトがいるだなんて……っ」
それ以来──
あのツタージャの女の子の美しさに妬いていた。
何故カフォムさんより美しいのか。
見かける度に彼女に悟られぬように目で追っていた。
6月の初め頃にその嫉妬がどこから湧き上がるのか気づいた。
月初めの席替えで窓側の席になったので
グラウンドを見る機会が格段に上がった。
ある日、そこで体育の授業を受けていた彼女がいた。
徒競走で何度も転んでいるのにも関わらず
何度も立ち上がっていたのだ。
この時カフォムさんはハッキリと気付いた。
「上手くいかなくてもめげずに続けるあの不屈の心……
カフォムさんの嫉妬の気持ちのルーツは
キミの芯の強さだったのか……」
名前も知らなかったあの子のことは
彼女のクラスメートに教えてもらった。
日に日に増していく溢れそうなこの気持ち。
でも今まで“恋”なんてしたことがなかったから
どうしていいかも分からなくて
悶々とする毎日が続いていった。
そんな折、生徒達の間で“後夜祭の噂”を聞いた
カフォムさんは一大決心をした。
学生生活も残りわずかで後悔なく過ごしたい。
その後の結果は顧みずにこの胸に秘められた
想いのすべてをぶつけたい。
文化祭当日──
朝一番に彼女の元へ足を運んだカフォムさんは
決意を改めた声色で言葉をかけた。
「キミが小緑仁愛クン……だね?
カフォムさんの名は綺羅星カフォムだ
もしよかったら……今日の後夜祭……
一緒にどうかな……?」
彼女は目を丸くして言葉を失っている。
それもそのはずだ。
いきなり見ず知らずの3年生が声をかけてきたら
動揺するのも無理はないだろう。
「もしキミがカフォムさんの誘いに
応じてくれるならグラウンドの木の下で
待っているから来てほしいんだ
それじゃあ待っているよ」
照れ隠しで半ば逃げるように言葉を置いて
教室を後にしてからは終始鼓動の高鳴りを
感じずにはいられなかった。
後夜祭──
待ち合わせの場所に本当に彼女が来てくれたことに
驚きと戸惑いを覚えながらも軽く咳払いをして
昂る気持ちを落ち着かせた。
一呼吸置いてから想いを少しずつ口にした。
「キミがめげずに頑張っているところ……
何度も見ていたんだ
カフォムさんはそんなキミの
“心の美しさ”に魅了されてキミのことしか
見えなくなっていたんだ……
顔を合わせたばかりで驚きの連続かも
しれないけれどキミさえ良ければ
このカフォムさんと
お付き合いしてください……!」
頭をめいっぱいに下げたまま彼女の返事を待った。
熱くなって真っ赤になった顔を再び上げて
見せるのは少し躊躇いがあるなと思いながら──