カッキアイいきなり上がり込んできた相方が、首を絞めてくる。その事実は認めたくなかったが、首を強く包み込む手の生ぬるさと気道を締め上げられる苦しさにそれが現実に起こっている事だと否応なしに認識させられる。
何かやったか? いや、何かやったとしてもいきなり首を絞めてくるなんてただ事ではない。なにかがおかしい。
どうして彼がそんな事をしてくるのかと考えようとはしたものの、窒息の苦しさで頭が回らない。
呼吸しようと開いた口からは呼吸のかわりに呻き声ばかりがでてくる。
このままでは死ぬ。死んでしまう。
何かないかと苦し紛れに、さっき格闘した時にあたりに散らばった食器を探る。
手に掴んだのはフォーク。だが、パンプは
不意にそれを離した。
これを振りかぶって彼の首に刺す。そんな嫌な想像をしてしまった。たとえ彼が危害を加えてきているとしても、そんな事はしたくない。
「す、スキッド。聞いてるか?」
どうにか言葉を絞り出す。スキッドの表情は変わらない。
だがふと手の力が緩んで喋る余力ができた。これを好機と彼はさらに話しかける。
「俺とお前はダチだろ? ほら、思い出せよ。昔っからバカやってただろ」
昔。幼馴染のスキッドとは本当に色々なことをやってきた。それを思い出させれば、彼の気も変わるかもしれない。
パンプは語りかける。
「学校の壁に落書きしてさ、バレて2人で怒られたっけな」
スキッドの表情がわずかに変わった気がする。
彼は話しかけるのをやめない。きっともう少しでうまく心変わりしてくれるはずだからと。
「ラップバトルで勝った帰りにさ、記念に高いハンバーガー食ったよな。それとトロフィーももらってさ……」
スキッドが首から手を離す。
そしてすぐにパンプから飛び退く。
パンプが起きると、彼は顔を抑えながら怯えたような表情でパンプを見た。
「お、俺、俺……」
「落ち着けって。ちょっと首押さえられただけだって」
落ち着かせようと優しく声をかける。
スキッドはしゃがみ込み、頭を抱えた。
「急に何が何だかわかんなくなっちまった。でも、頭ん中でずっとお前の首を絞めろって声が……」
パンプは直感でそれが洗脳電波だと気がついた。この街で新たに起こっている無差別犯罪で、間接的に人を殺める為に犯人がなかなか分からないものだ。
きっとスキッドもそれに巻き込まれたのだ。
「お前のせいじゃない。だから安心しろ。ここにいてやるから……」
パンプが言いながらスキッドの隣に座る。程なくして彼の体が小さく震え、しゃくり上げる声が聞こえ始めた。
パンプは黙って、彼の背中をそっとさすってやる事しか出来なかった。