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     藍湛は俺と違って新しいものにあまり興味を示さない。その代わり、というのか何なのか。物持ちがカナリ良い。携帯だって一般的な寿命を超えてもまだずっと使っている。新社会人になるのと同時に一緒に買い換えたお揃いの携帯も、俺は一度機種変したというのに、藍湛は換えずにそのまま使っている。
     それでも流石にガタがきはじめたのか。藍湛は俺の家に来た時に携帯を差し向けてこう云った。
    「最近、キチンと充電がされないのはどうしてだろうか」
     寝る前ケーブルに繋いで充電をしても、朝ケーブルを抜くと一気に六十パーセントまで下がってしまう、と。困った時に見せる顰めっ面に、そりゃあそうだと肩を揺らす。
    「もう本体が寿命なんだって」
     俺の倍近くの年数使ってるんだから寿命もくるって。寧ろ今迄よく使えてたな。
     もう世間には中古でしか出回ってない機種のディスプレイをトントンと叩いてやる。
    「俺もそろそろ新機種に買い換えたいし、明後日は休みだから、明日会社帰りにでも早速換えに行くか?」
     残業にならなければ、と悪戯声で付け足したら、藍湛はこくんと頷いた。
     どうせ新しくするんだから最新機種が良い。マイナーチェンジする度にどんどん便利になってるから、前の携帯より出来ることがうんと増えてる。機能性に無頓着な藍湛にそう説明しながら、店頭で最新機種を触らせる。
    「な? 便利そうだろ?」
    「そうなのだろうが、普段はインターネットが使えて、あとは魏嬰に連絡が取れればどれでも問題はない」
    「藍湛には豚に真珠、猫に小判……ってやつか。いっそ子供用携帯か年配用携帯の方が良いのか?」
     いやしかしそれだと逆に操作方法を訊かれた時すぐ教えられない気もする。効率性を考えたら同じ機種を買うのがベストだろう。
    「取り敢えず、これ。これの色違いにしよう」
     藍湛は容量少なくて良いよな。俺は容量が多い方。
     一人で頷いて、俺は近くに待機していた店員を呼び、二人分の携帯の購入手続きを進めてもらった。
     軽く夕飯を食べたその足で藍湛の家に寄り、バックアップの復元までしてやる。これで今まで通りに使えるぞと新しい携帯を手渡せば、藍湛は何度かディスプレイを指でなぞりながら呟いた。
    「見慣れないアイコンが多い」
    「そりゃ前のに比べたら機能がずっと充実してるからなー」
     暇な時にでも色々触ってみると良いよ。そう云い自分もネットワークを介してデータの復元をし終えると、俺はソファから立ち上がった。
    「ん〜、帰るのかったる」
    「……帰るのか?」
     藍湛の台詞に小首を傾げる。
    「なに、泊まってって良いのか?」
    「明日は休みだから、てっきりそのつもりで居るのかと」
     寧ろ帰るつもりがあったのか、と云わんばかりの口調に苦笑する。
    「だって、藍湛週明けから中期出張だろ? 忙しいかと思って」
    「出張だからこそ、行く前に魏嬰を補充しておきたいのだが」
     視線でソファに座らせられて、俺は藍湛のネクタイの結び目に指を引っ掛ける。
    「藍兄ちゃんはそんなに俺が欲しいの?」
     くい、と指を下げれば、その手首を掴まれる。
     ゆっくりと唇が重なって、ふ、と揺れた吐息。
    「私はいつだってお前が欲しいが」
     真面目くさった声音に、正直でよろしいと口端を上げて今度は俺からキスをする。
    「手加減してくれよ?」
    「善処は、する」
     すい、と横に流れた視線がおかしくて笑ってしまう。同時に、あぁ明日は俺使い物にならないなと内心で肩を竦めた。
     翌朝は案の定昼過ぎまで起きれず。怠い身体を仰向けから俯せに変えて携帯に手を伸ばす。
     電源を入れると、ロック画面に『新しいアプリのモニター対象に選ばれました』というポップアップが現れた。
     新しいアプリ、とは? 藍湛とは反対に新しいもの好きな俺は、そのポップアップをタップしてからロックを外す。
     起ち上がったアプリはシンプルな装いで俺の視線を出迎えた。
    『この度は当アプリ【いつでも一緒】のモニターにご当選おめでとうございます! 当アプリは、日常生活を快適に過ごしていただけるようにというコンセプトを元に製作された新感覚アシスタントアプリになります。本格リリースを前に一足早くテストプレイを是非ご体験ください。また、お知り合い一名様のご招待権も付与させていただきます。URLを共有し、テストプレイのアプリをDL、下記テストプレイコードを入力することで、よりお楽しみいただける仕様となっております』
    「アシスタントアプリ……か」
     元々システムに組み込まれている機能とは違うのだろうか? そんな疑問を抱くが、新感覚、という単語が俺の興味をそそった。
     二人で楽しめるのならば、藍湛と共有したいと思うのは当然の流れで。俺はのそりと起き上がってダイニングのソファに座っている藍湛の隣に腰を落とした。
    「起きたか」
    「ん、おはよう」
     こてん、と藍湛の肩に頭を乗せて、なぁなぁと携帯の画面を見せる。
    「何か、当選したらしい」
    「……新手のウイルスやハッキング目的の可能性は?」
    「あー……そう云われるとちょっと怪しいけど……」
     でも何か面白そうじゃないか?
     好奇心を思い切り発揮させてニヤリと唇で弧を描けば、藍湛は呆れ混じりの溜息を吐いた。
    「お前は昔からそうだ」
     学生時代から何も変わっていないなと肩を竦める藍湛だが、その声色に嫌味はない。ただただ相変わらずだと呆れが滲んでいるだけ。
    「な、楽しそうだから二人でやってみないか?」
    「そのような安全性が確認出来ないものを?」
    「まぁそこは、アプリを信じてさ」
     ほら、二人ならより楽しめるって書いてあるし。お前が出張の間の話題作りにもなるかも知れないだろ?
     なぁなぁ、と藍湛の肩の上で後頭部をぐりぐり押し付けたら、藍湛は未だ疑りのオーラを纏いながらもどうすれば良いのだと携帯を手にした。
    「どうすれば良いんだ」
     俺の押しに負けた様子で、藍湛は俺の頭を押し上げた。
     乗り気(という程でもないが)になってくれた藍湛に、携帯貸してとポチポチ藍湛の携帯をいじった。
    「これで良いっぽいぞ」
     開いてみようと一緒にアプリを起ち上げたら、プレリリースまであと二日、とカウントダウンをしているウサギがちょこちょこと動いている。
    「あと二日か〜、藍湛出張行っちゃうじゃん」
     プレの状態で一緒に試行錯誤したかったのに、とぼやく俺に、藍湛は未だ疑いの眼差し。
    「本当に大丈夫なのだろうか……」
    「大丈夫だって。俺の直感がそう云ってる」
     カラカラと笑ったら、やっぱり藍湛は俺を不審そうに見た。
    「プレリリースが始まったらどうすれば良いのだ?」
    「取り敢えずアプリを起ち上げたら良いんじゃないか?」
     俺のおざなりな返事に藍湛はまた溜息を吐き出して判ったと、ひとつ大きく瞬きをした。
    「もしも個人情報に何かあったら魏嬰の所為だからな」
     俺の押しに漸く乗り気を見せてくれた藍湛に俺はニヤニヤしながら藍湛の怪訝な顔の片頬を摘んでやった。
     
     
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