アンドロイドに人間のような体温はない、故にこれは外気に触れた結果だ。けれど、確かにそこには熱があって、温かいと感じる。プログラムの異常による錯覚、なのだろうか。冷静に判断するように告げる脳内と、溺れてしまいたい欲望がぐるぐると、行ったり来たりしていた。それが居たたまれずに、サイモンはいつも、逃げ出したくなってしまう。マーカスの熱は、自分には熱すぎる。このアイスのように、溶けてしまいそうだ。けれど、その熱に捕らわれた自分は、どうしてもその場から離れることはできなかった。いつも、いつでも。今も、そう。


「サイモン」

力強くも優しい声が、音声プロセッサを刺激する。
思わず目を伏せると、マーカスは追いかけるように、溶けて流れた液体を舐め取った。

空に光るはすべて星 111〜120240806
照れ隠しの仕草

そっちは崖だ！……危ないな、あんまりふらふらするんじゃない。まだ体調戻ってないのか？麓までとりあえず俺の腕に掴まっ…顔が赤いぞ。もしかして熱があるのか？ちょっと見せてみろ。…何だ？触るな？触らなきゃ熱が測れないじゃないか。いいからこっちを向け。おでこを出し…おい！急に走り出すな！

あんたは感情が顔に出ないって言われているけど、そんなこと無いって俺は知ってる。俺がゲートをくぐって姿を表した途端、口元が微かにふわりとゆるむのを見るのが大好きだ。逢えて嬉しいのは俺だけじゃないんだな、って安心す…痛ててて！図星だったからって、そんなにわしわし撫でなくてもいいだろ！


240807〜10