ぜんぶあいつのせいにしてぶるぶるぶる、と震え始めたスマートフォンに目をやると、恋人の名前が表示されていた。時刻は22時45分。ラビチャじゃなくて電話なんて珍しいな、などと思いながら、読んでいた本を閉じ、指先で画面を撫でる。
「もしもし?」
「あ、にかいどぉ、出てくれた」
押し当てた薄い板から聞こえてきた声は、ずいぶんと丸みを帯びてふにゃふにゃしている。またも俺は、珍しいな、と思った。だって八乙女、明らかに酔ってる。ここまでゆるゆるになるまで飲んでいるのは記憶にないから、結構飲んだのかもしれない。へへ、と笑う声に、電話越しでも嬉しそうにしているのが伝わってきて、つい頬が緩む。俺が電話に出ただけでこいつ、こんなに嬉しそうにしちゃうんだぜ、というちょっとした優越感。
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