兄の本分 感情を人にわかりやすく表に出すのは苦手だ。
意外と顔に出やすいとは言われるものの、同時に感情が読み取りづらいとも言われる。
“脹相は、どっちかっつーと表情よりも声の方がわかりやすい”とは、弟の言葉だ。
感情が素直に顔に出る割に、それを読み取るのはコツがいることが多いらしい。いまだ、人というものに身体も心も馴染みきっていないせいだろうか。
人になりきることは、俺にはまだ難しかった。
それでも、そこから俺を理解しようとしてくれる存在がいることは、この上ない喜びである。それが、弟であるのならば尚更のこと。
最初は探り探りの他人行儀だったのから、段々とこちらを気遣って頼ってもらえるようになった。少し素っ気ないような、いっそ邪険にするような態度でさえも、心を許してくれたようでむしろ嬉しい。
元々はお互いよくは思っていなかっただろうから、隣を許されただけでも感謝しなければならないだろう。例え、嫌われたままであっても俺が弟を守ることには変わりなかっただろうが。
それでも、近くに居られればできることも増える。
残されたたった一人の弟が、できる限り幸せに、安らかに。日々をつつがなく過ごせるようにと願う事くらい、どうか罰を与えないで欲しいと思ってしまう。
願わくば、“お兄ちゃん”と呼んで欲しいけれど、せっかく与えられた俺のための名前を愛しい弟に呼んでもらうことも悪くはない。
もしかしたら二度と、呼んで欲しい存在には呼んでもらえなかったかもしれないこの名前を。
そう思うと、過ごせる時が、もたらされる全てが、どんなに難しく尊いことだったのかとその度に気付かされる。
俺にとって大事なものははっきりとしているのだから、生きる意味を与えてくれるその存在を、この生があるかぎり第一に優先しよう。もう二度と、何もできずになくしてしまわないように。
こんなことを思える幸せにも、感謝しなければならないな。
「脹相?」
「いや、何でもない。行くか」
前を見れば、眩いほどに眩しい弟がいる。
今は暗く陰ろうとも、内に秘めた輝きは例え本人でさえも穢せない。
今はただ、その強い光が消えてしまわないように。
少しでも長くその血が赤く燃えるように。
できれば俺もその助けができるように。
そう、願って。
一番弟のためになることを考えて実行するだけだ。