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    fanfanfanta32

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    お互いのことがかわいくて仕方ない楽ヤマ

    そのセリフ、そっくりそのまま返すわ居酒屋で飲んだあとは、八乙女の家で二次会。これはいつの間にか暗黙のルールになっていた。コンビニでお互い好きなつまみを買い込んで、並んで八乙女のマンションまでの道を歩き、エレベーターに乗り込む。そっと盗み見た横顔はほんのりと赤い。普段の雰囲気よりずいぶんとふわふわして見える。ライバルであり、友人だった男のことを、かわいいな、と思うようになったのはいつからだろう。自分よりガタイのいい、正真正銘の男だってのに。今は恋人同士、なんていう関係なのだから驚きだ。

    「お邪魔しまーす」

    いつ来てもピカピカな玄関で靴を揃えて、洗面所で手洗いうがいをした後、肩同士をぶつけてふざけ合いながら廊下を歩く。そんなことすらも楽しくて仕方なくて、けらけら笑った。とうちゃく、とやはり普段よりふわふわした声で机の上にコンビニの袋を置いた八乙女は、ソファに座って、自分の隣をばしばしと叩いた。

    「二階堂、ここ座れよ」
    「ええ? 隣? …ま、いっか」

    文句を言いつつも、俺も酔っ払っているので素直に八乙女の隣に座った。肩が触れるか触れないか、微妙な位置。これでいいか、と言うように八乙女の顔を見ると、にか、と嬉しそうに笑うのがやっぱりかわいかった。

    ***

    二次会でも仕事の話やメンバーの話など、話題は尽きなかった。途中、乾き物ばかりじゃつまんねえだろ、と八乙女がキッチンへ向かったので、なんとなく後ろからついていく。

    「? なんだよ? さびしいの?」
    「んなわけねーだろ。何作んのか気になったんだよ」

    ふぅん、とだけ返した八乙女が手を動かし始めたのを見て、火を使うもんじゃなさそうだな、と判断した俺は、後ろから八乙女の腹に腕を回して手元を覗き込んだ。ひく、と一瞬揺れた体には、気づかないフリをする。

    「なに作ってくれるの」
    「生ハムとチーズがあったからそれ巻いて、あとはきゅうり。ツナマヨキムチ」
    「サイコー…あ、生ハム一枚ちょうだい」
    「ん、俺も食いたいから半分な」

    少しだけ振り向いた八乙女に向かって口を開く。絶妙な塩味。やっぱり生ハムってうまいよな〜、なんて言いながら肩に頭を乗せる。そうだな、と言いながら自分も生ハムをつまんだ八乙女は、そのまま手元に集中し始めた。邪魔だとは言われなかったので、そのまま見ていることにしたが、八乙女の体温と、微妙な振動がやけに眠気を誘ってくる。うとうとしていると、「おい、寝るな。全部俺が食っちまうぞ」なんて肩を揺らされる。「やだ〜…俺のおつまみ…」と返した声はふにゃふにゃで、八乙女はおかしそうに声を上げて笑った。

    ***

    買ってきたつまみも、八乙女が作ったつまみもなくなって、そろそろ水飲んでおけよ、と目の前に出されたコップには手を出さず、机の上に伏せていたスマホを手に取る。ディスプレイに表示された数字の羅列をぼんやりと目で追う。まだ電車は動いている時間だった。
    水に手をつけない俺を見て、八乙女が途端に心配そうな顔になる。見かけによらず、表情がくるくると変わる。そんなところも、かわいいと思っちまう。ああ、すきだな。酒のおかげで、普段よりも気持ちのコントロールができなくなっているのを自覚した。

    「どうした? 気分悪くなったか?」
    「…ない」
    「あ?」
    「かえりたくない」

    やおとめ、とめて。

    思ったまま、口にした。付き合ってから、泊めろと言ったのは初めてだった。友人だった頃は、もっと気楽に言えていたはずなのに。
    それほど大きくない声だったのに、やけに響いた気がする。八乙女は何も言わない。時間にして数十秒。たったそれだけなのに、なんだかとてつもなく居た堪れなくなって、コップを掴んで一気に水を飲み干した。コップを置いた時の、ごん、という鈍い音が俺の落ち着きのなさを表していて、さらに恥ずかしい。

    「わり、酔ってた。急に困るよな。俺、帰…」
    「二階堂」

    遮るように名前を呼ばれた瞬間、ぐっと部屋の温度が上がった、気がした。立ちあがろうとした俺を引き止めるように掴まれた手首がじりじりと痛い。だけど、それを気にする余裕も、指摘する余裕も俺たちにはなかった。もう一度、二階堂、と呼ばれる。その声には、先ほどまでの柔らかさはない。どろりとした甘さを含んだ、男の声だった。かわいいところばかり見せてきたくせに、ここでそんな顔をするのはずりぃだろ、と白旗を上げたい気分だ。いや、もうすでに上げているようなものだけど。

    「やおと、んぅ」

    名前を呼ぼうとしたら、俺の声もひどく甘くて、恥ずかしさを感じる前にソファに戻され、噛み付く勢いで口を塞がれた。ぐぐ、とのしかかられるのにどきどきする。もっと余裕をなくしてしまえ、と自ら口を開いて誘い込んで舌先を吸えば、咎めるように甘く噛まれて、負けじと俺もやり返して。服の裾から無遠慮に入り込んできた熱い手のひらが腹筋を撫でるのに対抗して、思ったより厚い背中を撫で回してやる。綺麗にできた、背中の溝を指先で辿れば、へそに指を突っ込まれてゾクゾクした。
    夢中になってお互いの唇を擦り付けあって、離れる頃には八乙女は熱に浮かされたような、とろりと蕩けた顔になっていた。それは多分、俺も同じ。八乙女は、はあ、と大きく息を吐いて俺の胸に額を押し付けた。ゔー、と唸っているのがおかしくて笑うと、むす、と唇を尖らせる。ぐりぐりと擦り付けてくるから、くすぐったくてさらに笑った。

    「…二階堂、今日、ずっとかわいい。ずりィ。もう帰したくなくなった」

    あんなキスしておいて、一言目がそれかよ。やっぱりお前さん、かわいくてしかたないわ。
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