wisteria/2019/1231 偶然足を運んだカフェーで、好みだ、と思った女給がいた。父親も母親も見合いを、と喧しいのもあり、丁度いいと女給を呼びつける。誘い文句に華などない。ただ、金をやるから屋敷で働け、と強引に職を変えさせた。
自分の立場を理解しているのか、彼女は怯えた表情を少し見せたものの、決して断わりはしなかった。問題が残ったとするならば、誠一郎が話しかけると、ほんの少しだけ、いい顔をされないことだ。
「ユキさん」
屋敷で働く彼女に、仕事は慣れたか、と尋ねる。屋敷で働く人間の数は多くはない。どちらかと言えば少ない方だろう。そのせいで、屋敷でこなさなければならない仕事も多く、誠一郎が帰る頃には彼女は随分と疲れ果てているようだった。
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