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    東 @azm_hgs

    落書きと生存報告用にほいほい投げ込みます。デッサンや形を描きながら直す悪癖を積極的に晒していく予感

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    東 @azm_hgs

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    主にハイラル国外を放浪しているトワさんと時さんの旅の記録。という体のオムニバス小話です。
    時リン→トキ(ムジュラ、古の勇者後)
    トワリン→トワ(トワプリED後)

    ハイラル国外なので二人以外の登場人物は全員モブ、国外の情勢など諸々全て捏造です。

    ※CPなどは想定していませんが、普段はトワ時に傾倒している人が書いています。
    ※勇者達の距離感が近いです。

    旅する師弟「おっちゃん、そこをもうひと声!」

    青く晴れ渡った空にきん、と大きな声が響き渡る。その声を聞きながらトキは視線を上に向けた。
    雲の下を飛ぶ鳥の影が3つ、城壁を越えてどこかに飛び立っていく。龍のうろこのような細かな雲が群れをなして連なる空は、もうすっかりこの大陸が秋になったことを示していた。あの鳥たちは渡り鳥かな。国境も検問も関係なく飛び立つ様は伸び伸びとしていて少し羨ましい。
    まあ、自分たちだって一つ所に留まらず諸国を放浪する身なのだけれど。人の身というのは如何せん制約が多いのだ。

    「ちぇ、そうかよ。……まあ似たようなもの向こうでも見つけたし、そこのおばちゃんの方が優しそうだ。俺、女の人にけっこうモテるんだ」

    高い城壁に囲まれた中には、壁の外が覗けてしまうのではないかと思える程に高い建造物が立ち並ぶ。トキ達の生まれ故郷でこれより高い建物なんてハイラル城くらいじゃないだろうか。見上げた首が痛くなってくる。

    大ぶりの煉瓦で作られたその建物達には小さな窓がいくつもついていて、その一つ一つに個性があった。洗濯物が干されているところ、植木鉢の花が飾られているところ、しっかりと閉められているところ……。全ての窓の中に異なる住人がいるのだろう。あんなに高いところに住んで、寝ぼけて下に落ちてしまう人はいないのだろうか。

    「分かってるって。だからおっちゃんにお願いしてるんだろ?俺たち、どうしても冬になる前にあの山を越えたいんだ。でも、そろそろ路銀も尽きそうで……」

    視線を城壁の建物から下に落とす。目の前に広がるのは大きなマーケットだ。
    石畳の敷き詰められたその道は、本来なら大の大人が5人は横に並んで両手を広げて立つのに十分な広さがあっただろう。けれど今はこの道の左右にはありとあらゆる隙間を埋めるように多種多様な露天が立ち並んでいる。さらにそこに人が押しかけるものだから、もはやまっすぐ歩くのだって困難だ。
    道を窮屈そうに歩く人々を見ながら肩に下げた荷物の位置を調整すれば、持たされた二人分の剣ががちゃりと小さな音を立てる。けれど、その音は市場の喧騒に紛れてトキの耳にすら届かない。

    はあ、と息を吐いて視線を左に向けた。その露天の前にいるのは見慣れた色の濃い金髪と、そこから覗く長い耳。肩から腰辺りまではトキが今着ているものと同じ薄手の外套に覆われている。
    外套から伸びたブーツに包まれた足の踵が僅かに上がっていて、彼の必死な様子が伺えた。

    「トワ、もう良いよ」

    声をかければ、目の前の彼が振り返る。青い、力強く揺れる炎の様な瞳がこちらを射抜いた。
    髪の色も目の色も似ているトワとトキは見た目の年齢も同じ十代の半ば頃で、さらに同じハイリア人なものだから二人で並んでいると兄弟に間違われることが良くあった。まあ、血の繋がりという意味では当たらずといえども遠からずだ。
    そんな彼に小さく笑って、彼の左腕を同じ方の手で掴む。一瞬だけ、彼が必死に説得していた相手へ視線を向けた。目を伏せがちにして見た露天の店主は、トキ達の立つ石畳より一段高い台に広げられた品物の中、埋もれるようにして座っている。
    売られているのは潤沢な布とそれで作られた装束等だ。厚みがあり、複雑な紋様が鮮やかに織り込まれている布地が豊かな波を作る、彼自慢の品々。その中心にいる店主は鼻筋の通った精悍な顔立ちだが商人としてはまだ若い。恐らく彼の父親か誰かから商売を継いだばかりだろう。そんなことを考えながら、トキはトワに目線を合わせ、口を開いた。

    「俺が我儘だったんだ。冬までにあの国に行きたい。だなんて」
    「え、でも、先代」
    「諦めるよ。……妹に会える最期のチャンスだったかもしれないけれど。俺たちには金も、運も無かったんだ」
    「ちょ、何言って」
    「必死に集めた金で買ったこの薬。あいつに渡してやりたかったな。そうしたら、春に咲く花の中で笑うあいつが見れたかもしれない」
    「っ、」

    そこまで言ってふふ、と息を吐きながら笑った。意識して眉を下げて、首の角度は前に立つトワの腰の位置。目線の位置はその更に下。ついでに、旅の同行者の腕を掴んだ手には余計なことを言わないように全身全霊の力を込める。
    トワの痛みで歪んだ顔と詰められた息は、会話の一部始終を見せられた店主にはどう写っただろうか。




    *
    夕日が差し込む宿屋の一室、ベッドの上に荷物を広げる。夏の日差しを遮るための薄い外套を鞄にしまい、秋冬の凍てつく風から身を守る為の分厚い外套を広げた。先程の店主ご自慢の一品は非常にしっかりとした作りの毛織物で、これでしばらくは野宿であっても暖かく過ごせるだろう。本格的に冬になる頃には今度は中の服の方を調整しなければいけないが。

    「話の分かる店主で良かったな」
    「……」
    「トーワ、お前が出来る限り安く買いたいって言ったんだろ?」
    「…………」

    声を掛けた相手からは返事がない。振り向けば狭い部屋の中、扉の前に立ったまま動かないトワが仏頂面をしてこちらを睨み付けている。その視線を真正面から受けて、トキは苦笑した。

    「トワ、いい加減慣れろって」
    「……やっぱり良くないと思うんです。先代の"それ"」
    「綺麗事だけじゃ生きていけないって言ってるだろ?」

    多分、相手も嘘だって気づいてるさ。地元の人にはもっと安く売っただろうしな。
    声を抑えて言ったその台詞は、市場の喧騒から離れた路地裏に面しているこの部屋にはよく響く。トワは夕陽で濃くなった影の中で顔を顰めた。

    「なんだそれ。なんで、お互い誠実に向き合えないんだ」
    「……なんでだろうね」

    鞄の中身を整理しながら、外の世界に足を踏み出したばかりの頃を思い出す。
    今のトワよりも若い歳でハイラルを出奔した、そこは有象無象に溢れる場所だった。たくさん騙されて、生きる為に取り繕うことを覚えて、そのうちに本音以外で口が良く回るようになった。お面をわざわざ付けずとも、仮面を被ることに慣れていく自分がそこにいる。それが、この裏も表も何層にも存在する世界で身を守る術だった。

    「みんながトワみたいな人だったら、世界はもっとうまくいっているのかもな」

    なんとなしにそう言いながら振り向くと、彼はぽかんと口を開けてこちらを見ていた。眉間の皺が無くなっている。意外な表情だ。

    「どうした?」
    「似たようなことを、以前別の人にも言われました」
    「へえ、偶然だ」
    「その時も、……今も、俺にはその意味は分かりかねます」

    見つめるトワの瞳がゆらりと揺れて水の膜ができた。そんな表情を彼にさせる相手は誰か、自ずと数が絞られる。その様子をトキが黙って見つめていれば、俯いてぐ、と強く目を瞑った彼は勢い良く顔を上げた。
    それだけでトワは、もうすっかりといつも通りの強い意志と好奇心を持つ雰囲気を取り戻している。

    「分からないから、分かる為に、俺は貴方と旅をしてるのかもしれません」

    両手で拳を作り自分にも言い聞かせるようにそう言ったトワを見て、トキは顔を綻ばせ手にした外套の一つをトワに向かって放り投げた。
    慌てて伸ばされた腕に、重量のある外套が落ちていく。その様子を見守ってから、口を開いた。

    「なら、しっかり付いてこいよ。明日、朝一で出発だ」
    「はい!」

    大きな返事を受け取ってトキは明日の予定を頭の中で組み立てる。
    次の目的地は山を越えた先、西の大地だ。

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