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    黄金⭐︎まくわうり

    過去作品置き場

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    POIPOI 42

    History4 永幸CP
    台湾ワンドロ お題・殺し文句

    殺し文句 「愛してる」
     譫言のように何度も囁き、汗ばんだ彼の肌に口付ける。もっちりと弾力のある肌は、触れる度に指に吸い付くようだ。堪らず、ぎゅうと彼の胸を鷲掴みにすると、ああ、と苦しげな声が聞こえた。そしてまた耳元で、愛してる、と囁くと、彼はうっすらと瞼を上げ、潤んだ瞳で、僕も、と答えてくれる。ヨンジエはこの瞬間が堪らなく好きだ。それと同時に、シンスーが愛しくて胸が苦しくなる。そしてその気持ちをどう表現して良いのか分からず、闇雲に彼を穿つのだ。シンスーが好きで好きで堪らない。言葉で何度告げようとも、何度激しく愛し合おうとも、この自分の、彼を愛しいと思う気持ちがちゃんと伝わっているのか、不安になってくる。ヨンジエが想いを言葉にする度、シンスーはちゃんと答えてくれるのだが、それでいても何故か不安になる。思考も身体も何もかも、シンスーと一つになれれば良いのに、とヨンジエは思う。そうすれば、どれだけ自分が彼を愛しているか、そして彼がどれだけ自分を愛しているか分かるのに。
     ヨンジエはシンスーにぴったりと身体を合わせると、シンスーの首筋に顔を埋めた。そして、ゆっくりと唇を這わせると、思い切り歯を立てる。刹那、叫びともつかない嬌声が響き、シンスーの身体が跳ねた。そしてヨンジエの身体に絡んだ四肢に力がこもる。ヨンジエは再び、彼の首筋に歯を立てた。……このままシンスーを食べてしまおうか。そうすれば、シンスーは永遠に俺のものだ。シンスーの、泣き声のような婀娜っぽい声が聞こえ、ヨンジエは我に返る。そしてきつくシンスーを抱きしめると、また、愛してるよ、と告げた。

     結局の所、シンスーに、自分がどれだけ愛しているかちゃんと伝わっているのか、と不安に思うのは、自分の語彙力が少ないことが原因なのではないか、とヨンジエは思う。好きと言う想いだけで死ねるのではないかと思う程シンスーを愛しているが、それを上手く表現する言葉が見つからない。大体よく使う言葉は、愛してる・好きだ……ぐらいのものだ。改めて考えると、本当にマンネリ化した言葉しか言ってないな……と頭を抱えそうになる。別の言葉で自分の気持ちを伝えられたら、もっと自分の愛を理解してもらえるのではないか、そうすれば自分の不安も消える様な気がする。
     そもそもヨンジエは自分の大切に思っている人間しかいらない、と言うような考えの持ち主である。特に、シンスーがいれば何も要らない……と言う考えを昔から貫いているので、同じ年頃の親しい友人、と言うものを持った経験がないし、人付き合いも上手くはない。人と話さなければ当然語彙力も上がらない訳で、かと言ってただ闇雲に文章を読んで言葉を頭の中に入れたとて、実践での使い方が分からなければ意味がない。
     ヨンジエは、天井を見上げてため息を吐いた。そして机に山積みになっている本の頂上にまた一冊を積む。積まれた本達は、売れていると評判の所謂恋愛小説である。手っ取り早く語彙を増やそうと、書店で大量に買いひたすら読んでは見たものの、どれも現実離れしていて実際に使えるものではない気がする。そんなクサいセリフ言うかよ、と白けてしまう所が、ロマンチストと言われる人種とは全く別の場所にいるヨンジエらしい。いくらこの系統の本を読んでも、所詮はファンタジーだろ、と思ってしまう時点で時間の無駄だと思ったヨンジエは、携帯を手に取ると、迷った挙句渋々メッセージを打つ。目的を達成する為なら、手段を選んでいる場合ではない。

     で? 何で俺がお前とデートしなきゃならない訳? と心底嫌そうに嫌味を言われるが、そこは我慢である。目の前に座っている男をジト目で睨み、あんたの時も協力してやったろ、と言うと、言葉に詰まったのが分かる。リーチェンはやれやれ、と観念したかのように両手を上げると、んで? 何が聞きたい? とため息混じりに言った。
     恋愛関係、と考えた時に、ヨンジエが一番先に思い浮かべたのが、リーチェンだった。リーチェンの恋愛遍歴については、シンスーから笑い話として聞いていたし、実際ムーレンに片思いしていた頃のリーチェンもよく知っている。成功率は低いとしても、自分と比べてリーチェンが恋愛上級者? であることは認めざるを得ない。そしてリーチェンはロマンチストである。きっと、自分の思いをちゃんとシンスーに伝えられるような言葉を知っているに違いない。そう考えて、リーチェンを呼び出したのだ。
    「ははぁ、ヨンジエくんは所謂殺し文句ってやつを教えて欲しい訳ね」
     少しニヤけて言うリーチェンにイラつきながらも、そんなんじゃないし、とじっとり睨むが、リーチェンはそれすら面白いようだ。可愛いとこあるじゃん! と上機嫌である。
    「だってさ、愛してる、とか好きだ以外に、グッとシンスーの心を鷲掴みにするような、もう一度恋に落ちる……ような言葉を言いたいんだろ?」
     リーチェンの解釈は正しいのだが、実際それを他人から言われると、無性に恥ずかしくなる。ヨンジエは照れ隠しをするように、コーヒーカップに口をつける。リーチェンはと言うと、勝手に一人で盛り上がり、ああでもない、こうでもない、と歯の浮くようなセリフを次々と羅列する。最早、リーチェンの言葉を聞く事しかできないヨンジエは、よくもまぁこんなにクサい言葉が出てくるものだ、と感心すると同時に、こいつは実際こんなことを言ってきたのか……と若干うんざりする。そしてやっぱり自分のガラじゃないな……と思い始めた頃、あ、とリーチェンがパチンと指を鳴らした。
    「俺ならまだしも、余りにもキザなセリフはお前には似合わないから、こう言うのはどうよ?」
     例えば、とリーチェンがバチンとウィンクをする。
    「俺、シンスーの事が好きだったけど、今は違う……好きや愛してるなんて言葉を超越するぐらい、シンスーは俺の全てになってるんだ」
     んでもって、ブチューッよ!! とリーチェンがキスをするマネをする。まだクサい気はするが、今まで聞いてきた言葉よりは全然マシである。そして、ストレートに表現するより、ちょっと捻った方が印象に残りやすいかも知れない。ただ、と我に返ったリーチェンが、人差し指をヨンジエに向ける。
    「台詞の間も当然大切になってくるけど、本当に言いたい事は最後の言葉だって事は忘れるなよ?照れたりとかしてちゃんと言わないと全部台無しだからな!」
    「……ちゃんと言えたら、シンスーはまた恋に落ちてくれるかな」
     どれだけ俺が愛してるのかって、分かってくれるかな、とボソリというヨンジエに、そりゃあもう!! とリーチェンはサムズアップをして得意げだ。しかし、リーチェンはそう言うものの、彼の恋愛成功率の低さを考えると、不安な部分が大いにあるのだが、多少キザな殺し文句を言った所で特に損をすることもないし、当初の希望通りシンスーに自分の愛の深さが伝われば御の字と言うものだ。それに、普段口数が少ないヨンジエが、甘いセリフを言うなどシンスーは予想だにしていないだろうから、意外に効果はあるのかも知れない。ヨンジエはリーチェンに礼を言うと、喫茶店を後にする。実行するのは、来週のデートのディナー時だ。それまでに脳内シミュレーションを完璧にしておかねばならない。ヨンジエは、家に帰ったらもう一回小説を読み直すか……とぼんやりと思った。

     デート当日、いつもとは違う緊張感がヨンジエを包む。リーチェンと会った後、台詞の練習と脳内シミュレーションは完璧に仕上げたつもりだ。普段よりちょっといい服を着て、シンスーの部屋へ向かう。部屋から出てきたシンスーはいつもより可愛く、愛しく見えた。ヨンジエは堪らずシンスーの指に己が指を絡めそのまま手の甲にキスをした。全てが愛しくて堪らない。シンスーは、そんなヨンジエの様子に、さあ出かけよう、柔らかく微笑んだ。
     今日のデートは主に買い物がメインだった。シンスーが行きたい店に付いて行って買い物をする。ディナーの時間が近づくにつれ、ヨンジエの緊張は段々と高まってきて、どの店に行ったか、何をシンスーと話したかなど、だんだんと曖昧になってくる。折角のシンスーとのデートなのに、これでは本末転倒ではないかと頭を振るが、緊張はやっぱりどこかに残っていて、霞掛かったようなものはいつまで経っても消える事はなかった。
     予約していたレストランに入ると、案外あっさりと緊張が解けるのが分かった。きっと何度もシミュレーションしていたからだろう。これなら大丈夫だ、とワイングラスを手に取って眺める。そしてシンスーと杯を合わせると、少しだけ口に含んだ。
     何気ない会話が途切れ、あの台詞を言う絶好のタイミングが訪れた。自分もシンスーも程よくアルコールが入っていて良い感じだ。ヨンジエは小さく息を吸うと、唇に舌で湿りをくれた。
     シンスー、俺……聞いて欲しいことがあるんだ、と静かに話し出したヨンジエの言葉に、シンスーが少し驚いたように瞬きをした。真面目な話と捉えたのだろう、少し真剣な瞳でヨンジエを見つめる。
    「お……俺、シンスーの事ずっと好きだったけど、今は違う」
     今、この間が大切だ。少し間を置くことで次の台詞の重みが違ってくる。よし、とヨンジエが口を開こうとした瞬間、何で、とシンスーが小さく呟いた。
    「今は違うって何? 僕をもう愛してないって事? 言ってる意味が分からない、ヨンジエがくれた沢山の言葉は……もう意味のないものなの?」
     そう言って呆然とヨンジエを見つめるシンスーの瞳からはぼたぼたと涙が零れ落ち、テーブルクロスを濡らす。
     ヨンジエは完全に混乱していた。こんなに早くシンスーが口を開くとは思っていなかった。台詞の間を取ったからと言ってそれは体感にして一瞬のことで、いつも冷静なシンスーがここまであの言葉に動揺して反応するとは思わなかった。慌てて、ち、違うんだ、と言うものの、次の言葉が出て来ない。なんと言えばいい? これはシンスーに愛の深さを伝える為の、ただの言葉遊びなのに。それを説明しようと思えば思うほど、言葉が詰まって行く。
    「今日のデートも何だか上の空だと思ってたけど……そう言う事だったんだね」
     涙を拭う事もせず、シンスーが席を立つ。必死に、違う、話を聞いて! と叫ぶも、シンスーは動きを止めない。
    「ごめん……今君の言葉は聞けそうにない……自分の気持ちが整理できない」
     そう言って逃げる様にして店を後にするシンスーを、ヨンジエは追いかけることが出来なかった。追い掛けたくとも、余りにもショックで足がすくんで動けなかったのだ。すくんでしまった足を引き摺る様にして店を出たヨンジエだったが、もうシンスーの姿を見つける事はできなかった。
     ヨンジエは、潰れそうに痛む心を奮い立たせ、走り出す。こんな事で、命よりも大切なシンスーを失う訳にはいかない。きっと誤解は解けるはずだ、いや、解かねばならない。でないときっと自分は死んでしまう。シンスーのいない世界になんて生きる価値はない。
     シンスー!! とありったけの声で叫び、ヨンジエは走る。自宅やリーチェンに電話をしてみたものの、シンスーはどちらの家にも戻ってはいない。きっと自分の言葉で傷ついたまま、どこかにいるに違いない。刹那、大きくバランスを崩し、ヨンジエは路面に体を打ち付けた。腕や膝を強かに打ち付け、血が滲む。思わず、ヨンジエの瞳から涙が溢れた。痛みに対してではない。最愛の人を傷付けた後悔と、自分の愚かさにだ。一生シンスーを守る、幸せにすると誓ったのに守れてないじゃないか。情けない、と呟くと痛む体を庇うことなく、再び走り出す。声が枯れようと、涙で視界が滲んで何度転ぼうとも、どんなに情けない姿になろうとも、ヨンジエはシンスーを探すことを止めなかった。
     もう深夜に近くなった頃、ヨンジエは一縷の望みを託し、高台の公園に来ていた。自分が見つけるまでシンスーを探したかったのだが、ボロボロになった体は言うことを聞いてくれない。この公園は、シンスーが自分を初めて受け入れてくれた場所だ。ここに居なかったら、と言う思いを押し殺し、かつて二人で話したベンチに向かう。すると、ぼんやりと人影が見えた。間違いない、シンスーだ。ヨンジエはベンチに近づくと、どさりと腰を下ろす。ようやく見つけたと言う安堵からか、体が全く動かない。シンスーはボロボロになったヨンジエを泣き腫らした瞳で見つめた。
    「ヨンジエ……僕は君の兄だから……一番に君の幸せを祈るよ。でもね、どれだけ僕が君を愛してたかは忘れないで欲しい。君から、愛してる、好きだよって言葉を貰う度、君の深い愛情を感じて、幸せで幸せで、君が愛しくて胸が張り裂けそうだった。どうしようもなく君を愛してたんだよ」
     君はもう僕の一部だったんだ、と腫れたシンスーの瞳から、また一筋の涙が溢れた。ヨンジエは重い腕をゆっくりと上げると、シンスーの頬に触れ彼の頭を引き寄せた。そして掠れた声で呟く。
    「好きとか愛してるって言葉を超越するぐらい、シンスーは俺の全てなんだ」
     これが言いたかったんだよ、ほんとは、と言うヨンジエに、シンスーは呆気に取られたように目を丸くする。
    「紛らわしい事言ってごめん……好きとか愛してるって言葉以外で、どれだけあなたを愛してるか伝えたかったんだ、俺もあなたの事をどうしようもないぐらい愛してるから」
     殺し文句で惚れ直して貰うつもりだった、と笑みを作った瞬間、ヨンジエの唇はシンスーの唇で塞がれる。ヨンジエの唇を喰むシンスーの唇は慈しむ様でもあり、色欲に溺れている様でもある。シンスーの口付けを受けながら、愛してる、の一言で自分の想いは全て伝わっていたんだと思うと、安堵が心に広がる。飾った言葉など必要ない。ただ自分が愛してる、と言うだけで良かったのだ。そして、シンスーも同じ気持ちでいてくれた。相手を狂おしいほど愛している。
    「愛しいヨンジエ、一生僕の側にいて」
     頼まれたって離れるものか。ヨンジエは言葉の代わりに強くシンスーを抱きしめた。

     創傷に軽い打撲・捻挫、声帯の炎症。大体見積もって全治二週間程だろうか。大丈夫だと言っているにも関わらず、絶対安静、とシンスーにキツく言われ、ヨンジエは渋々ベッドに横になっている。シンスーはと言うと、自分のせいで怪我をさせたから、と全ての世話をすると言って聞かない。とは言え、始終世話をしてくれると言うことはずっと一緒にいれると言うことで、ヨンジエにとっては願ったり叶ったりの状況ではある。傷の手当てをしているシンスーに、ねぇ、とまだ掠れた酷い声で声を掛ける。
    「俺のあの言葉で取り乱す程、俺の事好きなの?」
     手当をしていたシンスーの手が一瞬止まる。そして瞬時に頬を染めると、困った様に、そうだよ、と呟いた。
    「ヨンジエの事になると、感情が先走っちゃって正常な判断ができなくなるんだよ」
     好き過ぎて、と両手で顔を覆いながらぽそりと呟いた言葉をヨンジエは聞き逃さない。嬉しくて思わず頬が緩む。俺も大好き、とヨンジエが言うと、恥ずかしそうに瞳を潤ませながら、キスを落としてくれる。
    「今すぐ抱きたい」
     キスの合間にそう言うと、艶かしく微笑みながら、怪我が治ってからね、と劣情を抱くような声色で囁く。ヨンジエはシンスーを引き寄せると、さらに深く口付けた。そして心の奥で、果たしてこれだけで済むのだろうか、と熱の宿りつつある身体に問うのだった。
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