ミルク色の虹「何だろ、あれ」
「ああ、あれはな……」
靄立つ白い世界の中、ぽっかりと浮かぶ空に悠仁は目を奪われた。
白味の強い優しい空色に浮かぶのは、乳白色の橋だった。淡い色合い同士だから溶けて見づらく、けれども間違いなくそれは空を伝ってどこかの地上と別のどこかの地上とを繋いでいた。
「渡りの虹だ」
「渡りの虹?」
脹相の膝に抱かれ、籐籠の中を整理していた悠仁はきょとんとすぐ上にある顔を見上げる。
ふわり、と優しくその穏やかな桜色の髪を撫でて脹相は微笑んだ。
「ああ。神様が気紛れに、けれども必要にかられて運命の人同士を繋ぐらしい」
「運命のひと……」
そのひと言を呟いたきり、悠仁は手を止めて黙り込んでしまった。
その幼い頭を撫でながら、脹相は目を細めてうっすらと黄色みがかったミルク色の虹を眺める。
脹相と悠仁は二人っきりでもう何年も、何百年もここに居た。人と交わるにはその桁外れに長い寿命と変わらぬ姿が邪魔をする。幼な子の姿をした悠仁でさえ、人の生を三度四度と繰り返しても足りないほどには生きている。
結果、霧深い山奥にひっそりと移り住むようになったのだ。けれども二人には後悔も不満もない。二人でさえあればそれでよかったのだから。
「うんめい……」
しきりに口にするそれは、悠仁にとって脹相そのものであった。
けれども二人を繋ぐそれは現れないのだろう。これだけ一緒にいても、一度も見たことがなかったから。そう思って悠仁はひっそりと俯く。
その頭を撫でる脹相ごと、乳白色の霧は立ち込める。あたり一面を覆い隠して。