Knot plan B「多少食らってもいいから一撃で倒すワ。」
「いや、違うんスよ場地さん。アイツの溶液ちょっとでもかかったら溶けてオシマイっす。」
ザァァ、とビルの屋上に向かって吹き上げる風がジャケットの裾をハタハタと翻す。
俺の話を聞いているのかいないのか…おそらく後者の場地さんは、既に屋上の縁に片足をかけていて地面につけた左足がジリっと跳躍の為の音を立てる。
ヤベェ、これ止めねぇと俺が後から怒られるやつだ。と口を開いた刹那、
ガチりと場地さんの長刀が鳴って鯉口が切られた。コンクリートが僅かな砂埃をあげて、場地さんが数メートル離れた異形の巨体へと飛ぶ。スラリとした痩躯に似合のそれが一閃に瞬いて、敵を真横からかっ捌いた。
ビチャリと音を立てて真っ二つに割られた異形が溶液を噴き出しながら絶叫してのたうちまわる。
前もってビルの半ばから上の空間を切り取っているので溶液が地上に落ちて被害者が出ることもないだろう。
「どーよ千冬。こんなの一撃で「場地さんうしろ!!」」
消滅を待っていたハズの真っ二つに割れた体がズルリと変体して、今度は二対の異形として立ち上がった。風に独特の腐臭が混じって俺の所まで届き、その不快さに顔を顰める。
「おいおいこんなの参番隊からの報告にねーぞ、」
「報告書には溶液についてと出現場所くらいしかなかったはずっスね…」
忌々しげに舌打ちをした場地さんが俺の立つ屋上へと跳びさする。まずい、空間を切り取ったとは言え、二つになった異形からはボタボタと溶液が流れ落ちていてジュワリと境界線が焼かれる音がする。長引けば地上の人間もタダじゃすまないだろう。
「千冬ぅ、空間断絶ってあとどんくらい持つ?」
「…あと15分が限界っスね。場地さん、一旦引きましょう。境界を引き直して応援を呼びます。」
「あン?そんなのいらねーよ。10分…いや、5分で終わらせてやらァ。」
長刀の鞘を口に咥えた場地さんが風ではためいていた髪を高く結い上げ、敵前で引くわけねーだろ、と笑う。
あぁ、この人のこういう所が堪らなく好きなんだ。
「この間、ペヤング買ったらオマケでワカメスープ付いてきたんですよ。」
「良いなそれ、遅かった方がお湯沸かす係りな?」
「それ俺不利じゃないスか?」
腕を交差させて、帯刀ベルトから脇差しに近い長さの双刀を引き抜く。
いつでも、あなたと敵の間に割り入れる様に、俺が身代わりになれる様に、機動力の高いこの武器を選んだ。
「いくぞ千冬!」
「ウス!!」
そうして二人、ギラつく夜景に飛び込む様にアスファルトを蹴り叩いた。