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    ひいろ

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    ひいろ

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    こぼれ話

    #桜待ち
    waitingForCherryBlossoms

    「……はあ」
     涼太は嘆息しながら、自分の体に巻き付き心配そうにこちらを見つめる二対の瞳を見つめ返す。いつもは愛らしい姿だけれど、今はほんの少しだけ憎らしい。
    「何であんなに懐いてるんだよ」
     つん、と指先で突いてやる。涼太は咎めたつもりだけれど、サクラもニワも遊んでもらっていると思っているのか、楽しそうに体を揺らしていた。可愛い。だからこそ行き場のない思いが胸の中を渦巻いていく。
     顔なじみの妖、雪女の里津花。彼が連れてきた、鬼の宗司。
     彼の姿を初めて目にした時、感じたのは恐怖だった。
     彼から感じる、仄暗いもの。目にした者を深い闇の中に引きずり込むような、そんな恐ろしさを感じた。それに似た恐怖を知っていた涼太は、体が指先から凍っていくのを感じた。怖い。逃げたい。だけど自分の眷属であるサクラとニワが彼の傍にいることに気づき、涼太の中で恐怖が怒りへと変わった。彼に立ち向かった。結局全ては涼太の勘違いで、目の前にいたのは涼太と変わらない。里津花の言葉一つに翻弄されるような、自分と変わらない普通の妖だった。
     宗司は最初恐怖を感じたのが嘘のように優しい鬼だった。揶揄い交じりの発言に腹が立つこともあったが、彼は始終気遣いを見せた。常に相手を見て、気遣い、距離を測る。その距離が心地よく、初めて会う者が苦手な涼太でも安心することが出来たのだ。腹立たしいから言ってなどやらないけれど。
     だけど彼に心地の良さを感じたのは、そういった気遣いではない。そんな温かなものではない。
     似ていると、思った。
     彼と自分の、寂しさが。
     自身の体を抱きしめる。涼太も、そして恐らく宗司も。たくさんの優しさに包まれている。愛されている。それを知っていながら、どうしようもなく寂しさを感じてしまう。
     涼太は、理由があって自らみんなを遠ざけた。だから自身の寂しさの原因が何か、自分自身が一番よく分かっている。だけど、宗司は。彼は。
     感じた恐怖の奥。暗い暗い闇の中。そんな闇の中に、彼は立っていた。気づかないほど小さな寂しさを纏って。
     彼は、気づいているのだろうか。きっと気づいていないだろう。涼太だって気づいたのは偶然だった。気づいて、知って、ほんの少しだけ心を許した。自分と似ている彼と、もう少しだけ話がしたいと、一緒にいたいと、そう思ってしまった。
     けれど彼が来たのは、里津花に言われたから。言われたから来た、ただそれだけ。だから、きっと彼はもう来ない。もう二度と、来ることはない。
    「……また、戻るだけだ」
     いつもの日常に。だから、寂しくなんてない。だから今日初めて会っただけの妖が来なくなったところで、何とも思わない。
    「……大丈夫」
     ──寂しさには、とっくに慣れた。だから、大丈夫。
     サクラとニワ。自分には、この子たちがいてくれる。だから、大丈夫だ。そうして心配そうに自分を覗き込むサクラとニワに、涼太は静かに笑いかけた。


     そんな考えとは裏腹に、宗司が神社に訪れる涼太の泉に立ち寄るようになるなんて、この時の涼太は知る由もなかった。
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