かぜのひ その日、坂上古書店入口のガラス戸には、荒っぽい筆致で「本日閉店」と殴り書きされた紙が貼られていた。店内の照明はことごとく消され、常々響いている姉弟の会話もない。定休日を把握している常連をも拒絶する暗闇が本棚々々を包んでいる。もっとも、閉店の知らせが無くても、今日は客など来なかったであろう。台風が間近に来ている街の天候は荒れに荒れていた。店主と店員、もとい姉弟は同じ部屋で、それぞれの布団に寝ながら家に叩きつける暴風を聞いていた。時折咳やくしゃみの音が自然の猛威と呼応するように部屋に響いた。
「……あいつ、もうすぐ来るって」
携帯を眺めていた弟が枯れた声で言う。
「そう……よかった……」
姉が安堵し終わらないうちに、裏口の鍵が開く音がした。早歩きの軽い足音が十数回、廊下と階段を通り近付いてきて、ついに襖がゆっくり開かれた。
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