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    黄金⭐︎まくわうり

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    POIPOI 42

    History4 永幸CP
    台湾ワンドロ お題・強がり

    強がり 寂しくないの? と問われると、寂しいに決まってる、と瞬時に出てこようとする言葉をぐっと堪える。ここで流されてはいけない。ヨンジエはシンスーから少し視線を外すと、別に俺は大丈夫、と少し気取って言う。余裕を見せるんだ余裕を、と心の中で何度も言い聞かせるが、果たして余裕を見せられているのか甚だ怪しい。自分は大丈夫と言ったものの、視線の端にいるシンスーの表情が気になって仕方がない。
     一週間も会えないのに? と少し拗ねたように言うシンスーに、シンスーも大人なんだからそれぐらい我慢できるだろ、と視線を戻すと、少し怒ったようなそれでいて悲しそうな、複雑な表情をしたシンスーが映る。そして一度軽く唇を結ぶと、分かった、とヨンジエを見つめた。
    「ヨンジエは僕に会えなくても寂しくないって言うんだね? じゃあ僕が家にいない間、電話もメールもしなくていいよね」
     僕たち大人なんだから、と少し片眉を上げて言うシンスーの虫の居所は完全に悪い。何も言わないヨンジエに呆れてしまったのか、そのまま自室に戻ってしまった。ヨンジエはと言うと、何も言わないと言うより、言えなかったと言う方が正しい。シンスーがあからさまに機嫌が悪くなる事など殆ど無い為、どう対応していいか分からなかったと言うのが正直な所だ。そしてこの事態を引き起こしたのは、自分勝手に暴走してしまうヨンジエのいつもの悪い癖故である。シンスーの部屋のドアを見ながら、ああこれは完全に失敗した、と額を押さえるが、もう遅い。

     ヨンジエはシンスーより年下であると言う事に、日頃から多少なりとコンプレックスを持っていた。実際、シンスーより年下であるし、弟と言う立場からスタートした関係なので、年下である事は覆す事が出来ない。それは理解はしているし、仕方のないものだと思ってはいたのだが、シンスーと恋人になってからと言うもの、その小さな劣等感が日増しに大きくなっている気がする。
     実際、シンスーは何でも出来るし、いざという時も頼りになる人だ。けれど、どこか守ってあげたくなる雰囲気も持ち合わせている。そんなシンスーを守ってあげたいと思うのはヨンジエにとっては当然の事だ。だが、現状は八つも年上であるシンスーに守られている感の方が強い。それは八年の人生経験の差でもあるし、シンスーの社交的な優しさも関係しているだろう。それが、ヨンジエにとっては歯痒くもあり、コンプレックスでもあるのだ。その思いを払拭する為に思いついたのが、自分がもっと大人になればよいのでは、と言う事だった。とは言うものの、何をすれば大人になれるか、具体的な策があった訳ではない。まず身近な事柄で考えた時、シンスーに始終くっついている事は大人らしくないと思ったヨンジエは、取り敢えず「大人らしく」適度な距離感でシンスーに接してみようとした。しかし、あからまさに距離を取るのは流石に違う気がする。どう距離を取ってみようかと考えていた矢先、シンスーが一週間出張に行くと言う。これはチャンス到来!とばかりに、一週間ぐらい会えなくても平気だ、と言ったヨンジエに、シンスーが臍を曲げてしまった、と言う訳だ。
     ヨンジエの計画は一瞬にして失敗してしまった。大人の余裕を見せる筈が、最悪にも喧嘩をしてしまった。喧嘩など不本意の何物でもない。今すぐシンスーの部屋に行って謝れば、シンスーは許してくれるだろう。ただ、ヨンジエの中にはまだ、大人になりたい、と言う拗れた感情が残っている。ここで謝ってしまっては、大人になれない自分に逆戻りだ。そう考えたヨンジエは、シンスーの部屋のドアから視線を外すと、若干肩を落としながら自室に戻る。
     客観的に見ると、ただの強がりなだけなのだが、当のヨンジエはその事には気付いていない。

     何やってるんだろう俺は、とヨンジエは綺麗にベッドメイキングされたベッドに身を投げる。
     あれから、シンスーはヨンジエと会う事もせず、出張に行ってしまった。どちらかと言うと意地になってしまったヨンジエは、シンスーから何かアクションがあるまで、自分からは動かないでおこうと心に決めていた。とは言え、一日……二日と経つにつれ、会えない寂しさは募っていく。ヨンジエお気に入りの写真(盗撮含む)を冊子にした、自作のシンスー写真集を眺めても、シンスーとの砂を吐くような甘いチャットのやり取りを、時間が溶けるぐらい読み直しても、ヨンジエの寂しさは埋まる事はなかった。
     四日目、遂に我慢の限界が来た。ヨンジエはリーチェンにシンスーの出張先を聞くと、すぐさま出掛ける支度をする。大学の講義もあるのだが、PCさえあればオンラインで何とかなるだろう。家族には、友人の家で四日ほど一緒に課題をやる、と言って出て来たが、どこまで嘘がばれていないかは謎である。
     結局、シンスーに一週間会わないなんて、どだい無理な話だった。とは言え、今のタイミングでシンスーに会いに行くのも気まずいヨンジエは、シンスーの出張先のビルが見えるホテルの一室を借りる事にした。この部屋だとビルの玄関の様子を見る事もできるし、シンスーの出勤・帰宅時を見張っていれば、彼の姿を見る事ができるだろう。この数年で、ストーキングのノウハウを大量に蓄積したヨンジエにとって、この程度の事は朝飯前だ。だが、まさか恋人になって、逃げも隠れもしなくて良くなったと言うのに、また昔のようにストーカー紛いの事をするとは。ヨンジエのため息も尤もである。
     気を取り直し、双眼鏡で窓の外を覗くと、世間は昼時のようでビルから人がぼちぼちと出ていく所だった。シンスーを見逃すまいと目を凝らして見ていると、見慣れた細身のスーツに身を包んだシンスーの姿があった。思わず、シンスー!! と叫んだものの、彼に届く訳もなく、シンスーは知り合いと思しき男性と連れ立って行ってしまう。双眼鏡越しだが、久々に生のシンスーに会えて、ヨンジエは思わず視界が滲むのが分かった。もう大人になるなんて関係ない。今すぐ駆け寄って抱きしめたい衝動をグッと堪え、ヨンジエは近くにあった枕を抱きしめた。今日の夜にでも、ビルの玄関で待ち伏せして謝ってしまおうか。そんな考えがよぎるが、頭を振ってその考えを打ち消す。シンスーに会う絶好のタイミングはきっと最終日の夜だ。そもそも自分が会いたいのだが、シンスーが寂しがっているだろうから会いに来てあげたという体で、よく我慢したね、とキスをしてあげるなんて最高じゃないのか……? シンスーが嬉しさで感極まった様な顔で自分を見つめ、キスをねだってくる所まで想像できたヨンジエは、思わず前屈みになってしまう。この続きは三日後の夜に取っておこう。きっと色々な意味で最高の夜になるに違いない。そう思うと、失敗してシンスーと喧嘩した事自体、正解だったのではないかとすら思えてくる。いつになくポジティブなヨンジエは小さく拳を握ると、静かに双眼鏡を構え直した。
     夕方、部屋の窓に張り付ていたヨンジエは、帰宅するのであろうシンスーを無事見つける事ができた。今日もお仕事お疲れ様、と双眼鏡越しに声をかけ、シンスーの愛らしい顔にほっこりしていると、シンスーが誰かに話しかけている様子が見えた。シンスーと同じ年頃の男性だ。どこかで見たことがあるな、と思えば、昼にシンスーと一緒にいた男性だと気づく。互いの表情を見れば、結構親しい間柄のようだ。シンスーが微笑む様子はとても柔らかい。今日たまたま昼と夜に一緒になっただけの、仲の良い仕事仲間なのだろうが、あのシンスーの表情を見てしまうと、一体彼と何を喋っているのかが物凄く気になる。シンスーに限って浮気などないと断言していいが、念のため明日はビル玄関まで近づき、シンスーの動向をチェックすることにしよう。シンスーに浮気の意思がなくとも、魅力的すぎるシンスーに相手側が惑わされてしまうことは十二分にあり得る話だ。シンスーを魔の手から守る為にも、若干のリスクは負わねばなるまい。
     次の日、シンスーが出社したのを確認してから、ヨンジエはシンスーの勤務しているビルの玄関まで近づく。帽子とマスクを装着し、変装はバッチリだ。後は、周囲に溶け込むように身を隠すだけだ。そうこうしているうちに昼食の時間になり、チラホラとビルから出る人が増えてくる。暫くしてシンスーのむっちりとした姿が見えた。今日のスーツも、体の線を強調するような細身のものである。あの熟れた桃の様なお尻を鷲掴みしたいと言う衝動を抑え、人の流れに乗る様な形でシンスーに近づく。そして悪い予想は的中していた。昨日一緒だった男性と今日も一緒である。気付かれない様にそっと近づき、会話を盗み聞くと、どうやら男性の方がシンスーを今晩の食事に誘っているようだ。シンスーも嬉しそうに頷いている。そして他に気になったのが、ボディタッチだ。何気なくシンスーの体に触れている男の手が物凄く気に入らない。仕事関係の人間で、しかも他社の人間とここまで仲が良いと言うことがあるのだろうか。社会人経験のないヨンジエには判断がつかないが、野生の勘とも言うべきものが、警鐘を鳴らしている。これは、夜も尾行せざるを得ないだろう。ヨンジエは帽子を目深に被り直すと、そっとシンスーから離れた。
     男とシンスーが帰社してビルから出てくるまで、ヨンジエは気が気ではない。考えれば考える程、シンスーと男の関係が気になる。あそこまで仲が良いとなると、ただの仕事仲間ではなく、実は元彼……と言う線もあり得なくはない。そんな事を考えていると次から次へと在りもしない妄想が膨らみ、意味のない焦りがヨンジエを苛む。一時間がまるで一日のように長く感じる。時間潰しにシンスーの動画を見ていた携帯はほぼ電源が無くなり、苛立ちを抑える為に飲んでいたコーヒの缶は地面に山積みになっている。
     漸く日が落ち始めた頃、楽しそうに談笑しながらシンスーと男が出てきた。ヨンジエは長時間座った姿勢でいた体をほぐす様に立ち上がると、二人の後を追う。今日はなんだか、男とシンスーの距離が近い気がする。もっと離れろ……と念を送るヨンジエを無視するかのように、耳元で囁き合っては楽しそうに笑っている。そして不意に男の腕がシンスーの腰に回った。もう我慢の限界だった。頭の中で何かが弾ける音がして、ヨンジエは二人に駆け寄り、男の腕を掴み上げていた。
    「ちょっとあんた、俺のシンスーに何してんの」
     突然現れたヨンジエに、シンスーも男も目を丸くしている。そして状況が飲み込めたのか、シンスーがヨンジエ……と呟いた。
    「まさかとは思ったけど、やっぱり君だったのか……ビルの下に変な若者が何時間も座ってるって話を聞いて、嫌な予感はしてたけど」
     深い溜息を吐いてシンスーが額に手をやる。まさかバレていたとは微塵も思っていなかったヨンジエは、一瞬動揺するが本題はそこではない。気を取り直してキッと男を睨む。
    「あんた、シンスーとどう言う関係? シンスーの恋人は俺だから、いくらモーションかけても無駄だから」
     嫉妬の炎を隠そうともしないヨンジエの様子に、ああ、君あの弟くんか、と男がへらりと笑った。
    「俺はシンスーの高校時代からの友達だよ、小さかった君にも会った事あるし、君らの関係も聞いてる」
     そう言ってヨンジエの手を解くと、諸々悟ったのだろう、ディナーはまた今度な、とシンスーに向けて手を上げ、行ってしまった。取り残されたヨンジエは、暫く彼の後ろ姿を眺めていたが、シンスーの、ヨンジエ、と言う少しトーンの低い声で我にかえる。
    「……僕に会いたいなら、何で堂々と会いに来ないの? あんな事で僕がずっと怒ってるとでも?」
     大人なんだから、と蒸し返す様に言うシンスーにヨンジエはグウの音も出ない。だって……とシンスーから視線を外し、拗ねるように唇を尖らせた。
    「俺が……会わなくても平気だって言ったんだし、そう言った手前、会いに行ったら我慢もできない子供だって思われる」
     ヨンジエはそう言うと、今度はシンスーの瞳を見つめた。
    「俺は大人になりたいんだ! シンスーに守られるばっかじゃなく、俺もあなたを守りたいし、いっぱい甘えて欲しい」
     大人の男になりたい、と唇を噛むヨンジエに、シンスーは柔らかく微笑むと、彼の頬を両手で優しく挟んだ。
    「我慢することが大人なの? して欲しい事も言わず、強がる事が君の言う大人って事?」
     だったら大人になんかならなくていい、とシンスーがそっと口付けた。
    「僕は君が思ってる以上に君の事をすごく頼りにしてるし、子供だなんて思ったことはない、君と僕はもう既に対等なんだよ」
     ね? と諭すように微笑むシンスーに、今まで抑えてきた感情が溢れ出す。
    「シンスー、一週間会えないなんて耐えられなかった! あなたに会えない間、寂しくて死にそうだった」
     そう言ってシンスーを力の限り抱きしめる。ずっとこうしたかった。強がって変な意地なんて張るんじゃなかった。シンスーはいつでもこうやって、自分を受けていれてくれるのに。
     大好きだよ、とシンスーの甘い声が耳元で聞こえ、ぬるりと湿った感触がヨンジエの耳たぶを包んだ。一気に体温が上がるのがわかる。シンスーの熱い吐息が耳、そして首筋にかかり、ヨンジエは薄く震えた。
    「……今晩は離れないで、ずっと一緒にいて欲しいな」
     囁くような歌うような、心地の良いそれでいて艶かしい声が耳の奥に優しく響く。
    「離せって言っても離さない」
     明日仕事にならないかもよ、とヨンジエが言うと、いいよ、と、さながら堕天使の如くシンスーは妖艶に微笑むのだった。
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